(101)廊下の怪異は隙が多い
~紗彩目線~
「本部よりも狭いな」
「襲ってきたら、避けれなさそうですね」
「ええ。レオン様もサーヤも警戒しておいてください」
廊下を歩きながら、レオンさんが小さな声でポツリと言った。
本部との違いは、玄関以外にもあった。
廊下が、狭いのだ。
普段は何人も行き来しても特に問題ない広さなのに、この空間の本部は最大二人まででした並んで歩くことができないのだ。
オズワルドさん・私・レオンさんで一列になって行動しているけれど、下手に襲撃されたら避けられない。
そう思いながら言えば、オズワルドさんに注意される。
まあ、この中で一番戦闘力が低いのは私だからその注意も当たってはいるんだけどね。
そう思っていると、前方__オズワルドさんがいる方向からガシャンガシャンという音が聞こえてくる。
いったい何なんだと思えば、その音はなんと鎧を着たボロボロの刀を持った男性だった。
男性は、元の世界での映画とかに出てくる落ち武者のような雰囲気を持っている。
まあ…………こんな状況なんだからきっと彼もこの空間にいる存在なんだろう。
…………とりあえず、ホラーだから『怪異』と呼んでおこう。
そう思っていると、怪異は私達に向かって襲い掛かってきた。
スパンッ!!
カバンの中にある道具を取り出そうとした瞬間、そんな音が聞こえると同時にゴトリと何か重いものが床に落ちる音が響いた。
見れば、オズワルドさんが怪異の首を斬り落としていた。
「なんで、あんな隙だらけの攻撃で勝てると思うんだ?」
灰になって消えていく怪異を見ながら、オズワルドさんは首をかしげながら言う。
いや、怪異に対して言う言葉がそれ?
いや、オズワルドさんがそういうのならもしかしたら隙だらけだったのかもしれない。
でも、襲ってきた怪異を斬り伏せて言う言葉がそれなの?
「なんで、あんなボロボロの武器を選んだんだ?あんなんだと、斬れないぞ?」
「もしかしたら、持ってくる武器を間違えたのでは?前にいましたよ。うっかり、真剣と間違えて鍛練用の模造刀を持ってきてしまった奴が」
「なるほどな。確かに、間違えたのならしょうがないな。うっかりさんなんだな」
「うっかりで首をとられるのはどうかと思いますがね」
レオンさんが首をかしげて言った言葉に、オズワルドさんが何か考え込むようにしてから言う。
模造刀…………確か真剣と同じぐらいの重量がある鍛練用の刀か。
前に、ジャックさんが振っているのを見たことがある。
あれと真剣を間違えたのか、その人。
というかオズワルドさん、平然とその人の失敗談を王子にバラした。
…………落ち武者をうっかりさん扱いする人なんてこの人たちぐらいだろう。
そう思っていると、今度は後方__レオンさんがいる方向から音が聞こえてくる。
「なっ、あれって!?」
後ろを見れば、そこに居たのは下半身がない女性の怪異。
私は、その存在を知っていた。
だって、元の世界ではかなり有名な都市伝説の怪異だったから。
足を奪っていくとか、高速で追いかけてくるとか…………そういううわさ話のある怪異、「テケテケ」。
一度、ネットで調べたことがあって出てきた画像を見て後悔した奴だ。
その怪異が、高速でこっちに向かってくる。
「あまい!!」
ヤバいと思った瞬間、レオンさんが持っていた剣を鞘に入れたまま振りかぶった。
その瞬間バキッという音が響いた後、しばらくして遠くからガッシャーンッという何かが割れる音が響いた。
…………ん?
思わず何が起きたのかはわからなくて、首をかしげてしまった。
「なんなんだ、あれ?」
何が起こったのかわからずにいると、後ろにいたオズワルドさんに聞かれる。
「確か、『テケテケ』という怪異です。高速で移動してきて、下半身と上半身を切断します」
「高速移動というが、あの早さだと曲がったり止まったり出来ないんじゃないか?」
「それが弱点と言われていますね」
オズワルドさんにそう言い、頭の中であの怪異について思い出す。
たしか、もともとは冬に電車の事故で亡くなったんだっけ?
とはいっても、轢かれた瞬間に寒さで一瞬で止血が施されるなんてあるわけないけど。
たしか北海道の最低気温ですらその寒さには到達しないし、電車に轢かれた場合切断されるんじゃなくて形自体が残る可能性は低いらしいし。
そういう意味では、あの都市伝説って誰かが考えたものなのだろうか?
そう考えていると、レオンさんが困惑した表情を浮かべて振り返った。
「…………吹っ飛ばしたんだが、アリか?」
「すみませんが、それは知りません」
レオンさんの言葉に、即座に返す。
いや、知るわけないじゃん。
元の世界だと都市伝説だったし、だいたい最終的に殺されるらしいし。
そう思っていると、オズワルドさんがため息を吐いた。
「…………奇襲されても困ります。俺が見てきます」
「俺達も行くぞ。もし、他の奴らが来たらどうする?」
オズワルドさんとレオンさんの言葉を聞き向かえば、先ほどの怪異がガラスの窓に頭をツッコんだままジタバタと両手を振りまわしていた。
…………なんか……うん、非常に同情する。
「なんか、逆さまになったごk」
「言うな、絶対に言うなよ?」
怪異に心の中で同情していると、レオンさんの言葉に怪異を斬っていたオズワルドさんが憤怒の形相でグリンッと効果音が付きそうな勢いで振り返りながら言った。
…………某キッチンに出没する真っ黒な悪魔が、この世界でも出没することがわかった。
とりあえず、見つけたら問答無用で『爆散札』を投げつけて消滅させてやる。
ちなみに『爆散札』というのは、火炎魔法と風魔法を合わせて込めたお札で、名前のとおり貼り付けた物を強い衝撃かつ狭い範囲で爆発させるものである。
しかも、通りかかったセレスさんが実験に付き合ってくれたおかげでかなり性能はいいことがわかった代物だ。
…………まあ、その時に『変態に遭遇したら迷わずこれを使いなさい』と言われたけど。
というか、ここってあの侵入者のスキルの空間だよね?
たしか『個有スキル』ってデメリットもあったはずだけど、レオンさんたちはかなり落ち着いているしもしかしたら知っているのだろうか?
「あいつのデメリットは、『自分も魂の状態で異空間内を彷徨う』ことだ。そして、この空間内から出るには、『魂状態の異空間の主を捕まえること』だ」
「…………なんで知ってるんです?」
「俺の個有スキルは、情報を知る系の能力だからな」
そう考えていると、その考えを見透かしたのかレオンさんにそう言われた。
…………なんで知っているんだ?
私が、そう考えたことを。
そう思いながら二つの意味で聞けば、そんな答えが返ってきた。
次回予告:珍しく空気を読むレオン
ツッコむのを放棄しようかと考える紗彩
紗彩「…………早く帰りたい」




