(99)人選ミス
~紗彩目線~
「これがホラーというやつですか」
「ボロ屋だな。このままだと、崩れるんじゃないか?」
「…………そういう問題じゃないと思うのですが」
オズワルドさんとレオンさんの言葉に、私は思わずそう呟いてしまった。
侵入者を知らせるブザーが鳴り響き緊張していれば、武装した男たちが襲ってきた。
振り下ろされる剣をオズワルドさんが自身の剣で防ぐと、私は他の侵入者の顔にめがけて作っておいた道具のうちあるものを投げた。
投げたのは、鶏の卵と同じぐらいの大きさの丸いもの。
レモンなどの酸っぱい果物の汁や唐辛子などの粉末を混ぜて、自由自在に物体の硬さを調整することができる【硬化魔法】を込めて固めた物だ。
ちなみに、つけた条件は『私や知り合いに悪意を持った人間が触れれば、粉末状に戻る』という条件。
そして鍛練で腕力をあげたことで、唐辛子の球はそのまま侵入者の顔にぶつかって粉末状に戻った。
侵入者は、元の世界で言う目出し帽のようなものをつけていた。
ただ目元はカバーしていなかったからか、唐辛子の球による目つぶし攻撃は成功した。
そして、シヴァさんたちと一緒に他の侵入者を捕まえて拘束した…………までは良かったんだけど。
「俺が物凄く怖いのを耐えて完成させた空間で一生過ごしてろ!!【夢の世界】!!」
侵入者の個有スキルにより、おかしな場所に来てしまったのだった。
とりあえず思ったこと。
怖いんなら見なきゃいいじゃん。
目のまえには、どこかどんよりとした重い空気を醸し出した五階建てぐらいの木造の建物が立っていた。
形状からして、騎士団の本部とそっくりだ。
まあ、本部は木造建てじゃないし、本部のようにきれいな壁じゃなくて赤黒いなにかで汚れているし。
うん、完全にホラー小説の中に出てきそうな建物だ。
建物の周りは植物が植えてあるけど、枯れていたりしおれていたりと全体的にキレイとは言い難い。
「あの個有スキルの名前からして異空間系の能力か?」
「多分、そうだと思います」
玄関から少し離れたところで、オズワルドさんとレオンさんが話しあっている。
私は、その二人の足元に居ながら周りを観察する。
建物の状態からなんとなく思ったけれど、やっぱりこの空間はどこか騎士団の本部に似ている。
似ているというか、共通点が多い。
とは言っても、騎士団の本部ほど空気が澄んでいるというわけじゃない。
それどころか、息苦しいと思ってしまうほど空気が澱んでいる気がする。
それにしても、この空間には私たち以外にもいるのだろうか?
近くにはシヴァさんたちがいたけど、あの侵入者は明らかにレオンさんを狙っていた。
ということはシヴァさんたちがここに来ていない可能性もある。
どうすればいいのかと思っていれば、レオンさんたちが困ったような雰囲気を出していることに気が付いた。
「で、ホラーだったか?いったい、どこがホラーなんだ?」
首をかしげながら言うレオンさんの言葉に思わず心の中で思ってしまった。
明らかに今の状況と目の前の建物からしてホラーだと思うんですが!?
「申し訳ありませんが、俺もホラー小説というのは見たことがありません」
「俺もだな。こんなんだったら、興味がなくても読んでおくべきだったか。サーヤは、どうだ?」
「一応、読んだことは何回かあります」
困った表情のオズワルドさんとレオンさんの言葉に同意すれば、もしもの時のために情報提供を頼むと言われた。
それを聞いて、少し意外だった。
レオンさんは練習中の時に読書が好きでいろいろな本を読んでいると言っていたから、てっきりホラー関係も読んでいるのかと思っていた。
まあ、ホラーは人を選ぶジャンルだから仕方がないのかもしれないけど。
私はホラー小説は好きだけど、お化け屋敷は苦手だし。
私の友達は、私とは逆でお化け屋敷は平気でホラー小説が苦手な人だし。
まあ、人それぞれだ。
ただレオンさんの表情からして怖いといった感じではなかったから、気になって聞いてみることにした。
「なんで、興味がなかったんですか?」
「ん?怪異なんて、出会っても斬ればいいだろ?」
「そうだな。斬ればいい」
レオンさんさんとオズワルドさんがあっけらかんとした表情で言った言葉に、私は思わず怯えた声音で叫んだこの異空間の所有者である侵入者の男に同情してしまった。
…………侵入者さん、あなた入れる人選間違えましたよ。
この二人、怪異を怖がるどころか問答無用でぶった斬るタイプの方ですよ。
絶対にお化け屋敷で暴れて、職員の方から出禁を言い渡されるタイプですよ!!
次回予告:ホラーな空間で器物破損をするお母さん(護衛騎士)
ホラーな空間で礼儀を問う王子様
怪異に同情する紗彩
紗彩「これほど驚かしがいがない人っていないでしょうね」