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昇りつめたいもの  作者: こでまり
痕跡

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7.脅迫 1

 夕方、鍋島がやって来た。出来るだけ人目につかないように副支配人室へと入り、そこで昨夜別館から持ち出した宿泊記録を見せた。


「きれいに偽装されていますね。まるでもう一つの不正はなかったかのように」


 今日、田辺が別館に返したのは田辺が偽装した書類がファイルされているものだ。副料理長のファイルも同様に偽装して戻しておいた。

 別館の宿泊記録には渡辺が言っていた印も付けておいた。偽装したものがそれを見れば気付くはずだった。


「何を仕掛けてくるかだ」


 もうすぐ日付が変わろうとする時、部屋の外で大きな物音がして、田辺は部屋を飛び出した。

 従業員通路から別館へ続くドアを開けて、菅田と総料理長が走っていくのが見えた。

 田辺がそれを追いかける。途中で菅田は倒れこみ総料理長が菅田を支える。その時初めて、菅田が頭から血を流しているのが見えた。


「何があったのです」


 田辺は叫びながら近づいていく。


「河田が菅田を殴って逃げました」


 総料理長が菅田の頭を押さえながら言う。それでも血がどんどん流れていた。


「河田はどちらに」

「下に行きました」


 総料理長の言葉を背中で聞きながら田辺は叫んでいた。来た通路を戻り、客用エレベーターのボタンを連打する。ドアが開くと同時に乗り込んだ。


「すみません。あと、頼みます」


 別館のフロントに着くと、入り口に河田の後姿が見えた。田辺は走り出し、別館を出たところで河田を地面に倒し、押さえつけた。


「どうして菅田に怪我を負わせた」


 田辺は河田の手にあったスパナを取り上げる、河田は顔を背けていた。

 話す気のない河田を起こして、ネクタイを外して河田を後ろ手に縛り建物の中に入る。

 河田をつれて副支配人室に戻る途中、先ほどの通路では菅田と総料理長、更に響子までいた。


「響子。どうして」

「私が呼びました。菅田君のことをお願いしようと。救急車は呼んであります」


 田辺は状況が呑み込めなかった。総料理長は田辺の手にある血の付いたスパナを見る。


「私も一緒に行きます」


 総料理長はそう言うと、田辺が掴んでいた河田の反対側の腕を掴んだ。


「響子、後頼めるか」

「分かった」


 響子も状況を呑み込めずにいるのだろう。

 いきなり呼び出されて来てみれば菅田が血を流して倒れて、田辺は河田の腕を掴んで引きずるように連れている。手には血の付いたスパナを持って。それでも今、菅田を頼めるのは響子しかいない。

 田辺は総料理長と一緒に河田を連れて、副支配人室へ行く。

 部屋には鍋島と弥生がいた。


「大丈夫でしたか」


 鍋島が聞いてきた。


「菅田は響子がついてくれている」

「そうですか。こちらも何とか」


 鍋島が言う。部屋には弥生がいた。

 河田を追いかけて田辺がこの部屋を空けた時に、弥生が忍び込んできたようだ。まさか鍋島がいるとは思っていなかったようだが。


「すべて、話していただけますね」


 田辺は弥生と河田に言う。二人とも無言だった。

 副支配人室のソファーに弥生と鍋島がならんで、その向かい側に総料理長と河田が座った。田辺は立ったままで。


「では、私から」


 田辺は二人に話し始めた。


「山本弥生さん、あなたは渡辺智子さんの担当顧客に対して不正をして料金を詐取していましたね。もし、見つかっても、渡辺のせいに出来ると計算して不正を続けていた。それが、早苗に見つかり脅されていたのではないですか」


 弥生は身動き一つしない。こんなことになるとは思っていなかったのだろう。田辺は諦めて話を続ける。


「早苗から不正を別の人がやったことにすると言われたのではないのですか。そして、宿泊記録を偽装した。本当は別館の事務所に保管されていたファイルを差し替える予定だったのが、突然、柏木さんが別館から宿泊記録を持ちだしたため、それが出来なかった。宿泊データも本当はあなたが消す予定だったのではないのですか」


 田辺は渡辺の話から、弥生も騙されて不正の偽装に協力したと考えた。

宿泊データを消すようにメモがあった日、弥生は急にシフトが変わったため、消すことが出来なかった。その為渡辺にメモを残した。しかし、その事を早苗に言うことは出来ずに自分がしたことにしていた。


「協力の見返りに、別館の責任者にするとでも言われていましたか」

「宇佐美さんも共犯にするから、その後任になるはずだった」


 観念したのか絞り出すように弥生が話す。


「それは誰が?」

「早苗さんです」

「早苗は初めからあなたを別館の責任者にするつもりはなかったと思いますよ。すべては自分が別館の責任者になるため、あなたを利用する為です」

「宇佐美さんを辞めさせて、私を宇佐美さんの後任にするからと、宇佐美さんの顧客の依頼を宇佐美さんに伝えなかったり、書類を隠したりしたのに、後任は早苗さんがなった。私は利用されていたのだと分かった」


 響子がこのことを知ったらどうするだろうか。どう説明しようと悩んでしまう。


「盗聴器はあなたが仕掛けた物ですか」


 松川の部屋の書類を隠したり、レストランの予約を伝えなかったりとしたのが弥生ならもしかして、盗聴器も弥生ではないかと考えた。渡辺智子を陥れた方法だ。同じことを響子にもしたと田辺は予想した。

 

「松川様の部屋の書類を隠したりしたので、その事で何か言っていないか気になって付けたけど、すぐに見つかってしまって」


 響子は盗聴器の件に関わっていなかった。これで、響子の疑いはすべて無くなったことになる。


「早苗を殺したのはあなたですか」


 田辺は単刀直入に聞いた。


「私ではない」

「誰が殺したのか知っていますか」

「多分、松川様です」


 その場にいたみんなが一斉に弥生を見る。田辺は想像していた人物の名前が出てきて、すべてが繋がった。

 弥生が仕掛けた盗聴器は早苗が松川に伝えたのだろう。それをもとに、何かを要求したと考えられる。

 早苗を影で操っていたのは松川だろう。しかし、松川だけでは出来ないこともある。それをこれから聞き出す。


「河田さん、あなたは木内副料理長の資料を偽装しましたね」

「山本さんと酒井さんの話を偶然聞いて、利用できると思いました」


 河田は既に諦めたのだろう。特に歯向かう様子はなかった。


「河田さん、あなたも早苗に何か見返りを言われたのではないですか」

「副料理長にしてくれると」


 河田が言う。


「どの顧客の分を偽装するのか、どんな形で言われましたか」

「山本さんから顧客の資料をもらいました」

「山本さん、本当ですか」


 田辺は弥生に確認をする。


「早苗さんから言われて、渡しました」

「元々あった顧客の資料はどうしましたか」

「ファイルから取り、早苗さんに渡しました」

「倉田は不正のことを調べていたはずですが、河田さんあなたはそれに気がついていましたよね。倉田をどうしましたか」

「倉田さんが本当のことを言ったら自分の立場が危うくなると思い、何とか説得しようと呼び出しました。言い争ううちに倉田さんが倒れて動かなくなって、怖くなり逃げました」

「どうしてその場で助けなかった」


 それまで静かに聞いていた総料理長が低い声で言う。あまりの迫力に河田は息を飲む。

 総料理長が言っていなかったら、自分が言っていたかもしれないと田辺は思った。

 その時、田辺の携帯が鳴り、電話に出て相手を確認した。


「総料理長、鍋島さん少し、ここをお願いできますか」

「どちらに?」


 総料理長が聞く。鍋島は頷く。


「この二人の仲間を呼びに」


 総料理長は一瞬視線を鍋島に向けたが、鍋島は不気味に笑う。総料理長は何かに気づいたようで田辺をみて頷いた。



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