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病弱女子高生香織さん

病弱女子高生香織さんは大好きな俳優さんの裸が見たい

作者: 無法地帯

 自宅療養中、パジャマのまま自室でウダウダしていると、階下でお母さんの声が聞こえました。お客さんかなと思っていると、どうやら京都の大学に通っている、お兄ちゃんが帰って来たようです。そのまま彼は、ズカズカと、ノックもせずに、私の部屋へと乗り込んで来ました。


「お兄はん、ノックはしておくんなはれ。エチケットですえ」

「怪しげな京都弁を使うな。ウチの奴も怒ってたぞ」


 お兄ちゃんは、高校時代悪事を働き過ぎて、入試の際に、ここ関東から京都の大学へと逃げて行った過去があります。


「お義姉さん、別に怒ってなかったよ?」

「お前の前ではな。京都の奴等は陰湿だから、本人の居ないところで文句を言うんだよ。(この発言はフィクションであり、本物の京都の人とは何の関係もない事をお断りします。)」


 さらに、この男、生意気にも学生結婚しているのです。


 私は、チョコンと、ベットに腰を下ろしました。兄貴は……(おっと地が出てしまいました。)お兄ちゃんは、床に胡座を組みました。


「そもそも、妹風情の部屋に入るのに、ノックなんかいるもんか」


 妹……風情……だと?


「妹風情とは、また、ご挨拶ですね。男尊女卑」

「いいや、違うね。お前が男でも『弟風情』だ。兄とは、ことほどさように、偉いモノなのだ」


 なんだ、この暴君ハ○ネロ。


「そないいうても……」

「止めろと言っているだろ。エセ京都弁は」


 コホンッ。


「いきなり入って来て、私がいかがわしい事してたら、お兄ちゃんも気まずいでしょ?」

「いかがわしい事……」


 お兄ちゃんが、ちょっと、赤面しました。


「いいい、いかがわしい事って、何だ」

「そりゃあ、じい……」

「うわあああああ」


 更に顔を真っ赤にして、手を振る兄。


「おな……」

「うわっ。うわっ。うわー。お前、信じられない発言するな。恥ずかしくないのか? 若い娘が」

「結婚までしているのに……。女の子に幻想を抱き過ぎだよ、お兄ちゃん」


 勝った。勝ちを確信した私が、勝者の視線を向けていると、野蛮な暴君は、いきなり実力行使にでました。


「なんだ、その勝ち誇った顔は。妹のくせに生意気だぞ」

「痛い。痛い。痛い。ウメボシは止めて。ウメボシは」


 ウメボシとは、被害者のコメカミに、加害者が両の拳を押し当て、泣くまでグリグリする、極悪非道の拷問であります。


「謝るか? 謝るか?」

「ごめんなさい。ごめんなさい。G(じい)ペンで、お鍋の絵を描くのが、そんなに恥ずかしい事だとは知りませんでした。許して下さい。許して下さい」

「口の減らない奴だな。これでもか。これでもか」

「痛たたた。ごめんなさい。ホントに痛い。止めて下さい、お兄様」


 そこまで媚び諂うと、やっと兄も嗜虐心を満たしたのか、拳を収めました。私は、ほつれ髪をソッと撫で付けました。


「これに懲りたら、二度と兄をからかおうなどとは、思わぬ事だな」

「はい。はい。それはもう、重々承知しております」


 兄は、まるで、征服者の態度です。くくく、悔しいぃぃぃ。男の子に生まれたかった。男の子なら、成長した暁には、こんなヤサ男に負けはしないのに。ワンチャン有りまくりだったのに。女の子で、あまつさえ病弱に生まれついてしまったばっかりに、この男の暴虐に屈するしか出来ないのです。なんて可哀想な私。ああっ、私は可哀想。


「何スッキリした顔をしているんだ?」


 お兄ちゃんが私の花の(かんばせ)を見て、問うて来ます。自分の惨めな境遇を堪能すると、気分が切り替わったのです。


「で、お前、最近どうなんだ?」

「最近?」

「身体の調子とか。」


 私は答えず、肩まである髪を、バサッと掻き上げます。


「その行動の意味するものは何だ?」


 重ねて問われても答えず、またバサッと……。


「分かんないかな?」

「何がだ?」

「シャンプー変えたの」


 変えちゃったの「アサガオ」に。


「その『アサガオ』が何だというのだ」

「彼が晴男でね……」

「彼……」


 兄が変な顔をします。


「病院と学校(女子校)を行ったり来たりしているだけのお前に、彼なんか出来るわけないよな? 何だ? 妄想か? イマジナリーフレンドってヤツか? 精神年齢三歳くらいだから、イマジナリーフレンドもあり得るのか?」


 失礼です。失礼過ぎます、この男。


「違いますぅ。ちゃんと居るんですぅ。ちょっと不思議な晴男さんの彼が」

「そのフレーズ、なんか聞いた覚えがあるぞ。CMだな。シャンプーのCMだよな」


 そう、彼と私は、テレビジョンのスイッチが入っている時にしか逢えない、数奇な運命の恋人同士なの……。


「それって、単なるファンだよな」

「それで、彼はとっても傷付きやすくて……」

「それもCMだよな」


 もうっ。お兄ちゃんったら、テレビっ子。


「思い出したぞ。そういえば、ウチの奴が言ってた。香織ちゃん、最近、高林三生(たかばやしさんせい)さんにお熱みたいだって」


 三生さん。三生さん。その名を思うだけで、胸が焦がれます。三生さんは、国営放送のドラマでも使われる程の、実力派俳優さんなのです。


「っていうか、最近の動向を訊ねたのに、なんで高林三生の話になるんだよ」


 呼び捨てにしないで。三生さんよ。


「うん、ほら。私、この間まで入院してたでしょ。退屈で、自然とテレビ観る時間も増えるんだけど……」


 意外と、意外とテレビ出てるんです、三生さん。ドラマだけじゃなくて、CMとかバラエティにも。私だけがヒッソリ愛していると思っていたのに、大層な人気者だったのですね。嬉しいような、寂しいような……。


「つまり、テレビ観てたってのが近況なのか。それしかないのか」

「でもね、悩みもちょっとあって」

「おっ、何だ。どうした? 相談か? お兄ちゃんに相談か?」


 三生さんってば、家系ラーメンが好きとか言うの。どうしよう。デートに行って、家系ラーメン屋さんに行くとか言い出したらどうしよう。盛りが凄いって聞くし、私きっと食べ切れない。でも家系って、残したりしたら、メチャクチャ怒られそうだし……。(偏見です)そもそも、食べ物残すなんて……。


「そんな心配しなくていいぞ。デートなんて行かないから」

「あとね、山登りするみたいなの。心配だよね。でも『行かないで』なんて、我儘言えないし」

「聞けよ、俺の話」


 あとね、あとね。バラエティとか観てると、とっても可愛いの。皆んなで一緒に歩いていた筈なのに、いつの間にか、一人だけ違う所行ったりして。あと、あとぉ……。


「落ち着け。落ち着くんだ、妹よ。俺的には、その行動は大人の男としてどうかとは思うが、お前が可愛いと思うんならそうなんだろう。分かったから、落ち着け」

「分かってくれた? 分かってくれた? 三生さんの可愛さ」

「うんうん。良く分かったよ」

「ああっ。どうしよう。どうしよう。三生さん。三生さん」


 胸の高鳴りが止まりません。小鳩の様な胸を膨らませ、ハアハアと可憐に吐息を漏らす私……。


「狼の威嚇みたいな呼吸音になっているぞ。身体に障るから落ち着け」


 狼の威嚇……。


「まあ、お前も寝てばかりいて発散出来ないから、欲求不満で思い詰めるんだよ。何か欲しい物とか有るか? 差し入れしてやるぞ」


 欲求不満……。人を変質者みたいに……。少しカチンと来ましたが、欲しい物と言われて、顔が赤らむのを感じました。アレを頼んじゃおうかな……。


 ベッドから降り、床に跪いて、兄の手を取る私。


「なんだ。なんだ。急になんだ」

「どうしてそんなに狼狽えるの? もしかして、お兄ちゃん、私のこと異性として好きなの?」


 自分で言うのもなんですが、私は美少女です。(キッパリ)後にも先にも、お義姉さんと付き合った経験しかない兄が、こんな西施を思わせる美少女に近寄られて、邪な気持ちを抱くのはしょうがないとしても、やっぱり兄妹なんだし……。だめ、困っちゃう……。


「お前、もう一度ウメボシ喰らいたいのか?」

「…………。まあ、それはそれとして。」


 私はギュッと、両手で兄の手を握りました。


「欲しい……欲しい物が有るの。お兄ちゃん。」

「お、おう。何だよ。何が欲しいんだ。」


 乙女の私は恥じらいながら、それでも思い切って言ってみました。


「amuamu」

「はい?」

「だから、amuamu」

「女性向けファッション誌の?」

「そう」


 兄は暫く呆けた表情で、私の美しい顔を眺めていました。


「いや、なんかもっと凄い物を頼まれるのかと思っていた。青酸カリとかヒ素とか……」


 なんで?


「お前、気に入らない奴の飲み物に、さりげなく毒物を混入させたりとかしそうだろ」


 私をどんなサイコパスだと?


「まあいいや。amuamuな? 後で駅前の本屋に行って、買って来てやるよ」

「違うの。違うの。今売っているヤツじゃないの」


 amuamu20○○年の○月○日号が欲しいの。


「…………。えっと……、えらくピンポイントに攻めてきたが、なんで、その号なんだ?」

「いやん。いやん。そんなの恥ずかしくて言えないもん。お兄ちゃんのエッチ」

「…………。今、俺は最高に苛々しているんだが、久しぶりに腕ひしぎ十字固めを味わってみるか?」


 腕ひしぎ十字固め。それは、愛らしい中学生だった頃の私に、受験勉強の憂さをはらす為、兄が頻繁にかけていた技です。


「酷い、酷い。自宅療養中の妹に、なんでそんな血も涙もない提案が出来るの?」

「それが嫌なら、サッサッと理由を言えよ」


 えーん、恥ずかしいよぉ。でも言わないと腕ひしぎ……。


「ヌ、ヌードが……」

「なんだって?」

「高林三生さんのヌードが載っているの!」


 うわわわわわ。言っちゃった。恥ずかしい。恥ずかしいよぉ。


「見たいの? 男の裸」

「違うよ? 何言ってるの? 男の裸なんか、これっぽっちも、興味ないよ。あんなゴツゴツで、ムキムキで、毛むくじゃらなの、全然興味ないもん。どちらかというと、私、女の子の裸の方が好き。スベスベで、ツルツルで、柔らかくて。綺麗に括れた腰のラインなんか見ていると、ホウッて、溜息が出ちゃうくらいだよ。だから、男の裸なんか全然見たくないの。そうじゃなくて、三生さんのだから見たいんだもん。誰だってそうでしょ? 好きな人の事は何でも知りたいでしょ。いやらしい気持ちじゃないの。そう、知りたいの。三生さんの全てが知りたいの。これって自然な感情だよね? っていうか、三生さんを、そこらの男と同じと思って欲しくない。三生さんは、高林三生っていう別の種類の生き物なの。女の子を性的な目でしか見れなくて、胸が大きいとか小さいとか、そんなランク付けをするような、世の男性達とは、一線を画す存在なの。三生さんは性欲なんか持ってないの。だから、そういう清らかな存在であるところの三生さんの裸を見る……、鑑賞するっていう行為は、もはや宗教画の閲覧と同じ、人間として、最も崇高な行いの一つなの!」


 分かった? お兄ちゃん、分かった? 思いの丈を吐き出した私は、目力を込めて兄を見詰めました。


「えっと……。男の裸が見たいなら、俺のを見せてやろうか?」

「聞いてた? 私の説明聞いてた?」

「いや、なんか、ムッチャ早口で言ってたから、途中で言葉が頭に入らなくなってた」


 なんて愚かな兄なのでしょう。神が遣わした三生さんという天使の在り方について、滔々と述べて上げたというのに……。いつか審判の日が来た時、この愚兄は救済の網から弾かれてしまうんだわ。そう思うと、我知らず涙が……。


「泣く事ないだろ。分かった。分かったから。ちょっと待ってろ」


 美少女の涙には勝てず、兄はスマホをポチポチと操作します。


「おっ。通販サイトに1円で売ってるぞ。よしよし、カートに……」

「だめぇぇぇ!」

「…………。何がダメなんだよ」


 1円って、中古でしょ? 中古はイヤ。他の女の指先が触れた三生さんの写真なんてイヤ。耐えられない。そもそも、三生さんを売り飛ばすような人間からなんて買いたくない。


「えっ、だってお前。新品だと、この二千倍以上するんだぜ。プレミア付いてるし」


 送料込みなら八倍くらいでしょ。


「お願い、お兄ちゃん。買ってくれたら何でもするよ。そうだ、お兄ちゃんの大好きな猫耳付けて見せて上げようか」

「俺にはそんな性癖はない」


 んっ? 高校生の時、ベッドの下に「コスプレ女の子ニャンニャン特集」とかいうムック本を隠していたような……。


「じゃあ、じゃあ、得意料理をご馳走して上げる。カレーとか、シチューとか、肉じゃがとか、ビーフストロガノフ、卵焼き……」

「得意っつうか、作れるモノ羅列しているだけだよな」

「ま、まだまだあるもん。青椒肉絲とか、麻婆豆腐とか、回鍋肉……」

「味付けメーカー任せだよな」


 再び兄の手をギュッと握り締める私。


「お願い、お兄ちゃん。香織の一生のお願いだよ」

「確か、二ヶ月前にも、そう言って俺から唐揚げ一個取り上げたよな。お前の一生何回あるんだよ」

「細か。二ヶ月前の唐揚げ一個の事なんて、なんで覚えているの。そっちの方が怖い」

「ようし、良い度胸だ。お前、療養期間終わったら覚えていろよ」


 まあ、私は不治の病っぽいので、療養期間が終わるなんて日は来ないんですけど。


「えっ、お前の病気って治らないの?」

「うん、そうみたい」

「死、死ぬ……の?」

「そりゃ、いつかはね。サンジェルマン伯爵じゃないんだから」


 不治と言っても死ぬわけじゃなく、一生病気と付き合っていかないといけないみたいです。


「早く言えよ。死ぬ程焦った」

「うん。だからamuamu買って」

「…………。何が『だから』なんだよ。文脈繋がってないだろうが」


 ブツブツ言いながらも、ポチってくれるお兄ちゃん。並の可愛いさではない可愛い妹のお願いには、やっぱり逆らえないみたいです。


「むきゃー!」

「何々? お兄ちゃん何?」


 突然狂った様に、兄が私の頭をワシャワシャして来ました。いやいやいや、髪が乱れるから、止めてぇぇぇ。


「長生きしろよぉ。」


 うんうん。多分、あと二十年後くらいに不老不死の薬が出来て、私もお兄ちゃんも、千年くらい生きるよ。


「約束だぞ。」

「はいはい。分かったってば。」


 甘えん坊のお兄ちゃんと肩寄せ合いつつ、子供の時みたいに、寄り添って床に座り、冬の日の弱い日差しに照らされて、まったり過ごす昼下がりの一時なのでした。

女性視点の文章なので「うおおお、女子高生の書いた小説かあああ」と勘違いする人がいると大変なので、一応お断りしておきますが、書いてる人は男です。オッさんです。夢を粉々に打ち砕いてすみませんでした。

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