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三話 この道行けば最強に続いてる。気がする。前編

荷物を回収し、夜になるのを待って校舎を抜け出した想は、キャンプ地まで戻る。そこで一眠りし、朝になるや出発した。

リュックを担ぎ、獣道を走る。リア充さまのおかげで足の怪我もすっかり治り、昨日まではろくに歩けもしなかった足が、今は全力疾走しても問題ない。

「……っ、くそ」

舌打ちし、苛立ちを前へ進む活力へと変える。

武術に筋トレはないが、体力はあったほうがいいのでランニングはしている。そのため、二時間くらいなら走り続けられる想だが、森の中では勝手が違った。30分ほどで息が上がり、川のほとりで休憩する。

顔を川につっこんで水を飲む。リュックを下ろし、靴も脱いで足首を回した。

「あー……くそ、あのリア充どもならもっと進めるんだろうな」

女神フレイヤの加護とやらを受けた彼らは、身体能力も上がっている。この程度の森、あっというまに駆け抜けられるのだろう。

自分がもし、だれかに愛されていたら。たとえば、あの親とかいう生き物にでも――、

そこまで考え、やめる。人に頼るなど弱者の思考。だれも助けてくれないならだれの助けも要らないほど強くなればいいだけの話。

もう一度、入念に足首を回し、水を飲んだ想は立ち上がる。そして、歩き出した。森を抜けるような移動なら走るより歩いたほうがいい。遅いが、確実だ。

日が傾いてくると、想はカバンの中のナイフを取り出し、太めの枝を切ってテントを作る。家庭科室と理科室から大量のチャッカマンとマッチをくすねたので、火には困らない。それから自分の身長くらいの長さの枝の先を尖らせ槍を作り、それで魚をとった。飯を食ったら後は寝るだけだ。

朝になるや寝床を離れ、木の実で朝食をとる。それから稽古。

四把捶(しはすい)、という型稽古だ。最初の構えと、頭突き、突き、体当たりの四つの動作から成る。ただ動作を繰り返すだけではなく、目の前にありありと敵を想像し、ありったけの憎悪と殺意を込めて攻撃する。これによって一撃必殺の威力を養うのだ。

想の敵、それはつまりリア充。リア充の象徴といえば、あの男。友達がたくさんいて人気者で、小柄な癒し系の美紅とかいう彼女を持ったリア充、東雲翔。学校がここに転移した日、軽く手を振るっただけでオークの首を飛ばしたあの男。彼女、友達、成績、力、すべてを持った存在。そのリア充を、一撃で爆散四散させるほどの威力を練る。

「リア充、爆散しろぉおおおお!!!!」

叫び、より一層の殺意を込めて、想は拳を打ち出した。

稽古を一通り終え、汗を乾かしていると、重い足音が響いてきた。木々をかき分けあらわれたのは、棍棒を持った二足歩行の猪、オーク。

「ぐおおおおおおおお!!!!」

想を見つけるや、雄叫びをあげ突進をかけてくる。想は魚を取るときに使った槍をオークの喉元に突き出した。槍は簡単に折れるが、オークの動きも止まる。その隙を逃さず、槍を反転させて持ち手のほうでオークを殴りつけた。次いでみぞおちに前蹴り。よろけて後ろに下がったオークに、想はすかさず飛び込んで肘打ちを決めた。それでオークはさらに後ろにさがって、木にぶつかり地面に倒れる。想はナイフを拾い、オークの喉元に突き刺した。

血しぶきが舞い、オークが息絶える。

「ようやく二匹目か」

返り血を吹き、想はリュックを背負う。あのリア充野郎は初日で十匹は殺してた。この程度じゃだめだ。これじゃあ弱い。これじゃあ勝てない。

もっと強く、だれよりも強く。最強に。

想はオークの死骸に目もくれず、先を目指した。


二日目は湖のそばで野営し、三日目は水場がなかったので、飢えと喉の渇きに耐えながら野宿。四日目はオークを一匹殺し、さらに五日目、オークの群れと出会った。三匹殺し、あとは適当に殴って逃げる。六日目、七日目と旅は続き、それでも森は途切れることなく延々と続いている。

そして、八日目。

突然目の前がひらけた。ゴールかと思い、駆け寄り、そこで慌てて立ち止まる。

崖だった。

目算で20メートルくらいの、切り立った岩壁。下は森で、その先もえんえん続いている。

「……マジか」

想は呆然と呟いた。


死ぬ思いで崖を降りた想はそこで一息つく。蔦を命綱にしてとはいえ、足を踏み外したらまず間違いなく死ぬ。緊張で肉はこわばり、それでも気力を振り絞って降りてきた。手は傷だらけで、服もかなり破れている。

「……疲れた」

呟き、想は横になった。さすがに今日は、これで休憩にしよう。

そのまま眠り、夜中、妙な物音で目が覚めた。

月明かりがあるので、真っ暗というほどでもない。野宿続きで目も慣れている。だから、視界は問題ない。問題は周りをオークに囲まれていたことだ。

棍棒を持ったものが多いが、素手のものもいる。ほんの数匹だが、四足歩行のオークもいた。みな目をぎらつかせ、想を囲んでいる。

「……こーんな熱視線に囲まれたの始めてだわ」

これが全員女子だったら。

そんな冗談を言える程度には余裕があった。まあ、全員ぶっ殺せばいいだけだ。

自作の槍を手に、想は群れに突っ込んだ。

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