怪盗 アルセーヌ・ルンパ
我が家にルンパ君がやってきた。
会社の忘年会で景品として当たった最新式のルンパ君。円盤の形をした自動で動く最新式の掃除機だ!
家にはワイフが居るので掃除はチキンと行われているが、初めて見るルンパ君に嫁さんも興味津々の様だ。
「ルンパルンパ~♪」
「リンダじゃないぞ……」
古の名曲に合わせながらルンパ君を眺める愛しい妻。私は説明書を読みながらルンパ君が戻る用の本拠地を設置している。
「このルンパ君made in Indiaって書いてある……」
「ルンパ君のくせにインド人なの!?」
「インド生まれの日本育ち……かな」
ルンパ君の設定を終えた私は、ルンパ君の起動スイッチを押した。
『オハヨウゴザイマス! オソウジヲ カイシシマス』
ルンパ君から放たれる機械的な音声に、私と妻は顔を見合わせ笑った。
「可愛いわね」
「可愛いね」
ゆっくりとリビングを進むルンパ君の観察もそこそこに、妻は外出の準備を始めた。今日は二人の結婚記念日なので外で美味しいご飯でも食べようと言う魂胆だ。私もいつもより僅かにオシャレな服をチョイスし、リビングへと戻る。
リビングでは妻がせっせと化粧をしている。私は邪魔にならないように隅の方で着替えを始めた。
―――コロン
脱いだ服が机に置いてあった小さな箱に当たり、箱は床へと落ちた。
「おっと……」
―――カラカラカラ
落ちた衝撃で箱が開き、中から結婚指輪が出てしまった。
「おっとっと……!」
慌てて飛び出た指輪を探すが、何やら見付からない。どうやら隙間に入ってしまった様だ……。これはマズい。早く見つけなくては妻に何を言われるか分からないぞ!
慌てて落ちたと思われる先を探す!
しかしそれらしき物は何一つ落ちてはいない。それどころか埃一つ落ちてはいない―――ん?
―――私の目の先にはゆっくりと掃除に勤しむルンパ君が居た。
「……犯人はアイツか」
私はルンパ君の電源スイッチに手をかけようとした……その時!
「アナタ、洗面所の上からティッシュの替えを取ってくれない!?」
妻の声が私の手を止めた。私は一瞬ビクッとしたが、妻の声を無視してルンパ君を開けるのは些か怪しいと思い、洗面所へとティッシュを取りに行った。
「はいよティッシュお待ち―――!!」
私は我が目を疑った!
何と! 妻がルンパ君の電源スイッチを押し、止まったルンパ君を手にしているではないか!!
「な、何をしてるんだ!?」
「な、何って……そろそろゴミがいっぱいかと思って開けようとしたところよ!」
「ま、まだルンパ君が掃除をしているでしょうが! それに、ルンパ君の掃除は私がやるから、君は出掛ける準備をしたまえ!」
「嫌よ! ルンパ君の初めて(の掃除)は私が貰うのよ!!」
妻が持つルンパ君へ手をかけ強引に奪おうと引っ張るも、妻は抵抗の意思を見せ手を離そうとしない。
「何をそんなに拘ってるんだ!?」
「アナタこそ何よ!?」
力では私に軍配が上がるはずなのだが、妻の初めて見る鬼の形相に唯ならぬ気迫を感じた! 力比べは拮抗し、ルンパ君はミシミシと声なき悲鳴をあげだした。
―――バギッ!!
ルンパ君のゴミ溜めの蓋が外れ、床へと勢い良く落ちる。私はその光景に肝を冷やした!
―――カラカラ ―――カラカラ
慌てて飛び出た指輪を妻に気付かれぬ様に拾い上げる私。そして妻も私に気付かれぬ様に何かを拾い上げていた。どうやらお互い何かを隠したかった様だ。私が妻に背を向けて手を開くと、そこには妻の結婚指輪が握られていた……。
「そっちは私のよ……」
私は顔を妻の方に向け、静かに手に乗せた指輪を妻へと差し出した。同じく妻の掌には私の結婚指輪が乗っていた……。
「そうか、君もだったか……」
「ふふ、似たもの夫婦って訳ね……」
お互いに顔を見合わせ、思わず笑みがこぼれた。何を意固地になっていたのか。何だかスッキリとした気持ちになった私達は支度を急ぎアパートを出発した。
「急ぎましょ♪ 予約した豪華海鮮丼ウニスペシャルが私達を待ってるわよ!」
「ああ。それと帰ったらルンパ君を治してやらないとな」
二人は手を繋ぎ、結婚した当初を思い出しながら街路樹の先へと向かっていった…………
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