表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛と憎しみのはざまで  作者: 四方山人
1/3

愛と憎しみのはざまで

「ほんとに、もうどうしていいか分からなくて」


 その青年は、困り切った顔で深いため息をついた。

「父の恩は、身にしみて分かっています。でも、あの時は、本当にもうどうしようもなくて。ただ、誠心誠意説明して、分かってくれたとばかり思ってました。けど、そうじゃなかったんですね。私が甘かったんです」

青年はバッグから封筒を取り出した。

「おととい、こんな通知が郵送されてきました」

 内容証明郵便だった。対立する相手に要求する具体的な内容、そしてその通知を相手が実際に受け取った日時を公的に証明する、一番確実で手っ取り早い方法だ。

 青年は封筒の中身を取り出して文面を見せてくれた。


『当方が貴殿に貸付けた以下の金員の返済を求める。

1,平成22年4月から平成28年8月の期間、面会の上手渡した月当たり12万円を積算した合計768万円(12万円×64カ月)。当方がこの金員を貴殿の母上に贈与した事実はなく、従って、これは当然に貸付金である。

2,平成28年6月26日(日)に、恵比寿のホテルウィンダムでとり行った貴殿の結婚式費用として当方が支払った480万円。そもそも、貴殿から結婚式への出席を拒絶された当方が結婚費用を負担する理由はまったくない。従って、これは贈与ではなく当然に貸付金である。

以上の合計1248万円の返済期限は、本書面到達の翌月(11月)末日とする。

もし万一、期限までに返済いただけない場合は、法的手段をとることをあらかじめ通告する。

平成28年10月1日』


「これは、お父様からの請求なんですね」

「はい」

「それにしても大金ですね。この内容に心当たりはおありなんですか?」

「お金を父から受け取ったのは事実です」


 青年は木下和樹28歳、柔和な顔立ちとやわらかな物ごしは誰にでも好感を持たれるだろう。内容証明で返済を請求してきたのは実の父である木下幸次58歳。

 青年の父と母は、平成22年3月に協議離婚している。当時、和樹さんは大学に入学が決まったばかりの18歳だった。

 離婚原因は、家の商売がうまくいかなくなるのに合わせて父と母の関係が急激悪化したこと。父は精神的に不安定になって暴言や問題行動を繰り返し、それに耐えきれなくなった母は父を完全に拒絶した。中学から高校にかけて、和樹さんは、家庭内が見る見るうちにすさんでいったのを鮮明に覚えている。でも、彼がまだ幼かった頃、木下家は人もうらやむような裕福で仲むつまじい家庭だったという。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ