表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死の丘  作者: 呪卍
1/1

1

その丘には無と白く積もった極寒の世界が広がっていた。

その丘は、ただ静かに。

静かに次の死の訪れを待っていた。




「おじさん、おはよー!」

その娘はソファに横たわる俺に無邪気な笑顔を見せていた。

「もう朝かな?」

そう言うと中年の男性は頭を無造作に掻き洗面台へ向かう。


「もう。何言ってんの!もうお昼回ってるよ!」

一呼吸置き、娘はさらりと禁句を言う。

「今日もお仕事の依頼は来てないの?」


「・・・・・・来てないね。」

彼は遠い目をしていた。洗面台の鏡に映った自分のその先を。


大企業の研究者だった彼は、多忙さにより婚期を逃し続け、企業の仕事に対して無気力になり仕事を辞めた。

自由気ままに生きたく退職金で探偵事務所を構えた。人より論理的に物事を考えるのに自信があったからだ。


しかし、現実は厳しかった。

事務所を構えてからというもの仕事はほとんど来ず、たまに来る浮気調査やペット捜索依頼で食い繋いでいた。

(人生詰んじゃったかもなぁ・・・・)

最近ではそう思うこともしばしばだった。

(何か実績が。。実績が欲しい!有力な探偵だと思われ、仕事がガンガン舞い込んでくるような何かが・・・!)




「もしもーし。おじさん聞いてる?」

彼は現実に引き戻された。


「明日数学のテストなんだけど・・・・教えてくれない?」

彼女は【咲良/さくら】。

私の姉の娘、つまり姪だ。今年の春に高校進学した16歳・・・つまりJKだ。

事務所の掃除、雑務を手伝ってくれる代わりに私が勉強を教えている。

これはギブ&テイク。決してバイト代が払えないのではない。決して。


「いいよ。苦手なとこカバーして点数稼げるようにしよう。」

私はとびきりの笑顔で答える。

(バイト代の話をされると困るので精いっぱい尽くさせてもらいます!私は掃除が出来ないし!)


咲良は依頼者との打ち合わせ用の机とソファを使い、対面のソファから私のわかりやすい解説を入れていく。

(今日もこんな感じで1日が終わってしまいそうだな・・・)


日も傾き始めた頃に咲良にコーヒーを出してやる。

「そろそろ苦手分野もカバーできそうじゃないか?一息つこう。」


テストに対して余裕が出てきたのか咲良が話し始める。

「昨日のテレビで未解決事件の特集やっててさ、すごく怖かった~って話をね、クラスでしてたら、男子達からテスト終わったら肝試しに行こうって言われちゃった。」

「友達も乗り気だったしお母さん許してくれるかなぁ?」


あー。もうすぐ夏だなぁ。肝試しか・・・・。

青春・・・懐かしいなぁ。

しかしっ!!

「いいかい咲良。肝試しに行こうなんて誘ってくる男は高確率で、いや100%下心を持ってい言っている。」

「真に肝を試したいなら一人で行くべきだ。だがそうしないのは咲良とお近づきになりたい卑劣な男の思惑なのだよ。」

私だって姪はかわいいからな。客観的に見ても咲良は誰に似たのか、かわいい部類でもあるし心配だ。


「えーおじさん考えすぎじゃない?そこまで考えてないと思うよ~?」

咲良はまだ無垢だな。


「いーや!あり得ないね。男はそうだぞ。わたっ・・・」

(私だってそうだったとは言えないな・・・・)


「わたっ???」

咲良は目を見開いてこっちを覗きこんでくる。


「いやっ、わたー・・・わたー・・・」

「!!」

「そうだ綿菓子!行くならお祭り!それくらいにしときなさい!」

「きっとお母さんも肝試しは反対するぞ!」

(ふー危ない危ない・・・)


「ぅん?? んーーじゃあそうするよ」

首を傾げなら咲良は返事したが、納得してくれただろうか。


「それにしても肝試しねぇ・・。ん?そういえばなんで肝試しの話になったんだっけ?」


「だからークラスで昨日やってた未解決事件の・・・」


「!!!」


「それだっ!!」

「それだよ!何故気付かなかったんだ!依頼が来ないならこちらから行けばいい。最大級の難問である未解決事件をこの手で解決すれば必然的に私は注目される!」

「フハハハハハハハハハハーーーー!」


「あのーおじさん?誰もわからないから未解決なんだよ?」

かわいい姪が芯を捉えた発言をしてくる。


「それでこそ、解決すれば名が上がる!ふはははー!有名になったらバイト代はずんでやるぞ咲良ぁーー!ははははははー!」

突破口を見出した私は有頂天となり、この時重大なことに気付いていなかった。

そう、バイト代を払うと言ってしまったことに。


「やったー!おじさん期待してるよー! ・・・って聞こえてない・・・」



正気に戻った私は咲良に聞いた。

「咲良、昨日やってた未解決事件というのは?なんだい?」


「たしか、北海道で起こった事件だったよー。大学のサークルで登山したけど10人中9人が死んじゃって、途中で引き返した1人は助かったみたい。」

「50年以上前の事件だってさ、すごくこわかったよ。」


更に咲良に聞いた。

「録画とかしていないか?一応見たい。」


「あるよ。今度もってくるね。」

そう言うと咲良はコーヒーを飲み干し、帰り支度をした。

「じゃあね。おじさん!」


「ああ。気負付けてな。」



後日、入手した番組を見ることになる。

その内容はひどく不可解で不気味な物だった。



1960年代冬、事件は北海道のとある山で起こった。

大学サークルの10人中9人が登山中に変死していた。1人は途中で引き返し助かったようだ。

登山中の行動はメンバーの1人が日記をつけていたようで事件があった直前まで詳細に記されていた。

9人が亡くなる前、とある丘でキャンプしたのが最後、発見時はテントを中心とした1.5kmの範囲内でバラバラに点在した位置で発見されていた。

4人が谷底に落ちたようでそれが原因か3人は出血多量が死因だった。その内の1人は目と舌が無かった。

最大の謎とされているのが、真冬の極寒の山だというのに死体はすべて薄着で靴を履いていなかったということだった。

何かに怯えてテントから逃げたのか・・・・そしてそのまま凍死してしまった。

テントは何者かに「内側から」破られていたがそれ以外に荒らされてはいなかった。

破られた場所から何か侵入したのだろうか、しかし周辺に登山者たち以外の足跡は無かった。

番組では、狼や熊に襲われた説、地元民に襲われた説、秘密の核実験説、UFO説と散々煽った挙句、

キャンプ地特有の地形から生み出された風が原因で竜巻と低周波音を浴びパニックになったことから飛び出したとあった。

私にはそれが納得のいく答えにはどうしても思えなかった。


「まずは、仮定と否定から始めるか。」

私は本格的に推理することを決意し、事件の起こった現場へ向かうことにした。




「おじさん、おっはよー!」

「あれ?今日は起きてるね?何してるの?」


北海道へ向かうため荷造りをしていた私に咲良は驚いているようだった。

「この前の未解決事件、解決しようと思ってね。今から北海道に行ってくるよ。」


ぱちくりと目をあけながら咲良は言う

「えーこの前の本気だったの!?ずるい!私も行く!」

「連れてってーー!連れてけ!」


「いやいや、お祭り行くんだろ?」


咲良は止まらない。

「だって、せっかくの夏休みだし、こっちは暑いし、北海道!いきたい!」


おじさんは負けない。

「旅費が余計にかかっちゃうよ。何日も離れるしさ。貧乏だから!おじさん。」


咲良は俯く

「・・・バイト代もらってない。」


ビクッ

そう言われるといくら勉強教えていたとはいえつらいものがある。

何せ掃除洗濯雑務、すべて咲良にやってもらっていたからだ。

今まで4か月働いて月3,4万のバイト代だったとしても12万~16万じゃないか。

旅費の方が安くつくのでは?

打算的な私の思考はすぐに金を計算した。


「いやーちょうど助手が欲しかったんだよ!いや、ホント!」

「咲良来てくれないかなー。なんてさ!ハハ・・ハ」

バイト代の話をした途端、掌を返したが、そんなことは気にせず咲良は


「準備してくる!」

笑窪を見せ準備しに戻った。


咲良と合流し空港まで車を走らせる。

黙っている私に咲良は問いかける。


「あれから調べてみたんだけど。頻繁にUFOみたいなのが目撃されてたみたい、それに亡くなった人からは通常の2倍のほうしゃのう?が出たんだって~!」

「ほうしゃのうを調べようとしたら圧力がかかって捜査終わっちゃったみたい。」



「私もそれは調べたよ。空港に向かうがてら、そのあたりの説から否定して行こうか。」

「まず、UFOは論外だ。現実的でないし、それですべてが片付くとは思えない。また、秘密裏の実験施設があったとして死因は凍死だ。それに2倍の放射線が出ていても人体に影響はないよ。」

大量の放射線を浴びて失明して飛び出したという線も、2倍しか残っていない放射線と、1.5kmも失明した状態で動くのは自殺行為だ。登山サークルならそれくらいわかるだろう。この2点で否定される。


「引っかかるのは放射線を調べようとしたら捜査が強制終了したことだね。あながち実験施設があったのはまんざらでもないかも。」


「ほらー!やっぱり秘密の実験だよ!」

得意げな咲良だが


「おそらく直接事件には関係していないよ。」


「んーそうなのかなぁ・・・」

「じゃあおじさんはなんだと思ってるの?」


咲良にすでに仮定として出来上がった私の説を話す。

「・・・・あれは多分殺人事件だよ」



「そうなの!?どうして?」



「まだ確証はないけれど、テントの破れは中から破られたものだった。恐らくテントから脱出した時に破ったものだろう。」

「じゃあどうして正面から出なかった?出られない理由があるのは?雪崩でふさがっていた?その雪はいつとけた?緩やかな現場の斜面で?失明していた?2倍の放射線量で?どれも違う。」


咲良は言う

「じゃあイエティだよ!雪山だし!」


「現場には9人以外の足跡が無かった。イエティなら足跡が残るね。」


「じゃあ・・なに?」



「ヒトだよ。人間だ。人間がテントの正面にいたんだよ。人間は足跡を重ねることで足跡を消せる知能があるよね。あの状況だとそれしか考えられないんだ。」

「しかしどうやったらみんながバラバラに慌てて逃げ出すかが今一見えないけれどね。」



「・・・・・・」

「本当に殺人?・・・・」



「10中8,9はそうだろうね。そう思うから行くんだよ。怖くなったら帰っていいんだよ。」



「怖くないもん。すごい昔のことだし!」

「何かあったらおじさんが何とかしてくれるでしょ?」



「・・・時間は稼ぐからその隙に逃げてくれ。」


「倒せないんだ・・・」

どうやら咲良をがっかりさせてしまったようだ。


事件をまとめよう。

この事件は、1960年代冬に北海道の北部で起きた、若い男女9人がスノートレッキング中に不可解な死を遂げたという怪奇事件である。当時の調査によれば、この一行は気温が-30℃という極寒の中、テントを内側から引き裂いで裸足で外に飛び出した形跡があり、犠牲者の遺体の一部には眼球と舌を失い、頭蓋骨が損傷し、衣服から高い線量の放射能が検出された者もいたという。この事件には生還者が存在しないため、完全な迷宮入りとなっている。

この一行は、現在のH大学の在学生および、卒業生の男性8名・女性2名のメンバーから構成されている。


1. 滑川 剛志

性別:男性、年齢:当時23歳、

H大学の卒業生であり、この一行のリーダーを務めていた。


2. 及川 亜季

性別:女性、年齢:当時22歳

H大学の在学生だった。


3. 西村 真美

性別:女性、年齢:当時20歳

H大学の在学生だった。


4. 山崎 秀樹

性別:男性、年齢:当時24歳

H大学の在学生だった。


5. 萩原 進

性別:男性、年齢:当時23歳

H工科大学の卒業生だった。


6. パプリチェンコ 本田

性別:男性、年齢:当時24歳

H大学の卒業生だった。


7. ラッシャウェイ 城ノ内

性別:男性、年齢:当時21歳

H大学の在学生だった。


8. ダンケシェン 村岡

性別:男性、年齢:当時23歳

H大学の卒業生だった。


9. ルカ・モドリッチ

性別:男性、年齢:当時37歳

H大学の卒業生だった。サッカーがやたらうまかった。


10. クリスティアーノ・ロナウド

性別:男年、年齢:当時21歳

H大学の在学生であり、体調不良により途中で離脱したため、運良くこの事件に巻き込まれなかった。モドリッチよりサッカーがうまかった。


この一行は、北海道北部の山にて、スノートレッキングを計画していた。その最終的な目的地はA岳に設定されており、このルートの難易度は極めて高いものだったが、メンバーには登山に熟知した者が多かったため、反対する者はいなかったという。


1月25日、この一行の乗った列車は、A岳近くの駅へと到着した。ここで彼らはトラックをチャーターし、約80kmほど北方にある集落のへと到着した。そして、1月27日、集落からA岳へ向け出発したものの、翌日にはメンバーの一人であるロナウドが、体調不良により途中で離脱している。


この時点で一行の人数は9人となり、これから先、彼らと出会った人間は存在しないため、これからの内容は、その後に見つかった日記やカメラに撮影された写真などをもとに推測されたものである。


1月31日、未開拓の原生林を北西方向に進んできた一行は、A岳のふもとへと到着する。その翌日の2月1日、彼らはA岳へと続く斜面を進んで行った。彼らは猛吹雪によって視界が苛まれたため、進行方向を見失い、当初のルートを大きく逸れてA岳の南側にある、T山へと登り始めていた。このT山は夏でも死者が出る大変危険な「死の山」とし古くはアイヌ民族も恐れていた。急斜面が続く山であり、途中で誤りに気づいた彼らは、約1.5kmほど下ったところにある斜面にキャンプを張り、一夜を越すことに決めた。


当初、一行が集落に戻り次第、彼らのリーダーである滑川が、彼が所属するスポーツクラブ宛に電報を送る手はずとなっていた。当初、2月12日までには電報が送られてくるだろうと予想されていたが、2月12日を過ぎても滑川から電報が送られてくることはなく、2月20日に彼らの親族の要請により、H大学の学生と教師からなる捜索隊が捜索を開始した。その後、自衛隊と警察が捜索隊を結成し、ヘリコプターによる大規模な捜索活動が開始された。


2月26日、捜索隊がT山で酷く損傷したテントを発見した。このテントは内側から切り裂かれており、荷物は置き去りにされたままとなっていた。捜索隊はT山のふもと付近にある森林地帯でパプリチェンコ本田とラッシャウェイ城ノ内の二人の遺体を発見し、「大きなスギ」とキャンプの間で滑川、及川、萩原の三人の遺体を発見した。


それから約2ヵ月後の5月、「大きなスギ」から森林地帯の方向へ、約75mほど先にある谷の中で西村、山崎、ダンケシェン村岡、ルカ・モドリッチの四人の遺体が、約4mの雪に埋もれているところを発見された。


2月26日に発見された5人の遺体は、その検死の結果、全員の死因が低体温症であることが判明した。 パプリチェンコ本田は、ほぼ下着姿の状態で発見されており、また萩原については頭蓋骨から小さな亀裂が確認されたが、致命傷となるほどの傷には考えられなかった。


しかし、5月に発見された4人の遺体の検死の結果は、不可解なものだった。ダンケシェン村岡は頭部に致命傷になったと考えられる、大きな怪我を負っており、西村とルカ・モドリッチは肋骨を複雑骨折していた。おかしな点としては、西村とルカ・モドリッチの遺体は外傷を負っておらず、あたかも外部から非常に強い圧力を加えられたかのような損傷の生じ方をしていたことである。また西村は眼球と舌が失われており、ルカ・モドリッチも舌を失っていた。


気温が-30℃という極寒の中、ほとんどの遺体が薄着だった。遺体の中には靴を履いていない者や片方の靴だけを履いていた者、また靴下だけを履いていた者がおり、先に亡くなったと思われる遺体の衣服を、脚に巻きつけている者もいたという。


この事件については、複数のジャーナリストや研究者などから、下記のような不可解な点が報告されている。

当時、T山には、一行以外の人間がいる様子は見つからなかった

テントに残された痕跡は、彼らが自らの意思によってテントから離れたことを示していた

一部の犠牲者の衣服から、高い線量の放射能が検出された

発表された検死の資料には、内臓器官の状態に関する情報が含まれていない

犠牲者の葬式に出席した人物が、彼らの肌の色が「濃い茶褐色」に変色していたのを目撃したと報告している

事件の前夜、T山から南に約50kmほど離れた場所にいた別の一行が、T山の上空で奇妙なオレンジ色の光を目撃したと報告している

以前からT山の周辺には、軍事施設があると噂が流れており、その噂を裏付けるような大量の金属の破片が見つかっている

テント内に残されていたカメラを現像したところ、最後の一枚には「光体」のような謎の物体が写っていた


この事件には生還者が存在しないため、現在では迷宮入りとなっており、その真相は不明である。そのため、犠牲者の遺体には不審な点が多く見つかっていること、また事件現場の周辺では以前から謎の光が目撃されたり、軍が密かにその地を利用していたなどの噂が存在していたことなどから、「宇宙人の仕業によるものではないか」、「米軍が開発している、秘密兵器の実験に巻き込まれたのではないか」などの様々な憶測が飛び交っている。


極寒の中、一部の犠牲者の遺体がほぼ下着姿の状態で発見されていたり、ほとんどの遺体が靴をまともに履いていなかった原因については、「矛盾脱衣」という現象によるものと考えられる。これは恒温動物である人間は、急激な体温低下が起きた時、それを阻止するために体内から身体を温めようとする作用が働き、それがあたかも猛暑の中にいるような錯覚に陥らせ、衣服を脱いでしまうという現象である。実際、凍死者が裸の状態で発見されることは多いという。


また事件の前夜、別の一行がT山の上空で目撃したという奇妙な光は、1959年2月から3月にかけて複数の人物によって目撃されており、その正体についてはソ連で行われた、大陸間弾道ミサイルの発射実験によるものだと噂されている。


捜索隊による、この事件の最終的な調査結果は「犠牲者の全員が、何らかの驚異的な自然の力によって死亡した」というものであり、「犯人は存在しない」という結論に至っている。





空港を出ると北海道とはいえ8月は流石に暑かった。

事件の一行が辿ったように北方の集落へ向かった。


「まずは竜巻説を否定しないとな。」

険しい山道を進み、死の山と呼ばれるT山の麓近く、事件現場である丘に着いた。

夏なので雪は無く草原があり、その場所だけドーム状になっている丘だった。


丘の周辺の草木を観察し確信に変わった。

「やっぱりな」



「やっぱりって。。。どうしたの?」

咲良は訳がわからず聞く


「番組の竜巻説だよ。それが起きやすいと説明されていたが、あたりの草に竜巻が通った後が無い」


日常的に起こるなら多少地形に影響するものだ。しかし現場にはそれらしき物がなかった。


「おぉーーーい。」

遠くから声が聞こえた。格好を見ると集落に住んでいる住民のようだが、

手には猟銃が握られていた。


「お前さんら何しとる?」

「ここは死の山っつって危ねえから降りた方がいいぞ

「この時期はヒグマも出るからな〜さっきもこの辺で見かけたぞ」


どうやら猟師のようだ。

「あー東京から来た旅行に来た者です。」


大分高齢の様だがまだまだ現役と言った感じで銃はしっかりと握られていた。


「用も済んだ事ですし、そろそろ戻ります。ご忠告ありがとうございます。」

「この辺りはヒグマも出るのですね。冬もやはり出るのですか?」

老猟師に尋ねてみる。


「冬に出るクマは冬眠し損ねた熊じゃからな。気性も荒い。当然この辺りにも出るぞ。」

「お前さんらはこの場所に用事でもあったのか?」


「いえ、大した用じゃ無いです。」

「ところで、この辺にいい宿とかありますか?」


「おーなんならウチに来い。母ちゃんが民宿やっとるからな。」


民宿か。安そうだ。うんそうしよう。

「良いですね。お邪魔します。」

老猟師に連れられて向かった先は集落の端、T山の麓にある民宿だ。

外見は古そうだがなかなか趣があって良い。

温泉も出る様だし、夕食は山で狩った獲物いわゆるジビエ料理だそうだ。

正直楽しみだった。



まだ日も傾かず少し早いが宿にチェックインし一息着いた。これから周辺の調査に向かう予定だ。


「本当に竜巻説を否定しちゃって良いの?」

お茶を啜りながら咲良が言う。


「いいと思う。そもそも風が強いならいきなり全員で外へ出ず2人ほど様子を見に行けば良いだけだ。山を知っているあのメンバーならそんなミスは犯しにくい。」


「なるほど。おじさんは頭いいね。あんな生活してるとは思えないなぁ」

さり気無く傷つく事を言う。


「おじさんは殺人事件って言ってたけど誰が犯人だと思ってるの?」


仮説だがあの男だろう。この事件が殺人事件ならそれしか無い。


「それは。・・・クリスティアーノ・ロナウドだろうね。」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ