1.ゴブリン大量発生?
ここから二章です。
「……ん、どうしたんだろ。今日はギルドが騒がしいね」
「そうですね。どうしたのでしょう?」
エリミナと正式に同盟を交わした夜から、数日が経過。
その間の俺たちは、少女の体調が回復するまでクエストは受けないでいた。そのため久しぶりにギルドへやってきたわけだが、何やら様子がおかしい。
受付の前に人だかりが出来ており、怒号が飛び交っている。
その様子を遠巻きに眺めながら、俺とエリミナは首を傾げていた。
そうしていると、だ。
「おぉ、レオンくん。久方ぶりじゃの」
「あ、ギルド長。おはようございます」
後ろから一人の老人――ベゼルに声をかけられた。
彼は俺の顔を見ると、どこか嬉しそうに微笑む。そしてこう言った。
「先日はSランクの魔物――レッドドラゴンを討伐したらしいの。やはり潜在能力の水晶の見立ては、間違っていなかったということじゃな! ほっほっほ」
「いや……はい。ありがとうございます」
こちらを称えるその言葉を、俺は思わず否定しかける。
エリミナの手前、彼女のお陰だと言いたかった。しかし、この少女が女神であるということは、契約者以外には口外しない約束。
そのため、俺は言葉をぐっと飲み込んで頭を下げた。
すると代わりに胸を張ったのは――。
「そうなのです! レオンさんは、強くてカッコいいのです!!」
――エリミナであった。
彼女はお世辞にも大きいとは言えない胸をいっぱいに張りながら。そして、にんまりとした表情を浮かべてそう言うのであった。そこにあるのは、決して自画自賛するようなそれではない。心の底から、俺の強さを自慢しているようだった。
「お嬢さん――たしか、エリミナちゃんだったかの。キミの言う通りじゃ。このように強く、将来有望な冒険者は他におらぬ。たくさん学ぶのじゃよ?」
「はい! お爺様、ありがとうございます!!」
俺の目の前で、二人がそんな会話を大声でしている。
それが、どうにもこそばゆく感じられた。
「あの、ギルド長。それよりも、この人だかりはなんなんですか?」
だから俺は、その流れをぶった切るように訊ねる。
するとベゼルは思い出したように、ポンと手を打つのであった。
「おぉ、そうじゃった。キミに相談しようと思っていたのじゃよ」
「俺に? ……なにを、ですか」
首を傾げると、彼は近くにあった掲示板から一枚の依頼書を持ってくる。
そこには『緊急クエスト』との記載があった。内容は――。
「――『ゴブリン大量発生:討伐数に応じて報酬額を決定します』、だって?」
思いも寄らないモノ。
ゴブリンの大量発生なんて、考えもしなかった。
それにこの内容なら、こんな小さな暴動が起こるはずもない。何故なら、
「むしろ、冒険者にとっては稼ぎ時じゃないですか。それなのにどうして、みんなこんなに声を荒らげてるんですか?」
そうなのである。
依頼書にあった内容によると、討伐対象がゴブリンであるにしては法外な価格だった。それも討伐数に応じて金額が跳ね上がるように設定されている。
それだというのに、人込みから聞こえてくるのはこんな声だった。
「ふざけるな! こんなのやってられるか!」
「あんなキツイなんて聞いてない!!」
「殺す気か!?」
みな、口を揃えて報酬が釣り合わないと叫ぶ。
そのことに、俺は首を傾げることしかできなかった。
「いったい、何が起きてるんですか?」
「ふむ……」
ギルド長に質問する。
すると彼は、顎に手を当てて困ったようにこう答えた。
「どうにもの。嘘か誠か、大量のゴブリンが徒党を組んで暴れているらしくての。どうにも一筋縄ではいかんらしいのじゃ」
「ゴブリンが、徒党を組んでるって……!?」
それは、三年間ゴブリンだけを狩ってきた俺にとっては信じられない言葉。
思わず声を上げてしまったが、それに反応したのは少女だった。
「それ、なにかおかしいんです?」
彼女はゴブリンの性質を知らないのだろう。
唇に人差し指を当てながら、小首を傾げるのであった。
俺はそんな少女の仕草を見ながら、噛み砕いて説明をする。
「基本的に、ゴブリンは単独行動なんだよ。というか、徒党を組んで行動する――言ってしまえば、チームプレイをするだけの知能がないんだ。だから、今回の話はおかしい、ってことなんだよ」――と。
するとエリミナも納得したらしく、大きく頷いた。
「なるほどです。でも、それだけで変わるもの、なのですか?」
「それだけじゃないのじゃよ、エリミナちゃん」
そして、続けて疑問を口にした少女に応えたのはベゼル。
彼はこう口にするのだった。
「今回のゴブリンたちには、何らかの力が与えられているかもしれない」――と。
「え……?」
それを耳にして、俺はなにかピンときた。
そして、その答えを求めてエリミナの方を見つめる。すると――。
「レオンさん……。これって、もしかして!」
――彼女も同じ結論に至ったのであろう。
こちらを見上げて、真剣な眼差しをこちらに向けてきた。
それに俺は頷く。どうやら、さっそくエリミナと協力する戦いが舞い込んできたらしい。そしてそれは、俺の記憶の中にあるモノとも合致していた。
どうやら、今回のゴブリン狩りは――大きな戦いの幕開けとなるらしい。
そう考えて、俺は一つ大きく深呼吸をした。
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