4.暗躍する者
――夜の闇の中に、一人の男が立っていた。
男は冒険者ギルドから漏れる光を見て、静かに、声を殺して笑う。
そこにあるのはまるで、新しい玩具を見つけた子供のような色であった。
「ずいぶんと面白い者と手を組んだのですね、エリミナ・シルフィード」
丁寧な口調で、しかし邪悪な音を発する。
エリミナの名を口にしたその男は、黒の外套を翻して踵を返した。
するとその男の行く先には一人の冒険者がかしずいている。――彼の名前はカドック・ディアロイド。Aランクに相当する地位にいる凄腕であった。
「主様、いかように致しましょう?」
カドックは、その黒き男を敬うように訊ねる。
すると主と思しき男性は――。
「カドックよ。お前には多少、あのレオンという青年と因縁があるようだな」
「……それは、たしかにそうですが」
――配下の彼に、そういってほくそ笑む。
その言葉を受けたカドックは、どこか苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
つい昨日の出来事である。『冒険者としての仕事』を終えた彼は、束の間の仲間たちと酒盛りを楽しんでいた。その流れの中で、エリミナに手を出したのである。
「あの後、相当に冷やかされたそうではないか。【ゴブリン狩り】に負けた、と」
「……………………」
主の言葉に窮するカドック。
たしかに、酒に酔っていたとはいえ自分は『あの』レオンに負けた。
Aランクの冒険者として一目を置かれていた自分が、周囲にとんだ恥を晒したのである。そのことを思い出し、カドックは歯を食いしばった。
この男――カドックは、相当な自意識過剰である。
そして、唯我独尊の精神を持っていると言えば良いのであろうか。
とにもかくにも、主を除く誰もかもが自分より下でなければ気が済まない。歪んだ性格をした男であった。プライドが高く、攻撃的。
今もまさしく、主に煽られ怒りの炎を滾らせていた。
「ならば、カドックよ。お前には我の力を貸し与えた魔物を用意しよう」
「なっ、それは本当ですか!?」
苦渋の表情を驚きの色に変えるカドック。
彼のクラスは『魔物使い』という、一風変わったモノ。
そこに主の力が加わると聞いた瞬間に、彼は目の色を変えた。
「ふふふ。良い目だ、カドック――分かっているな?」
そして、それこそが主の狙い。
それをカドックも、当然に理解していた。そのため――。
「分かっております。必ずや、あの二人を……」
――そう言って、頭を垂れた。
口角を吊り上げ、まるで鋭い三日月のようにしながら。
「では、我はこれで失礼しよう」
「はっ、お疲れ様です」
そんな部下の姿に納得したらしい。
主はニタリと笑みを浮かべて、最後に一度振り返った。そして言う。
「アリアンロッドごときの加護など、我の敵ではありませんよ? ――エリミナ」
闇の中に溶けていく男。
その姿。まとう雰囲気は、人のそれではなかった。
次回の更新は明日の昼ごろ。
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