3.潜在能力の測定
「えっと、それで。どうして俺は呼ばれたんですか?」
「それは、これから分かりますよ」
「はぁ、そうですか……」
エリミナと別れて、帰ろうと思っていた俺は先ほどの受付の女性に呼び止められた。なんでもギルド長からの呼び出しとかで、こちらとしては首を傾げてしまう。
階段を上りながら彼女に訊ねるが、返ってきたのはそんな言葉だった。
「さぁ、こちらですよ」
「分かりました。失礼します!」
さて、そうしていると。
受付の女性は一つの扉の前で立ち止まって言った。
ここまできたら、行くしかないだろう。そう思って、俺は促されるままにノックして中に入った。するとそこは、こじんまりとした執務室。
そして、奥にあるデスクにいたのは――。
「ほっほ、よく来たの。レオン・シークヘルくん」
――一人の好々爺然とした人物。
名前は聞いたことがあった。たしか、ベゼル・リンクハルト。
このギルドの長にして、かつて世界を股に掛けた冒険者の一人だった。そんな人物から名前を呼ばれて、俺はほんの少しだけ恐縮してしまう。
すると、それを察したのだろうベゼルは大きく笑った。
「はっはっは! なに、そこまで怯える必要はないぞ。取って喰おうと思って呼び出したわけではないからの。そこのソファーにでも座ると良い」
「あ、はい。それじゃ、失礼します……」
俺は一つ礼をしてから中央にあるソファーに腰かける。
ベゼルも年の割にしっかりとした足取りで、テーブルを挟んだ向かい側に座った。そうして向かい合った時に、俺は間に置かれた一つの水晶に気付く。
測定水晶にも似たそれ。しかし、色が違う。
「あの、これはなんですか?」
訊ねると、ベゼルは一つ頷いた。
「これはの、潜在能力測定の水晶という代物じゃ。手をかざした者の冒険者としての伸びしろがどれだけあるか、それを見ることができる」
「はぁ、潜在能力、ですか」
そして話された内容に、俺は一つ首を傾げる。
思ったのはこんな疑問だった。
「それって、どうして登録の時に使わないんですか?」
それは単純なこと。
自身の伸びしろが分かれば、今後の役にも立つのに、ということだ。
しかしそれを聞いたベゼルは静かに首を左右に振る。続けて、こう言った。
「それはならんのじゃ。この水晶は貴重なモノでの、一度使えば壊れてしまう――特例中の特例でなければ、使用許可など出さぬのじゃよ」
「え。それじゃあ、どうして今ここにそれがあるんですか?」
「うむ……」
俺は彼の言葉に驚きを隠せない。
同時に浮かんできたのは、またもや疑問だった。
その疑問に対して大きく頷くベゼル。彼は、ゆっくりとした口調でこう言った。
「儂は、レオンくんの潜在能力を知りたいと思ったのじゃよ。【測定不能の魔法剣士】、【ゴブリン狩りのレオン】と呼ばれたキミに秘められた可能性を」――と。
ベゼルの言葉に、俺は息を呑んだ。
「俺の、可能性……」
「うむ、そうじゃ。さて、それでは始めるかの」
彼が言うと、水晶が淡い光を放ち始める。
そして――。
「ほれ、手をかざしてみるのじゃ」
「……はい、分かりました」
――俺は、その水晶に手をかざした。
すると、
「おぉ、これは――っ!?」
ベゼルが驚きの声を上げる。
目を大きく見開いて、手を震わせた。
俺はその光が収まるまでの間、呼吸を止めてしまう。
「これは、凄いモノを見せてもらった……」
そうして光が収まり、水晶がただの石くれになった時。
ベゼルがうつむきながら、そう俺に言った。そこにあったのは歓喜か、あるいは恐怖か。そのどちらとも取れる声に、俺は黙り込む。
しばしの沈黙があって、ついに彼は口を開いた。
その内容は、俺の冒険者としての生き方を覆すもの。
「レオンくん。キミの潜在能力は――」
そして、とても信じられないものだった。
「――世界を救った、かの英雄のそれを遥かに凌駕しておる」
◆◇◆
二十年前。
世界は魔族との戦いによって、乱れていたという。
しかし、それを収束させたのが英雄アキラ・サトウ。神々の恩恵を受けた彼は、魔王を見事に打倒し世界に平和をもたらした。
世界を救った後に彼はどうなったのか。
それは語られていないが、伝説はハッキリと残っていた。
「俺が、そんな大英雄よりも……」
夜の街を歩きながら、俺はそう呟いた。
自身の中に眠っていると言われた、恐ろしい潜在能力。
ベゼルは畏怖するように俺のことを称えたが、その実感はまるでなかった。
「……でも、諦めないで良かった」
それでも、たしかなことはある。
【測定不能の魔法剣士】と罵られ、【ゴブリン狩り】と嘲笑われ。
それでも自分を信じて、冒険者への憧れを捨てずに突き進んできた。その道に光明が差したような気がして、俺の心は救われたような気がしたのである。
だけど、調子に乗ることはない。
あくまで可能性が示されたに過ぎないのだから。
「よし。明日から、また頑張ろう!」
だから、俺はあえてそう口にした。
そして自宅に向かって駆けだすのであった。
応援よろしくお願い致します!
次の話は19時頃です!
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