2.パーティーを組むということ
「えっと、エリミナちゃんで良かったんだよね。俺はレオン、レオン・シークヘル。パーティーメンバー募集って話だったけど、もしかして冒険者になりたて?」
「……は、はい。そうなんです。だから、右も左も分からなくて」
「なるほど、ね」
俺はエリミナと共に、ギルドの談話室にやってきていた。
一日の仕事――クエストを終え、ここには多くの冒険者が集っている。
中には酒を持ち込んで騒いでいる奴らもいた。そういう奴らからエリミナを守るようにして、なるべく隅っこの席に着席する。そこで改めて、話を始めた。
「そうなると、いきなりパーティーを組んでもらうのは難しいかな。なんの実績もない人を、いきなりポンと入れてくれるところは少ないだろうし……」
「そ、そうなんですか……?」
俺の言葉に、しゅんとするエリミナ。
その様子はどことなく哀れだったが、事実だから仕方ない。
基本的にパーティーに入るには、実績というモノが大きな要素になってくるのだ。例えばBランクの魔物であるワイバーンを何体狩ったから、とか。
そういった実力を示す証拠がないと、難しいのだった。
そして、それは俺がこれまで一人でクエストをこなしてきた理由の一つでもある。だがしかし――。
「――まぁ、必ずしもそれだけじゃないけどね」
「ほ、ほんとうですか!?」
こちらの一言に少女は目を輝かせた。
そんな彼女に、俺は一つの質問をする。
「エリミナちゃん。たぶん、登録の時に能力測定したよね?」――と。
そう。それは、俺にとって忌々しいモノについてだった。
能力測定で一定以上の力があれば、それだけで拾ってくれるパーティーもある。だから俺もさっき、改めての能力測定を求めたのだった。
「能力、測定……ですか」
と、そこでエリミナはまたもやしゅんとしてしまう。
いったいどうしたのか、と。俺は思わず首を傾げてしまった。
しばしの間を置いてから、少女は意を決したような声でこう言う。
「その、恥ずかしながら――測定不能、でした」
「え、測定不能……?」
俺はキョトンとしてしまった。まさかの、測定不能仲間である。
少しの感動を覚えたが、しかし今はそれどころではないと思い直した。そして、彼女にとっては酷な話だが、現実を突き付けなければならない。
俺は一つ息をついてから、こうエリミナに言った。
「それだったら、残念だけど。まずは薬草採集とかから――」
――始めてはどうか、と。
そう提案しようと思った瞬間だった。
「それじゃ、だめなんです! 遅すぎるんです!!」
突然に、彼女が大きな声を張り上げたのは。
俺は不意を突かれて、ついつい呆然と少女の顔を見てしまった。
「あ、すみません。突然大きな声……」
するとその視線に気づいたエリミナは、またも小さくなる。
ふむ。どうやら、この少女はなにかワケありらしい。
俺はそう思って、問いかけようとした。
「なぁ、嬢ちゃん? なんだったら、オジサンたちとパーティー組まない?」
「え……?」
その時だ。
一人の赤ら顔の冒険者が、彼女に声をかけたのは。
明らかに酒に溺れているそいつは、嫌らしい手つきでエリミナに触れた。
「オジサンたち、男ばっかりで寂しいんだよねぇ。だから、嬢ちゃんみたいな可愛い女の子が入ってくれると嬉しいなぁ――なんてな! けけけけっ!」
「あの、やめてください。その……!」
エリミナは拒否するが、男はさらに腕を絡めてくる。
そして、彼女の胸に手を伸ばし――。
「やめろ! エリミナは、俺とパーティーを組むんだ!!」
――その瞬間。
俺は気付けば二人の間に割って入っていた。
そして、冒険者の男をジッと睨む。来るなら来いと、そう思いながら。
「レオンさん……っ!」
背後から、涙ぐんだ少女の声が聞こえた。
そんな弱々しい声を聞いて、ますます俺は決心を固める。
こんなか弱い女の子を守れないで、いったい何が冒険者かだ――と。
「てめぇ……!? 俺が誰か分かってんのかァ!!」
「知らないな。それに、今は関係ないだろ」
必死に気持ちを奮い立たせて、目の前の男を見る。
挑発のようになってしまったが、それでもそう俺は口にした。
「なら、ぶっ倒れた後で誰かに聞くんだなぁ!?」
「ちっ……!」
すると、絵に描いたように激昂したその男は刃物を取り出して躍りかかってくる。しかし酒が入っているためか、動きはひどく緩慢に見えた。
だから――。
「お前が、ぶっ倒れるんだよ!」
「がはっ……!」
――俺はその隙を突く。
みぞおちに一撃、拳を叩き込んだ。
男はその一打で崩れ落ちる。思ったよりも呆気なかった。
「お、おい……! カドックがやられたぞ!」
「嘘だろ? アイツって、Aランク冒険者だったはず」
「しかも、倒したのは【ゴブリン狩り】じゃないか。酒のせいか……?」
しかし、周囲は信じられないモノを見た、と。
全員がそういった風にこちらを見ていた。俺はその理由が分からず、首を傾げる。でも、何はともあれエリミナを守ることが出来たのだから、良かった。
そう思って、俺は後ろを振り返る。するとそこには――。
「レオンさんっ! 貴方――凄い人だったんですね!?」
――目を輝かせてこちらを見る、そんな少女の姿があった。
「へ……?」
俺はあまりの評価に、目を丸くする。
しかし、この一件が俺とエリミナの距離を縮めたのは間違いなかった。
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次の話は明日の昼ごろ、投稿します!