3.ゴブリントラップ!
言語能力のあるゴブリンは、どうやら俺たちの存在に気付くことはなかったようだ。なにかを話しながら、ダンジョンの奥へと潜って行ってしまう。
そんな奴らを追いかけようかとも思った。
だが、今はそんなリスクを取るよりも状況整理が一番。
「アレって、神が知識を与えるとか――そんな神話的なことと同じなの?」
「たぶん、考えられます。かつて神々は、人間に多くの知識を与えたと文献にも残っていましたから。堕ちた神が、魔物に力を与える可能性は大いに……」
「……と、なると。やっぱりこれは神様案件、ってことか」
俺はエリミナと意見交換をして、慎重に歩を進めることにした。
息を殺して、普段ならば入ろうとも思わない場所へ。そもそもゴブリンがこんなダンジョンの中に生息する時点で、それはおかしな話だった。
基本的にダンジョンの中に住まう魔物は強力なモノが多い。
だから、普通なら奴らはこんな場所にはやってこないのであった。
「でも、そんなこと気にしてる場合じゃないよな。エリミナ、足元気をつけてね?」
「はい。それにしても――」
と、そんなことを考えていると。
エリミナは唐突に周囲を見渡し、何かを考え込んだ。そして、
「――さっきからしてる、キィキィ、って音はなんですか?」
そう、訊いてきた。
俺はそれを受けてよく耳を澄ませてみる。
するとたしかに、彼女の言う通りどこかで縄が軋むような音がした。
「もしかして……!」
それを確認して、俺はとっさにエリミナの手を握る。
彼女は目を丸くしたが、無理矢理に抱きしめた。瞬間――。
「きゃっ!?」
「あぶな――!」
――先ほどまで少女が立っていた場所に、大きな岩が降ってきた。
鈍い音を立てて崩れるそれ。俺たちは冷や汗をかきながら、見つめるのであった。これは、どう考えてもトラップだ。しかも、結構高度な。
起動するためのスイッチになるモノも見当たらない。
それなのに、それは非常にタイミングよく落ちてきた。
「これも、神に与えられた知識――ってやつか?」
苦笑いしつつ、俺はエリミナを解放する。
少女は若干だが名残惜しそうに、そっと離れるのであった。
「分かりません。でも、その可能性が高いかと……」
「なら、気をつけて進もう。ゴブリンだって舐めてたら、痛い目を見る」
俺の言葉に、頷くエリミナ。
一つ大きく深呼吸をして、気持ちを切り替えるのであった。
◆◇◆
「もの凄い、トラップのオンパレードだったね……」
「は、はい……。危うく、なところもありました」
俺たちは肩で大きく息をしながら、どうにか呼吸を整える。
ここまで多くのトラップを潜り抜けてきた。丸い鉄球が転がってきたり、いきなり地面に穴が開いたり、その中に剣が無数に仕掛けられていたり。
そんな道中をエリミナと共に協力して進んできたのだが、今回はひとまず割愛だった。というかピンチにピンチの連続過ぎて、話が長くなってしまう。
「でも、なんとかここまでやってきたな……」
そう言って俺は前を向いた。
なかなかに奥まできたと思うのだが、そこにあったのは闘技場のような空間。
半円状の天井に、不思議と明るいのは所々に設置されている松明のお陰だろう。半径五十メイルはある大空間に足を踏み入れつつも、警戒は怠らなかった。
何故なら、その場は殺気に満ちていたから。
「なんでしょう。ここ……」
不安げにエリミナは呟く。
俺はそれに応えずに、意識を集中させた。
すると一つ、後方から魔法を詠唱するような声――!
「エリミナ、下がって!」
「レオンさん!?」
剣を引き抜いて、少女と体勢を入れ替えた。
直後に目の前に迫っていたのは、炎の塊――初歩魔法の【火弾】だ。
「【付加魔法:氷】――っ!」
即座に俺はそれを唱えた。
すると冷気をまとった剣に姿を変えた俺のそれは、炎と力を相殺する。
蒸気が湧き上がり、視界が一瞬だけ奪われる。だが、その隙を狙った攻撃はない。そのことをやや疑問に思いながら、しかし注意を払って時間が経つのを待つ。
「けけけけっ! カモがやってきた!」
「身ぐるみ剥いで、リーダーに報告だ!!」
そして、周囲の状況が確認できるようになった時。
そこに広がっていたのは、
「最初から、誘き寄せられてた……ってことか」
見渡す限りのゴブリンの群れ。
その数は、軽く百を超えるといったところか。
人語を介するそいつらは、ぐるりとこちらを取り囲んで笑った。
「レオンさんっ……!」
不安気な声を発するエリミナ。
しかし、そんな彼女に俺は一言こう告げた。
「安心して、大丈夫」――と。
少女の手を握る。
するとまた、あの時のように不思議な光が生まれた。
以前のようにすべての力を受け取るのではなく、一部分だけ。だけど、それだけでも俺にとっては十分だった。何故なら――。
「――伊達に【ゴブリン狩りのレオン】とは、呼ばれてないからさ」
今ばかりは、少女を勇気づけるモノに変わる蔑称。
それを口にして、俺はエリミナに笑いかけた。
「…………はいっ!」
少女は満面の笑みを浮かべて、そう答える。
さぁ、ここからが本番だ。
最弱の冒険者の底意地、見せてやる――!
次回の更新は明日の20時頃。
※すみません。ちょっと体調を崩してしまいました(^_^;)
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