2.ダンジョンの中のゴブリン
「ゴブリンが大量発生してるのは、このダンジョンの中だって話だけど……」
「とても、静かですね。少し不気味なくらいに」
俺とエリミナは、件の『緊急クエスト』を受けることにした。
それは、ギルド長――ベゼルの口にした言葉が引っ掛かったからだ。何者かから力を与えられているような、不思議な力をまとったゴブリン。そして、統率の取れた動きをするという点。その二つは、もしかすると俺たちの追っている敵と共通する部分だった。
要するに、過去にココル村を滅ぼしたという神。
そいつがこの街で、ゴブリンに力を与えて悪さをしているのではないか。俺たちはそう考えたのだった。しかし、それには同時に疑問も浮かぶ。
と、いうのも――。
「どうしてこの街を……それになんでゴブリンなんだ?」
「分かりません。私もずっと考えていたのですけど……」
――目的が不明瞭過ぎた。
百歩譲って、この街にエリミナがいると気付いたから、というのはアリだ。
だけどこの街を滅ぼし、かつエリミナの命を狙うのであれば――そう。もっと強力な魔物を使役すればいいだけの話だった。ゴブリンを扱う必要はない。
どうして、最下級と云われている魔物を使っているのか。
それだけが引っ掛かっていた。
「もしかして、これは『魔物使い』の仕業か……?」
「『魔物使い』、ってなんですか?」
俺が一つの可能性を口にすると、エリミナがきょとんとして覗き込んでくる。
どうやら彼女は、あまり冒険者のクラスに詳しくないらしい。――まぁ、そうでなくても『魔物使い』なんてクラスは、特例中の特例なんだけど。
そんなわけで、忙しくないうちに俺は簡単に説明することにした。
「その名前の通りだよ。普通の冒険者は魔物を狩るのが主な仕事だけど、『魔物使い』はその逆なんだ。元々の発祥が、魔物との共存を目指した人達のことだったんだけど――今ではそれも変化して、魔物を操って魔物を狩る、という感じになってるね」
こちらの話を食い入るように聞くエリミナ。
どうやら、簡単な概要については理解してくれたらしい。
何度か頷いてから、俺の顔をもう一度見上げてきた。そしてこう言う。
「ありがとうございます! レオンさんは、説明が上手ですね!」――と。
それを受けて、俺は頬が熱くなるのを感じた。
何でもかんでも褒めるのは、この少女のクセのようなものらしい。だが、どうにも褒められ慣れていないこちらとしては、それすらダメージになっていた。
けれどもそれに気付かないらしいエリミナは、すでに次の疑問に移っている。
彼女は首を傾げながらこう言った。
「でも普通の魔物使いさんが、不思議な力を魔物に与えるなんて出来るのでしょうか。ベゼルさんの話によると、明らかに変だったとのことでしたが……」
「そこだよね。俺もイマイチ答えが出ないんだ――っと、静かに」
「――――っ!」
だが、その時だった。
次第に薄暗くなっていくダンジョンの奥に、不自然な明かりが見えたのは。俺はエリミナを静止させ、一緒に岩陰に隠れた。
すると視線の先に現われたのは――。
「あれが、例のゴブリンか……」
――一体のゴブリン。
だけども、見てすぐに分かった。
おかしい。知能の低いゴブリンにしては、明らかに変だった。
「松明、だって……?」
その手に握られていたのは、簡易な照明具だ。
しかし、それこそが異変。先ほども言った通り、ゴブリンの知能ではそんな道具を作成することは不可能だと断言して良かった。
それなのに、そいつは手にしていた。さらに俺は目を――。
「え……っ!?」
――いいや。耳を疑うことになる。
何故なら、視線の先にはもう一体のゴブリンが現れて、
「おい、そっちに異変はなかったか?」
「あぁ、大丈夫だ。今日は冒険者の数も少ない」
会話をしていたのだから……。
「嘘、だろ……?」
思わず俺はそう漏らしてしまった。
その光景は、本当に信じられないもの。
だけど、たしかに目の前にある現実のそれであった。
次回更新は明日の昼ごろ!
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