謝罪
「うっ 痛い」
綾の容赦のないビンタを受けた桃花の頬は赤く腫れ上がっていて見るからに痛そうだった。しかしこれは桃花への罰だ雫の気持ちを考えればまだ生ぬるいかもしれない。
「反省してますか?」
綾の冷たい声が狭い部室に響き渡る。最近気づいたのだことだが、聡の時より綾の時の方が人を叱るのにしっくりくる。異性だと妙に気を使ってしまうところだが、同性だと思うと気兼ねなく話せる。
ただこんなことをメリット」だとは思いたくはない。
雫はというと、怯えた様子で綾の陰に隠れ、桃花の様子を見ている。
「私はちょっとした好奇心で…」
「黙れ」
桃花の釈明は綾の声によってかき消されてしまった。
「ちゃんと、謝って下さい。でなければ次はグーです」
優しい笑顔は人を殺すとまで言われているが、綾のやるそれはまさにその通りであった。
「雫ー」
雫は桃花の方を一度見ると、また綾の後ろに引き下がった。
いくら、服従関係とはいえ、さすがにあの出来事には雫も怒っていた。雫の表情は変化しにくいものだが、背中から伝わる手の感覚でわかってしまう。雫はおとなしいが決して感情がないわけではない。
「そんな…」
子の部室に桃花の味方は誰もいなくなった。
「私が悪かってです。もうしません…」
桃花は泣いていたのだろうか、言葉の尻が弱々しかった。桃花は普段は強気だが、雫に本気で拒絶されることを恐れている。おそらく雫なら簡単に許してくれると思っていたのだろう。結果、雫の反応は桃花を裏切るものだった。
「保留」
雫はそう一言だけ綾の後ろでつぶやいた。まだ完全に許す気はなさそうだ。
「うえーん」
今度は完全に泣いてしまっただろう。部室全体に桃花の声が響き渡る。
会った頃の桃花先輩のふてぶてしいオーラはどこへやら、そこにはただ、必死に許しを乞う哀れな先輩がひざまづいていた。
「3丁目の横井ケーキ屋…エベレストモンブラン…2個」
雫はそれを言い終わるとまた、後ろに隠れた。
横井ケーキ屋、そのなかでもエベレストモンブラは一見ふざけたような名前だが、一日限定20食しか作られない超レアものた。通常のモンブランの大きさの3倍はあると言われ、味も絶品らしい。僕も食べたことがないのでそれ以上は知らないが、入手困難で店に開店前の朝4時から並ばなければならない。
「どうしますか?」
「わかった。私に二言はない」
何とか2人は仲直りしてくれたみたいだ、しかし、朝4時から並ぶ先輩も先輩だが、通常の3倍もの大きさのエベレストモンブランを2つも頼む雫も雫である。あの体のどこに入るのやら。雫に目をやればその小さい体を必死に隠そうとしているのだからかわいらしい。
「そういうば何か忘れているような…そうですよ先輩、推理の続きは?」
「もうこんな時間になってしまった。すまないがそれはまた、明日にしよう」
桃花の言うとおり、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
「また、ここに来るんですか?」
「またもなにも君たちはもうこの部活のメンバーだろう?」
えっ今聞き漏らしてはいけない一言があったような。
「そんな、協力するとは云いましたけど、部に入るとまでは」
「私が既に2人の入部届けを出しておいたぞ!」
「そんな?いつ?」
「君たちをここに招待する前だ」
「捏造だー」
はめられた。だいたい、この部屋に来る前から仕込んでおいたなんて、なんて用意周到なんだ。断られることを考えてないのか?
「新人増える、私先輩」
雫の目はキラキラと輝いていた。その姿は先ほどまでの怯えていた姿からは想像もできないものだった。断り辛い。聡はそう考えてしまった。
桃花に急に肩を組まれ耳元こう囁かれた。
「こんな少女の笑顔を無にするつもりか?」
顔を見なくてもわかる。この先輩は笑ってる。
神宮寺桃花はずるい。
プロフィール
2年5組神宮寺桃花16歳
学業スポーツ共に優秀であり、容姿端麗でもある。才色兼備とはまさに彼女のためにある言葉であろう。黒髪の長髪に背も高く校内一の美人とまで噂される。
己の欲に正直であり、思ったことは包み隠さず話てしまう。傲慢であると同時に相手に拒絶されるとひどく落ち込んでしまう。
後、変態である。
1年1組西野雫15歳
小柄で見た目は小学生にしか見えない。愛らしい顔つきをしているが、動きは俊敏である。
桃花とは何かの契約?を交わしており、基本的には服従している。
無口でクールな印象を与えるが、ただの恥ずかしがりさんである。
甘いものが大好き。