取引
「聡君、君は実に面白い、今後とも私の研究に協力してくれ」
そう言って桃花はこちらに手を差し出した。
この手を受け取れということだろうか?普通の男子だったら桃花の魅力に負けてその手を取っていたであろう。
「お断りします」
聡はきっぱりとその提案を断った。
「なぜだ?君だって協力者はほしいだろ?」
桃花は不満げな顔をして食い下がった。
「確かに協力者は欲しいです。ただ、あなたに何ができるのですか?」
根本的な問題である。魂を探すという漠然的な目的はあるがはたして人が多いことが何の役に立つだろうか。それに個人的にこの人を綾に近づけたくない。
「黒猫」
「なんにゃ?」
「綾の魂が今ここにあるとしてそれを僕らみたいな普通の人間が感じ取れるものなのか?」
「それはにゃーしかむりにゃ。後、娘の魂を元の体に戻せるのもにゃーだけにゃ」
「そういう訳です。先輩どうかお引き取りを」
結局自分しか頼れるものはないのだ。そんな風に聡が考えていると。桃花は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
何か嫌な予感がする。聡は直感的にそう感じた。
「残念だったな、聡君。その猫はうちの部のメンバーだ。ちゃんと契約書もあるぞ」
そう言って桃花は1枚の紙を見せてきた。そこには日々のエサと住みかの提供する代わりに部への入部する旨がしっかりと書かれていた。そして最後にちょこんと肉球のスタンプが押されていた。
「黒猫ー」
「仕方なかったにゃ」
黒猫はまるで素知らぬ顔でそう言った。お前は神か近しい存在じゃないのか?エサぐらい言ってくれればいくらでも用意したぞ。
「つまりこの猫の力を借りたいなら我が部へ入部したまえ」
もはや聡に断るすべはなかった。しかし桃花はまだ満足していなかった。
「綾、君もだ」
桃花の指先は次に綾の方に向けられた。
「ちょっと待って下さい。綾は関係ないでしょう」
「君が返事をするのかややこしいな」
「「中身は1つなんだから仕方ないだろう」」
「2人同時というのも面倒だ。私が話しをふった方が返事をしろ」
聡はしぶしぶ了解した。
「どうして私まで入部する必要があるのですか?兄さん1人で十分でしょうに」
「あーその前に雫を放してやってくれ」
綾の膝の上で耳を塞がれた状態で雫はずっと座っていた。あまりに抵抗がなくまるで人形のようだったので気がつかなかった。
雫の耳から手を話すと再び質問した。
「だから兄さん…」
「さっきから気になっていたが君は聡と綾の時で口調が変わるのか?」
「そうですね。人にばれないように生活してきましたから癖になっています」
「なんかその改めて思うと気持ち悪いな」
あんたにだけは言われたくないこの変態女。
「だから兄さん…」
「その君が…好きなのは男か?女か?まさかバ○?」
先ほど雫の耳から放したばかりだの手は再び雫の耳を覆った。
「何に聞いてるんだこの変態!!」
今度は聡の体で桃花につかみかかった。しかし、桃花はその手を掴むと自分の胸に当ててきた。聡の手にはやわらかい感覚が伝わった。
「やっぱり女が好きなようだな」
聡は顔を真っ赤にしてその場で転んでしまった。
「いいデータが取れた」
「何考えているんだこの変態!!」
「変態?違うな私はただ、正直なだけさ己の知識欲にな。なんならここで全裸になってもかまわんぞ」
からかわれているのはわかっている。しかしこの人ならやりかねない。現に今自分の胸をもませたのだ。
聡の顔はさらに赤くなるばかりだ。
「可愛いやつだなー、しかし君はまったく反応しないのだな綾?」
「そうですね。女同士ですから」
聡とは対照的に綾の表情は何1つ変わっていなかった。
「正直言いたくはなかったですが私は健全な女の子として男の子が好きです」
最初は食べ物だった。
聡は梅干しは嫌いたったが、綾は好きだった。
そのせいか、聡の体で食べる梅干しは今でも不味いものだが、綾の体で食べる梅干しは美味しく感じる。
恋心はその延長線上にある。
聡の体の時は女子にときめき綾の体の時は男子にときめいてしまう。ただ、その逆はない。
痛みなどの触覚に訴える感覚は同じ認識だがその他の五感は体によって感じかたが変わってきてしまうのだ。もちろんこれは相当複雑な感情である。理解できないかもしれが今の現状がすべてである。
「やはり面白いな君たちは」
桃花はまた笑ってみせた。