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1人2役、ではなく1人2者  作者: 秋ルル
本編
65/71

帰還!?

突然の綾の宣言に桃花の顔が歪む。桃花には先程までの優位性はなくなり一気に劣勢に立たされた。逆に綾はこれみよがしに自分の立場を回復していく。


「綾、君は聡君の話を聞いていたか?私達は互いに利害関係で手を組んでいただけだ、だから…君の言うような男女の関係ではない」


桃花の声は上ずっており、いつもの威圧感は感じられない。そのことを綾は見透かしていた。


「私って昔から、人の感情読むのが上手っていうか、目を見るとなんとなく分かっちゃうんですよね〜」


「おい!?」


再び、綾は顔を桃花に近づける。じーと黙って何かを見ていた。桃花はそれに耐えていた。呼吸や脈拍など少しでも異常な素振りを見せればこの者は容赦なくそれを利用するだろう。互いに根本的に似ているところがあるのかもしれない。だからこそここで上を取られるわけにはいかないのだ。


「さっきの話ですけど嘘ですよ。私にそんな力ありませんって。でも先輩ポーカーフェイスお上手ですね〜不自然なくらいに。そういうのって逆に怪しんですよ」


「何が言いたい?」


「どうやら先輩は兄とは利害関係で手を組んでいただけですよね?話を聞く限りおかげさまで私はこうして救出されました。ならもう兄には用はないんでしょ?」


「それは…」


桃花は言葉に詰まってしまった。聡と桃花の関係はあくまで利害関係だ。聡は綾の救出を条件にその特異な体質を桃花に利用させていた。しかし今はそのどちらもない。ならこのまま別れることが道理である。


傍から見ていた聡は少し驚いていた。桃花にはもう自分は必要のない存在だと思っていたからだ。がそれ以上に実の妹があの神宮寺桃花に一歩も引かない姿を見て驚嘆していた。


「綾、ちょっと落ち着こうか?部長は僕の協力者だし、一応お前の命の恩人なわけだ。それに今日はもう遅いし積もる話もあるだろうしそろそろ……なんだい。こっちをジロジロ見て」


「ふーん。まさかとは思うけどお兄ちゃんの方がこの先輩のことが好きなの?」


「おい、なんてことを質問するんだ!」


「綾、それはない」


と聡がいいかけたとき後ろからいきなりバンっとドアが開き、


「ただいま………です」


と雫が遅めの帰還をした。聡が時計を見て時間を確認するとあそこから1時間以上かけて帰還したことになる。どうゆっくり歩こうが20分で着く道のはずなのにと雫の顔を見るとその表情からは不安と疲労が読み取れた。雫のそれは明らかに道に迷って迷子になったそれだった。ここにたどり着いて安堵したのか今にも泣きそうにな顔で立っているのもやっとという感じだった。しかしここに1人その雫のやっとの休息を与えない者がいた。


「なんですかこの可愛い子は!?なんで小学生がここにいるんですか!?」


「綾?私小学生じゃ………うっ」


「あーあーもういいですいいです何でもいいです。あー癒やされます。嫌なことがずっと続いていましたから浄化されますー」


雫の体が壊れたロボットのように動く。いつもなら拒絶の意を示す雫だが、相手が綾だから戸惑っているのか、それとももうその綾の抱擁を振りほどく力も残されていないのか全くの無抵抗でされるがままである。


「おい!?」


「綾は元々こんな感じですよ。何ていうか人との距離が近いんです」


「君は今まであれで綾を演じてたつもりなのか?全く別人じゃないか!」


「表面上は取り繕えるんですが、僕もあそこまで吹っ切ることは流石にできませんでした。そのせいで、綾に親しい人からは違和感があったと思います。いや悪いわけじゃないんですけどね。本当に記憶喪失っていうことにして救われましました」


聡が綾のことを説明していくうちに桃花の綾に対する認識が大きく変わった。そして少し距離を置こうと考えた。


「助けて、桃花」


「はい、そこまで」


流石に雫が可哀想になったので聡が止めに入った。雫はというと疲れたのかその場に座り込んでしまった。ごめん雫。後でちゃんと説明するから。聡は少し罪悪感を覚えた。一方綾はというと。


「お兄ちゃんあれ、猫が喋ってる」


「早く開けるにゃ」


と黒猫が買ってきたばかりの猫缶を開けるように桃花に迫っていた。聡には見慣れた光景なので不思議には感じなかったが綾にはまだ説明していなかった。聡は1つ深呼吸をすると綾に向かって言い放った。


「もうここまでくると説明する方が面倒臭いな。いいか綾。僕たちはこれまでにもっとすごいことを体験してきたんだ。体から魂が抜けたり、他の体に移ったり、過去に行ったり、いまさら猫が喋るぐらいで驚くな!」


「でも、猫が喋ってるよ」


「ソウデスネ」


綾に効果はなかった。もう何故か説明するのも馬鹿らしく思えてきた。綾は聡の脇をすり抜けていくと黒猫に向かって行った。


「猫さーん。可愛いですねーおいでおいでー」


「にゃーをそんなに気安く触るにゃ」


1分後


「にゃ〜〜」


「いい忘れていましたが、綾は動物にも容赦は無いです。何故か知りませんか気持ちよくなるツボというのを完全に押さえているみたいなんですよ」


「聡君、君は誰に説明しているのだね、まあいいちょっと部屋の外に来てくれ」


「なんですか急に、別に話ならここでもいいじゃないですか?それにもうそろそろ帰らないと時間が」


「黙ってついて来い!」


そう言って桃花は無理やり聡を部室の外に呼んだ。辺りはもう暗くなり校舎に残っている生徒はほとんどいないだろう。部室の中からはまだ騒がしい声が聞こえるが今は桃花と1対1となった。


そうして桃花の方からその重々しい口を開いた。


「その……君は……綾の言うとおりここを辞めてしまうのか」


「辞めていいんですか?」


「その言い方はずるくないか、それじゃまるで私が君に辞めて欲しくないみたいじゃないか!」


「辞めて欲しいんですか?」


「だーかーら。それを君の言葉で言って欲しいんだ!」


「素直じゃないですね。まぁ素直な部長ってのもおかしな話ですがって痛い。足踏んでます踏んでますって」


「一言多い」


だからってわざわざ踏まなくてもいいじゃないかとも思ったが、桃花が思いの外真面目な話を切り出してきたので聡も真面目に返すことにした。


「僕は辞めませんよ。というより今回のことで辞めるわけにはいかなくなりました。」


「それはつまり私の………」


「はい。今回のことで僕のような魔法使いのくだらない趣向に付き合わされた人がいることがわかりました。僕はその人の力になってあげたいと考えるようになりました。って部長どうしたんですか?」


「知るか!」


「???」


「そうだな。君はそういう奴だ。それに君は私にまだ借りを返していない。勝手にやめられては困るな」


「???」


「修・学・旅・行。代わりに出てくれるんだろ?」


「確かにそういう約束でしたけど。いやでも、綾の体はもう無理なわけで、それにエスだってもういないし」


「体を入れ替えるだけなら黒猫でもできる。それに体は別に綾のでなくともいい」


「いやでも」


嫌な予感がした。なんとしてもこの先の台詞を聞いてはいけない気がした。聡には桃花がなにを考えていることが分からない。いや分かりたくはなかった。だが桃花はその台詞を聡に向かって告げた。


「私は構わないぞ」


「僕が構うんです!」


そんな他愛もない会話が校舎に響いた。

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