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1人2役、ではなく1人2者  作者: 秋ルル
本編
63/71

対決

シローネが外に出ようとすると空間がバチッと弾け、シローネは前足を戻し思わず身構えた。その姿は車のボンネットで寝ていた猫が急にエンジン音に驚きいて起きたそんな様子だった。エスはその姿を面白そうに眺めていた。


「逃さないって言っよね。聞こえてなかったのかな?」


「あなたの言葉を馬鹿正直に信用するほど馬鹿でもないですからね」


そう言ってシローネはエスの方を睨みつけた。その姿は猫と表現するにはあまりに異質であり、シローネもまたただの猫でないこと物語っている。その姿にエスは臆することなく、むしろ悠々と話し始める


「始めに教えておいてあげるよシローネ。この空間はぼくの自信作でね。この空間内では時間も場所も転移できないんだ。つまり文字通り君は袋の鼠さ。あっ袋の猫って言ったほうがいいかな」


「ご親切にどうも、わざわざ自分の魔法を説明してくださるなんて、そんなに実力の差があることを見せつけたいんですか?簡単なことです。あなたを殺せばそれで済むのでしょ?」


「せっかちだな。人の話は最後まで聞くものだよ。この空間は例えぼくを殺そうと壊れることはない。唯一の打出方法はあそこ」


そう言ってをエスはある場所を指差した。そこは空間の端と言えばいいだろうか。少なくとも常人にはそれを感じることは不可能だろう。エスの指した方向には何もなく力を持つものにしか感じ取れないものだからだ。


「あの場所が出口になってる。最もぼくが生きている限りその出口も現れないけどね」


「その理論だとあなたもここから出られないですね。私と共に心中するおつもりですか?」


「まさかそんなわけ無いだろ!」


「自分の逃げ道は用意していると?」


「さっどうだろうね」


「これほどの空間を作り出すのにどれだけの魔力を消費するのやら想像もできませんね。ただこれだけは言っておきますが、これを作り出して魔力の枯渇したあなたに倒されるほど私も易しくはないですよ」


次の瞬間エスのいた場所は無数の木の枝、砂、石などこの林にあるありとあらゆる物が信じられない速度で飛来した。常人ならそれで終わっていた。今頃は体中に穴が空き血が吹き出ていたであろう。だがエスはそれを魔法の障壁でガードした。


しかし、あまりの高速で飛んでくる飛来物の多さにエスの作り出した障壁も完璧にではなかった。シローネの言ったのようにエス自身にはほとんど魔力が残っていない。一つまた一つと障壁の弱い所をすり抜けその飛来物はエスに目掛けて飛んでいく。それらは致命傷にはならずとも確実にエスの体に傷を作り出した。


「どうしました?反撃してこないですか?今のは挨拶程度なんですかが、それとも立っているだけで限界でしたか?」 


「………」


エスは何も喋らない。そして不思議なことに反撃をしようともしない。ただひたすらにシローネの攻撃を耐え続けている。その間シローネの猛攻が収まることはない。次から次へと飛翔物の数は増えていく、さらには障壁弾かれた物もまたシローネの魔力によって再びエスを襲う飛翔物となる。


シローネの優勢は明らかだ。だが流石にシローネも違和感を感じ始めていた。明らかにおかしい。エスは身を固めているだけで攻撃してこない。いくら魔力が底を尽きようと反撃の1つないのは明らかに変だ。


実はエスのもとを離れたシローネにはエスの知らない能力がある。シローネが手に入れた力は魔法察知能力であり、シローネは相手の発動する魔法を瞬時に予測そして分析できる。これまでもそのことを知らない愚かな追跡者を幾人か屠ってきた。


シローネはその力によって先程のエスの言葉が真実であると確信が持てた。エスは現在使用している防御魔法の他に何も魔法を使用していない。エスの言ったとおりこの空間は独立している。憎らしいことにこちらの力ではどう足掻いても空間自体を壊すことは出来ないだろう。時間をかければ解析し空間そのものを分解できるかもしれないが、不気味なことにこの空間は生き物のように生きている。いや本当に生きているわけではないがこちらの解析を妨げるように恐ろしい速さで魔法の構成部質を変化させている。そこまでして作り出したこの空間にそこまでの意味があるのかとシローネは考えた。


「なんの真似ですか?一切攻撃しないなんて私を見くびっているのでしょうか?」


「………」


そしてついにその時が来てしまった。エスの作り出した障壁はシローネの猛攻に耐えきれず障壁は砕け散りにその破片が霧散した。その時を待ってたかのようにシローネの撃ちはなった飛翔物はエスの体に突き刺さる。


ぐさりなんて生半可なものではない。まるで集中砲火されたように蜂の巣になったエスの体はそのまま地面に倒れ込んだ。


それからエスの言ったとおりそれは現れた。目に見えるものではないがシローネはそれを感じ取った。確かに空間に穴が出現した。それはつまり逆説的にエスの死を意味する。


「意外とあっけなく終わりましたね。それにしても随分と弱くなられましたね、以前のあなたのなら……もう思い出す必要もありませんね。さようなら」


そう言い残すとシローネは出口へと向かった。


2回目


「一体何をされしましたか?」


「待ってたよシローネ。どうしたの?ぼくが生きていることがそんなに不思議かい?」


突然のことにシローネは動揺した。シローネの出口の先にはエスがひょっこりと仁王立ちしていた。先程の受けた傷は嘘のように消えている。いや元々傷なんてなかったかのようにピンピンしている。


「催眠術による幻術系でしょうか?そんなものまで使えたんですね。水臭いじゃないですか。そんなものがあるなら私にそれを教えてから死んで下さいよ」


「催眠?幻術?使えないこともないけど、君相手に効力のあるほどぼくの魔法は強くないよ」


「おかしいですね。精神魔法には細心の注意をはらってきたつもりなのですが、今もそんな気配を感じませんのに」


「だーかーらー使ってないって言ってるでしょ。本当に人の話を………」


エスは話の途中でシローネの飛ばした木の枝がエスの心臓へと突き刺さった。エスの口からは鮮血が溢れ出てくる。今度はエスに魔法の障壁すら発動させなかった。確実に殺した。シローネはそう確信した。


「あなたを殺した感覚。はい確かに本物でした。なんの魔法かわかりませんがこれで終わりですね」


シローネの不意打ちでエスは絶命した。それからシローネは細心の注意を払いエスの死体を調べる。それが偽物である可能性も考えた。だがそれは紛れもなく本物であった。そしてまた出口が現れた。始めに言ったようにシローネの力ではこの空間を破壊できない。仕方なくシローネはまた出口へと向かった。


3回目


「本当にしつこいですね」


出口の先にはまたエスが立っていた。そしてまた無傷の顔をシローネに見せつける。


「しつこい?ぼくが君と戦うのなんて初めてだよ」


「どうやらあなたを殺さずにここを抜ける方法を考えなくてはいけないようですね」


「人の話を聞いてたかい?ここはぼくを倒さないと抜けられないんだよ」


「その言葉、聞き飽きました。そもそもあなたがここから抜けるための別ルートがどこかにあるはずなんですよね」


「ふーん。つまらないこと考えるのね。確かに君の言うとおり、もう1つの脱出ルートはあるよ。でもそれはぼくが生きていることが条件なんだよね」


「くっ」


「何かに気づいたようだね。でももう遅いや。じゃあさようなら」


エスは自決した。そうしてまた出口が現れた。


14回目


「ふざけるなーしつこいんだよ。さっさと死ねよ。いや勝手にくたばってんじゃねー」


「おやおや言葉が下品になってるよ。全くまた一から言葉遣いを教えなくてはいけないかな?」


ここまで来てシローネは自分の置かれている状況を薄々感づいていた。そうシローネが確信した理由はこの空間の外にある。その理由とは先程から一向に朝が来ないことである。


かれこれ数時間いや数十時間はエスと対面している。その度にエスの殺害、またはエスの自決を繰り返している。そして最後に出口に向かう。それを何回も繰り返している。つまりシローネ既に捕らわれていたのだ。そして脱出する術を持たないシローネには何一つ打開策がない。


エスの作り出した空間はとてもシンプルなものだった。実はこの空間の出口をシローネと会う少し前のこの空間に繋げているのである。シローネはこの空間を出ていった後はこの空間は存在しないものとなり、空間の存在していたこと自体がなくなる。当然エスの死もなかったことに事実が書き換えられる。今までシローネが会っていたのはシローネが殺す少し前のエスになる。


そして唯一の出口以外の脱出にはエスの生が条件になってくる。もちろんエスがそんなことを許すはずもなく、少しでもシローネに不穏な空気があればあっさりと自決する。そのせいでシローネは八方塞がりになってしまうのだ。


792回目


「出せーここから出せー」


もう何回この者の死体を見てきたのだろう。


4766回目


「あれあれ君の実力ってこんなもんだっけ。ぼくは攻撃できないんだから、好きなだけ力を振るうといいよ」


まるで自分の方が上だと見せつけてくるこの者が憎い。


25476回目


「あれ?どうしたの攻撃してこないの………ってもうこと切れてるか」


ついにシローネが死んだ。その姿は白い毛を赤く染めるぐらい悲惨なものだった。エスがそうしたのではない。自暴自棄になったシローネが自ら自分を傷つけていったのだ。それは長い長い時間の中必死に自我を保とうとしたシローネの傷である。


「そりゃそうだ。ぼくはいつだって初めて君に会っているのに君はここで何千、いや何万時間以上でここにいたんだからね。流石に体力が持たないか。君が何体のぼくを殺してきたのかはしらないけど、これでもう終わりだね。君は気づいていたのかな?もし君がぼくを殺したままその場で死んでいたらぼくは復活できなかったことに。それともぼくと一緒に死ぬのは君のプライドが許さなかったのかな?それじゃあさようなら」


エスは新たな出口へと歩き出した。

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