後始末
エスと別れた後、聡は必死に女の子の姿を探した。当初は2つの体を使えば捜索も容易だと思っていたがその見通しは甘かった。初めて来た場所で夜だということも相俟って視界も悪い。足元も整備されておらず、気を抜けば何かに躓きそうになる。あたりも名前もわからない植物で覆い尽くされており、前に進むのも一苦労だ。それでもスマホのライトを頼りに探し続けた。
それでも、女の子は見つからなかった。ただ不幸中の幸いだろうか探してみて分かったことだが、この雑木林はさほど広くない。今聡は女の子を探して入った反対側に出てきた。直線距離にしても1km弱である。
頭の中で雑木林のおおよその面積を導き出す。そしてこれなら見つけられないはずはない。そう思い素早く踵を返す。そしてまた雑木林の中へと入って行った。
「彩ちゃーん。いますか?返事をしてくださーい」
聡が全体を大雑把に捜索するのに対し、綾は慎重に辺りを具に確認しながら探す。声を出して全体に見落としがないようにしている。
先程分かったことだが、この雑木林はそれほど広くない。それに女の子がここに入ってからまだそれほど時間は経っていないはずだ。
なのに返事がないと言うことはどういうことだ。いきなり名前を呼ばれて警戒されているのか?聞こえてないのか?それとも隠れているのか?まさかもう死んでいるなんてことはあるのだろうか?直接女の子を追っていた綾にはわかる。あれは普通ではなかった。背水の陣といえばいいのだろうか、なんだかこう切羽詰まった感じがした。もしそうなら危ない。そう思うと気が気ではなかった。
「彩ちゃーん。いますか?返事をしてくださーい」
もう1度呼びかけた声には先程より焦りが感じられた。頼むから返事をしてくれ、そうに切に願った。
捜索を開始してからどのぐらいたっただろうか。聡は何回も林を抜けてはまた中へ入ることを繰り返している。明らかにおかしいと感じつつも探さずにはいられなかった。
綾の方はというと。
「彩ちゃーん。いますか?返事をしてくださーい」
という呼びかけを相変わらず繰り返している。が一向に返事はない。しかしそんなとき。
「助けて、お兄ちゃん」
と、か細い声が確かに聞こえた気がした。それが誰のものかは確証はないが直感的に綾はそちらの方向に走りだしていた。
「綾ー」
そう叫びながら声のした方へと足を進めていく。この辺りは何回も捜索したはずなのにまるで初めて訪れたような気がしたが今はそんなことを気にしている余裕はない。
「綾ー」
再び叫び前へ進んでいくと。目の前には1人の少女が倒れていた。急いで少女を抱きかかえるとその胸のあたりに包丁が刺さっており服の上から血が滲みだしているのに気がついた。
嘘だ!
「今日が清水彩の命日だ」
そんな言葉が頭をよぎった。救うと決めたはずなのにそこに倒れているのは変わり果てた少女の姿だった。
まだだ。目の前の少女から体温が失っていくのがわかる。それとは逆にまだこの少女には息がある。先ほど胸に刺さっていた包丁はどうやら致命傷にはなっていないようだ。しかし綾にはこんな時の応急処置など持ち合わせてはいなかった。
まず、スマホは電波が入らず使えない。それはこの土地に転移したときからわかっている。当然電話もできなければ地図も使えない。よく知りもしない土地でましてや田舎のその中でも中心から離れたこの場所でどうやって救助を頼めばよいのだろうか?
聡が林の外に出て既に寝ている民家の人を起こし、状況を説明し、救急車が駆けつけるまでこの子は生きているのか?そんなことはわかりきっていることだった。
せっかく。会えたのにこんなのって。ただただ自分の無力さを痛感させられた。
「エス。お願い助けて……」
綾は自然とそう口ずさんでいた。
「あーうん。遅かったかな?」
その綾の声を聞いたのかはわからないが何処からともなくエスは現れた。なぜかその姿は何故かボロボロでくたびれた格好をしていた。
遅かった?そういたったのか?そう思うと少女を救えなかった絶望より、エスに対する憎しみが次第に大きくなっていった。
「あなたががあの時、あの時、彩ちゃんに綾に会うのを止めなければこんなことにはならなかったのに」
「まぁ仕方ないんじゃない。元凶を駆逐しないと。また同じようなことが起こっても困るし」
「返してよ!2人を返して」
「魔法使いに死者を蘇らせる力はないよ。少なくともぼくにはね」
エスが何を言っているのかわからない。元凶?それは一体何の話だ。だが1つだけはっきりしていることがある。エスがこの状況に一切悪びれる様子がないということだ。
「ふざけないで」
といいながら向かって行った綾のパンチをエスはもろにくらった。それは意外なほどきれいに決まり、殴った綾本人も驚いた様子だった。いくら女子高生の力でもエスは子供の体格をしている。その一撃は相当痛かっただろう。
「痛いなーもう。もしかして君も感染しているのかい?」
「ごめんなさい。そんなつもりじゃ……」
そう言いかけたところで体の自由が効かなくなった。この感覚は以前にも体験したことがある。黒猫と初めてあった時だ。もしかしたらこのまま殺されてしまうのだろうか?
エスは魔法使いだ。殺ろうと思えばいつでも殺れただろう。今エスを殴ってしまったために共闘関係も崩壊してしまった。後はエス次第だ。だか不思議と恐怖はなかった。それどころかこの現実から脱がれるためなら死でもいいから開放されたかった。結局何も救えなかったのだ彩も綾もなら僕だけ生きていて何になるのか?ならいっそのこと殺してくれ。
「まぁぼくも少しデリカシーがないこと言ったかなとは思うけど、殴ることないでしょ。それにやっぱりお姉ちゃんも感染してたよ。その子もね。今ぼくが解いておいたけどだけど。今回はそれに免じて大目に見るけど、次やったら殺すからね」
そう言うとエスは倒れていた少女を前にして。
「この子はまだ大丈夫かな?微かに息があるし、うんいけるね」
そう言うと再び綾の前に戻ってきて。
「これからのことなんだけどね。一般人に見せるわけにはいかないから目を瞑って欲しいな。できれば耳も塞いでてって言ってもこっちで勝手にやるけど」
そして綾は正確に言えば聡もだがエスの魔法で視覚と聴覚が奪われた。
「さてとあいつは殺ったから後は辻褄合わせかー。ぼくのせいとはいえ、面倒くさいな」
「まっこんな感じかな。我ながら完璧だな。後はこの子記憶を消してから、お姉ちゃんを戻してっと」
「いっそのことお兄ちゃんたちの記憶も消して全部なかったことにしようかな?」
「あっはい。お疲れ様です。いやー捏造だなんてしてませんよそんなこと。ちゃんと上に報告しておくって?そんなーちゃんと始末したから大目に見てくれてもいいじゃないですか?……駄目ですよねやっぱり」
「これ以上、関与すると流石に不味いかな……まぁお兄ちゃんならぼくの邪魔にはならないかな?」
「そろそろ時間もないし、いいかな?一応クローネ監視につけておけば問題ないか。よし」
「本当クローネはあんなにいい子なのに君はどうしてそうなってしまったんだいシローネ」




