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1人2役、ではなく1人2者  作者: 秋ルル
本編
60/71

追跡

それからまたどのくらいの時間が経ったであろうか、田舎の夜は静かで夜なかに外を歩いてる人などめったにいない。そのため不自然にある家の外を見張っている聡たちを通報するものなど誰もいなかった。


そうは言っても何も変化しない光景を監視し続けるのも幾分か飽きが来る。もはやいちいちスマホで時間を確認することも億劫になってきた。やはりこんな時間に事件なんか起こらないのじゃないかと思い始めたそんな時だった。


「今、家から女の子が出っていったよ」


エスの言葉にはっと我に帰る。もしかして自分は寝てしまっていたのかもしれない。急いで辺りを見回すと女の子はまだそんなに離れたところにはいなかった。遠目でさらに暗がりではあるが、綾の目にはしっかりとその様子が映っていた。あの顔は間違いなく写真で見た少女の姿だった。


「追いかけます」


「ああ、ちょっと待って」


そう言うとエスは綾の額に人差し指を当て何やら怪しげな呪文をつぶやいた。何をされているのかはわからない。特に痛みなどもなく一応少し動いてみたが体にこれと言って変化は感じられない。


「いったい何をしたんですか?」


「ああ気にしなくていいからお姉ちゃんは早くあの子を追いかけて。あとお兄ちゃんの体はここに残しておいてね。ぼくがここから指示出すからそれに従ってね」


「電話替わりですか?」


「まあ、そう思ってもらって構わないよ」


「わかりました。後これだけは言っておきますけど私はあの子を絶対に救います」


そういうと綾は駆け出した。まさか真夜中に女の子をを追いかけることになるなんて思いもしなかった。


当たり前のことだが小学生と高校生ではやはり足の速さに差がある。女の子との距離はみるみる縮んでいった。ましてや綾は元陸上部である。その体は聡のものとは違い多少の走行では息切れしない。本気を出せば女の子に追いつくことなど造作もないことなのだがそうさせなかったのはエスである。


「ああ、ううん。そのまま追いかけていてね。まだ絶対に接触したらだめだからね」


そう脳内にエスの言葉が響き渡る。これはもちろん聡の耳を通じて綾に聞こえてきている声である。綾はその指示を守り適当な距離を保ちつつ女の子の後をつける。エスの真意はわからないままだが、まだ接触してはいけないらしい。なぜかはわからない。まだ命の危機ではないのかもしれない。もちろん聡にはもどかしい気持ちもあった。今目の前を走るあの子の中には綾がいるのかもしれない。そしてあと少しで確かめれるのにそれができないからだ。


走っている辺りは暗く照明もほとんどない。先ほどから町の中心から離れた方向に向かっているからだろうか、人の影も見えない。正真正銘2人だけの鬼ごっこようだ。そしてふと思った。あの子はどうしてこちらに気づかないんだろう?気づかれないように追っているつもりだが、こちらは追跡のプロでも何でもない。むしろここまで静かなら後ろから追ってくる足跡が聞こえてもおかしくない。それなのに女の子は振り返ることもせずに一心不乱に走っている。


もしかしてエスがかけた魔法はそういった隠密に移動できるようなものだったのか?それなら納得ができる。そう思って後をつけて行くと女の子は雑木林の中へと姿を消してしまった。


少女の家の前。電話機代わりに残された聡は綾の見た光景をエスに説明する。


「エス!女の子が林の中に入っていった。この暗さだ。もう向こうに気付かれずに追うのは不可能だ」


「そうかそうか、うんわかったよ。それにしてもこんなところだっととわねー」


「何のことだ?」


「ううん、こっちの話。さてとお兄ちゃんもうここにいても仕方ないし、ぼくたちも移動しようか。さっきお姉ちゃんにはマーキングしておいたから場所はわかるよ」


そう言うとエスは聡の手を引くといつもの空間を作り出し綾の前へと転移した。


「状況は説明しなくてもわかっているよな。さっき君にかけられた魔法、僕は隠密系のものかと思っていたがただのマーキングだったんだな。つまりあの子は後ろから走って追いかけてきていた綾にすら気づかないほどに焦っていたことになる。何を考えているかまではわからないがこのままだったら本当に命が危ない。だから………」


だから助けさせてくれそう言いたかったが言葉が出なかった。エスは最初から頑なに命の危険があるまでは手を出さないでねと明言している。今がその時なのかは確証がないが、間近で少女を見てその異様さに気が付いた。最悪ダメだと言われてももうエスには従えない。聡は既にエスに逆らって追いかける心構えをしていた。


しかし聡の予想とは裏腹にエスの返答はあっさりしたものだった。


「そのことなんだけどお兄ちゃんもうあの子助けていいよ。どうやらぼくの目的も達成できそうだから」


「「えっ」」


と乾いた声はどっちから発した声かもわからない。それほど聡は動揺していた。あそこまで念入りに接触を禁止していたのに今度はあっさりとその許しを出したのだ。


「ちょっと待て、エスいったいどういうことなんだ?さっきまでは絶対に接触するなって言ってただろ」


「それ、今ここで長々と説明する必要あるかな?早く追いかけないといけないんでしょ?だれが一番早く探せるか競争だね」


そう言うとエスは一人で茂みの中へと入っていった。聡はそれをただぽかんと見ていることしかできなかった。


「勝手な奴だな」


よく分からないが助ける許可は得た。これでもう聡を縛るものはない。人海戦術というには人が足りていない気がするか、こちらには2つの体がある。


絶対に見つけてやる。そう決心して聡と綾はそれぞれ別の方向に進んだ。

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