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1人2役、ではなく1人2者  作者: 秋ルル
本編
59/71

監視

「なあ、エスいったいどれだけ待てばいいんだ」


「なんだ根性ないなーそれでも妹さん救う気あるの?」


「そうは言っても6時間ただずっと待ち続けるのはいくらなんでもしんどいぞ」


聡が少女の家を監視し始めてからすでに6時間が経過した。辺りは既に日が落ち月明かりのみが3人の影を照らす。あれからこの時間に至るまで必死に家を見続けているが特に変わった様子もない。せめて日にちだけでなく大まかな時間がわかりさえすればここまでの苦労はしなかっただろうがそれはないものねだりだろう。


それにこんなことになるなら家に電話をしておくんだった。あいかわらずスマホに電波は届いていない。もはや時計としての役割しかない。息子と娘が2人とも連絡なしに家に帰ってこないと知ったら母はどんな反応をするだろうか?事件、誘拐を疑って警察に連絡するだろうか?


お願いします先輩。なんとか裏で手をまわしておいてください。聡は祈った。もちろん桃花が聡の家の連絡先を知っている保証はないし、そもそも教えてすらいない。だけどなぜかあの先輩ならすでに知っているだろうという気もした。


「今1時過ぎだから後23時間以内に事件が起こるね。準備オッケー?」


「オッケーなわけないだろ!?少しはこっちの体の心配もしてくれ」


エスは魔法使いであるが故かさほど疲労を感じていない。見た目はただの少年なのだが、やはり根本的に体のつくりが違うのかもしれない。一方ただの人間である聡はさすがに疲労の色を隠せない。もともと聡は2つの体を持つ都合上規則正しい生活を徹底している。そのため夜更かしや徹夜などといった行為になれていない。それに眠気もそうだが空腹もひどい。結局あのお茶を飲んだ以降は何も口にしていない。こんな田舎ではコンビニはまずないだろう。夜に開いている店がない以上朝まで我慢するしかない。


「ほんとに死因なんだかわかないのか?せめて手掛かりでも」


そもそも明日少女『清水彩』が死亡すると聞かされたが詳しい死因までは教えてもらってない。人の死亡には様々な可能性がある。事故死、病死、衰弱死、殺害、そして自殺。これらすべてを考慮しながら。見守るというのは果たして可能だろうか。まあ年齢的に考えて衰弱死はないし、病死の可能性も薄い。残る事故死、殺害、自殺の中から考えれば最も可能性が高いのが事故死だろう。そしてこの時間帯に最も可能性がありそうなのは火事だろうか?もちろん今夜に起こるかどうかはわからない。昼間に車にはねられる可能性だって十分ある。


「あのね。ぼくも神様じゃないんだから1個人の死因なんていちいち覚えてないの」


「じゃあなんで死亡日は特定できるんだよ」


「企業秘密。いや、魔法使いの秘密だね。知りたかったから魔法使いにでも弟子入りするんだね。まあぼくの見立てだとお兄ちゃんにその才能はゼロだけど。でもがんばれば努力はきっと報われるよ」


「聞いた僕が馬鹿だったよ」


どうやらエスはまじめに答えるつもりはないらしい。文句を言っても仕方ないので話題を変える。


「じゃあ聞くけど、もしあの子が階段で転んで頭を打って死んでしまう場合どうがんばっっても僕には助けようないんだけど、どうするんだい?」


「おっとそれは盲点だったね。そうだったらお手上げだね。ならお兄ちゃんあの家に忍び込んできてよ。道なら開けてあげるから、住居不法侵入で捕まってもぼくがついてるから安心して」


「できれば捕まる前に助けてほしんだが………」


「まあ、お兄ちゃんの心配は最もだと思うけどぼくはその可能性はないと思うなー。だってそれだと()()()()()()()()


「そうかよ」


やはり魔法使いは人との感性がずれている。人の死に方が面白いだとか面白くないだとか関係あるだろうか?女の子を助けること自体はエスから禁止されていない。ただその死のギリギリまで手を出さないことが条件である。エスにはエスの計画があるようだが、こうなったら何が何でも助けてやる。聡はそう決意した。


「それそうとあれはなんだい?」


そう言ってエスの目線の先には綾が横になっていた。外の気温はそれほど寒くはないとはいえ着ていた上着を1枚を枕がわりにし器用に寝ているのだ。


「何って?ただ仮眠をとってるだけだけどこの先長丁場になるんだろ?」


「お兄ちゃんって無駄に適応能力高いよね」


「ほっとけ。こっちにもいろいろ苦労があったんだよ」


それからまたしばらく時間が経った。そろそろ交代か。綾の方が目覚めたかと思うと聡のほうが眠りにつく。我ながら本当に器用なことをしていると思う。最初は歩くことすらままならなかった状態から。ある程度なら独立した行動がとれるようになった。まだ、急な反射的な行動は互いに影響しあうがそれ以外なら問題ない。そして口調も、思考もすべてシフトするのだ。


「おはようお兄ちゃん」


「今はお兄ちゃんではないのですが………ほかの方にバレる心配もないので好きに呼んでください」


「お兄………お姉ちゃんってほんと無駄にきもいぐらい適応能力高いよね」


「ほっといて下さい!」


綾はそう言った。

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