おつかい
桃花の計らいによって綾と雫、黒猫の2人と1匹は黒猫の餌の買い出し中だ。はたして例の少年との会話は上手くいくのだろうか?そんなことを考えながら目的の場所まで歩いていた。
「黒猫の餌ってどこにあるの?」
「そうですね。スーパーとかに置いてあるんじゃないでしょうか?」
嘘は言っていない。しかし最近のキャットフードはコンビニでも売られていることは知っていた。しかし最寄りのコンビニは校門を出て目の前にある。それでは時間が稼げないのであえて距離がある方を提案した。
「そうなんだ」
雫は何一つ疑う様子もなく納得したようだった。それからは雫が先頭に立って意気揚々と歩いて行った。桃花に頼まれたということで得意になっているのだろうか?綾は黙ってその後ろをついていくが雫は数十メートル進んで立ち止まってしまった。それからまたしばらく悩んだようで。
「スーパーってどっちにあるの?」
綾の顔が少し引きつった。世間知らずで助かったと思えばいささか失礼かもしれないが今回は本当にそう思った。今、綾のことは部長に任せるしかない。ならばこっちはできるだけ離れたとこに移動しよう。片や未知の少年との会話、片や猫の餌を買いにおつかい。本当に今日はなんて日だろう。
「早くいくにゃ!」
たまりかねた黒猫がそう急かした。
歩きながらも向こうの情報は入ってくる。少年のことや黒猫の名前など今まで知らなことばっかりだ。このまま何事もなくスムーズに問題が解決してくれればいいのだがと思ったそんな時だった。綾の体一瞬揺らいだ。歩きながらだったためかそのままバランスを取れず転倒しそうになる。何が起きたかは言うまでもない。撃たれたのだ。
感覚のリンクの弊害、聡の体で起こったことが綾の体にリンクする。いつもはこんなことにならないように注意しているが不意を突かれた行動には対処できない。一度バランスを失った体はそのまま地面に倒れることになっただろう。雫がいなければ。雫はその身を挺して綾を守ってくれた。
雫の小さな体が支えになって何とか転倒は阻止できた。いきなり全体重をかけたせいで雫の方も倒れかけたがその小さな体はしっかりと地面に立っていた。その結果、不可抗力だったとしても思いっきり抱きつく形になってしまった。
えっと。相手は女の子なわけでそれに抱きつくのはさすがにまずい。でも今のは綾の体なのでセーフなのか?でも中身は男なわけで雫もそれを知っていて………どうしよう。
「すいません。その………」
「大丈夫、綾。疲れてる?休む?」
もたれ掛かった迷惑よりもこちらのことを真っ先に心配してくれる。その顔は必死なものだった。そんな顔をされるといかに自分が小さなことで悩んでいたかと馬鹿らしくなる。
「いいえ、大丈夫です。その………雫先輩ありがとうございます」
「えへへ」
雫はそう笑った。いつだっただろうか?雫が私を頼っていいよと言ってくれたことがある。まさか物理的に頼ることになるとは思わなかったが。そのあとで気を使って手をつないで一緒に歩いてくれた雫の存在はやはり大きなものだった。
それからすぐに目的のスーパーに到着した。どこにでもある小さくもなく大きくもないありふれた建物だった。時間は稼げただろうか?ここから餌を買ってそのまま帰ったとしてかかる時間はおよそ………そんなことを考えているときだった。
「にゃ?」
「どうかしたんですか?」
「今、微かに綾の気配を感じた気がしたにゃ」
「何処で!」
綾はそう叫んだ。いつもならそんな大きな声を出すことはしないのだが、今だけは綾の仮面がはだけて聡になった。それから黒猫はスーパーの方を見つめた。
「あそこかもしれにゃいにゃ」
黒猫は少し自信なさげだったが、今の聡にはそんなことを考えている余裕はなかった。この中に綾がいるのか?気が付いた時には体が勝手に動いていた。綾は1人でスーパーの中に駆け込んだ。焦るなと頭ではわかっていても足が自然と速くなる。やっと綾に会える!しかし、そこに綾はいなかった。
聡は綾を正確にいえば綾の宿主である女の子を無我夢中で探したがそれらしき人物には出会わなかった。このスーパーはそれほど大きな建物ではない。それに客の数も多いというわけでもない。しかし周りいるのは明らかに自分より年配の客ばかり、女の子の背丈などを考慮しても間違えようはないはずなのに、念のためにトイレにもよったが結果は空振りだった。
どうして?黒猫の勘違いだろうか?それも十分考えられる。そもそも微かとはどういう意味だ?もしかしたら女の子が訪れていたのはもっと前だったのではないだろうか?その残留物を黒猫が感じ取っただけではないだろうか?そう思うと進展したとはいえどこかにやりきれない気持ちが残った。
そんな時また衝撃が綾の体を襲う。それは先ほどの物理的なものではない。
「なに言ってるの?お兄ちゃん。無事も何もこの世界に綾なんていないよ。いない人の安否なんてぼく知らないよ」
エスのその言葉が脳内に響き渡った。
綾がいない?それじゃあ、私は今、いったい誰を探していたことになるのだろう?




