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1人2役、ではなく1人2者  作者: 秋ルル
本編
54/71

会話

「さてとこちらとしては聞きたいことは山ほどあるがまず1つだけ確認しておきたいことがある。君は我々の味方なのか?」


桃花はエスと名乗る少年に質問した。聡はその様子をただ横でじっと見ていた。3人しかいない子の部室で異様な緊張感が走る。エスの返答次第ではとっさに逃げる準備だけはしなくてはならない。聡はエスの挙動に細心の注意を払った。


「つまらないことを聞くねお姉ちゃん。そんなことが今、重要かい?」


そう言ってエスは自分の手を銃の形にするとこちらを向けて


「バーン、バーン」


と大声で叫んだ。


死んだ。と思えるぐらいの錯覚を覚えた。時が止まってしまうような全身の血液が凍り付くようなそんな感覚だった。


エスはたしかに2発の弾を打ってきた。いや、正確には弾など打たれてはいないのだが聡は確かに自分の体を貫かれた気がした。打たれた箇所に手を当ててみても出血などもしておらず自分の勘違いかとさえ思ったが、隣の桃花の表情を見ると今起きたことがすべて現実なのだと痛感させられた。桃花は表情こそ崩してはいなかったがその顔から垂れていた冷や汗を聡は見逃さなかった。


これはエスの魔法の一部なのか?聡は改めて目の前に座っている人間が人外なのだと実感した。桃花の言う通りそもそも聡たちには他に選択の余地など無かったのだ。


「びっくりした?そんなに驚かないでよ、冗談だからさ。でもぼくが本当に敵だったら君たち今ので死んでたよ」


エスはおどけた様子でそう言った。それから桃花の質問に答えた。


「別にぼく個人としてはただの人間に興味はないんだ。ただね、ぼくの不手際によって起こってしまった今回の事故を放っておくのも忍びなくてさ。それで協力しているわけ。だからね今は味方だよ」


少し不安は残るが、少なくとも危害を加えてくる気はなさそうだ。今、殺されていないことが逆説的にそれを証明している。隣の桃花の様子を見るとすでに回復しているようでいつもの調子を取り戻していた。


「事故と言ったか?今回件についてはあくまで偶然だとでも?」


「1つって言ったのにどんどん聞いてくるね。嫌いじゃないよそういうの」


エスはからかったつもりだろうが桃花がのってこないのでつまらなそうに答えた。


「事故だよ事故。でも勘違いしないでよね。ぼくのは交通事故とは関係ないからね。ぼくがやったのはそう、あの女の子をあの場に連れてきちゃったことなの。ううん。ちがうなー。ぼくはただ移動していただけなんだ。あの子が勝手にぼくの後をつけてきちゃったって言った方が正しいかな」


「それで、事故発生から君は今まで何をしてたのだね?」


「そんなの女の子を探していたに決まってるじゃないか。大変だったからね」


「事故発生からけっこう経っているが、魔法使いがたった1人を捜し出すのにそんなにかかるものかね?」


「いちいち棘ある言い方するよね。そんなんじゃ彼氏さんに嫌われるよ」


その言葉が限界だったらしい。聡は今まさに席を立ちあがらんとする桃花を必死に抑えた。もともと桃花は煽り耐性があるわけではない。普段は「言いたい奴には好きに言わせておけばいい」と言っているが、その裏で相手の弱点は握っているのだ。なので真意は「言いたい奴には好きに言わせておけばいい(後でどんな報いを受けることになるかは知らんがな)」である。聡はそのことをよく知っている。今回のように相手にマウントを取られながら交渉することには慣れてなかった。


「落ち着いてください。相手は子供ですよ」


「そんなわけないだろう。あの見た目で人の年以上は生きているのだろう。それをわかっていてからかってきているのだ」


「だとしても抑えてください。部長もさっき体感したでしょ。力じゃ勝てませんよ」


桃花もそのことはわかっていたのだろう。しかし彼女の高すぎるプライドがそれを拒んだ。このままではまずい。いくら危害を加えるつもりはないといってもこちらから襲い掛かれば話は別だ。聡は力強く桃花に抱きついて桃花の体を抑えつけた。しばらくして桃花の抵抗もなくなった。


「聡君。もう私のことはいい後は君がやってくれ」


そう言って桃花はそっぽを向いた。なんとか桃花を抑えることができたが先ほどから顔をこちらに向けてくれない。とはいっても席を立つことまではしなかったので完全に丸投げされたわけでもないが、実質的にエスと1対1で対面することになった。


「その初めましてでいいんだよね?」


「おかしなことを聞くね。たぶんぼくとお兄ちゃんは初対面なはずだよ」


「そうか、ならいいんだ。以前にも君に出会ったような気がしたけど、僕の勘違いのようだ」


「ふーん。変なの」


そうエスは答えた。嘘をついている素振りはない。いや仮に嘘をつかれていたとしても僕ごときの洞察力で見抜くことはできないがひとまずは信用していいだろうと聡は考えた。夢の中であった少年のことも気になるが、聡はそれ以上に気にしていることがある。それは当然綾の安否である。


「その、事件の全貌とかは後回しでいいんだけど綾が無事なのかだけ教えてくれないかな?」


エスは突然聡の質問に対して笑い出した。


「なに言ってるの?お兄ちゃん。無事も何もこの世界に綾なんていないよ。いない人の安否なんてぼく知らないよ」


「えっ!?」


それは先ほどの銃で体を貫かれた時より衝撃的な一言であった。

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