謎
聡は昨日の夢の出来事を桃花に話した。聡はおぼろげな自分の記憶を何とか呼び起こして、できる限り正確に桃花に伝えようと心掛けたが、話を聞いている桃花はどこか気の抜けた表情だった。
聡は全て話し終わって桃花の見解を待ったが、桃花はいまいち乗り気ではなかった。不安そうに見守る聡に桃花は冷徹な一言をいい放った。
「君は今朝の夢の話を私に聞かせたいのか?なんなら私の見た夢の話を君に教えてあげようか?」
桃花はそう言って席を立ち自分の分だけコーヒーを淹れ始めた。焦る聡とは対照的に桃花はどこか落ち着いていた。ここで桃花に興味を失ってもらうわけにもいかないので、聡は自分の考えを伝えた。
「これが全部夢だとしたらあまりにも出来すぎてると思います。それに僕がこの体になって今まで夢を見ることはなかったんです。今回のこれは明らかなメッセージだと思います」
「それで?君は私に何を求めているんだね?」
そう言って桃花は今淹れたばかりのコーヒーを片手に席に戻った。どうやら完全に興味をなくしていたわけではなく単純にのどが渇いていただけのようだ。
「ですから綾のことを……」
「証拠が少なすぎるし、全てあやふやだ。話を聞く限り全てその少年の戯れ言じゃないか。君はまた私にに不確かな状況で不確かな推理をさせたいのか?」
「戯れ言って、仮にも黒猫の主人で僕に力を貸してくれた人ですよ。それに少年の話を聞く限り部長の推理は間違っていなったじゃないですか!」
結論から言えば桃花の推理は当たっていた。少年の話を信じるなら桃花の言うとおり綾の魂は例の少女の中にある。ただ問題は。
「それで、君はその少年の言うことを信じたわけだ」
「いえ、全てを信じたわけではないですよ。綾が帰ってきたがらないなんて嘘です。綾はきっと帰って来たいと思っているはずです。今はきっと何か事情があるんです」
少年の言うことを信じるなら綾は自分の意思で帰りたくないと言っている。聡はその事だけは信じたくなかった。
「私が気にしているのはそんなことではない」
「えっ他にどんなことがあるんですか?」
それは聡の予想していない言葉だった。どうやら桃花には聡とは全く違ったビジョンが見えているようだった。桃花は自分で淹れたコーヒーをおいしそうに飲みながら1つずつ聡に質問していった。
「第一に何故にその黒猫の主人だという少年が君に会いに来たんだ?」
「それは綾のことを僕に伝えるために」
「第二に何故夢に出るなんて紛らわしい方法を取ったんだ?」
「それは直接会うのが出来なかったとか。黒猫だって言ってたじゃないですか。あまり人に会いたくない人だと」
「なら何故来たんだ?直接会うか間接的な接触を取るかは方法はいくらでもあったんだ。それなのに向こうは今まで一切の接触を行わなかったんだぞ」
「それは何か心境の変化があったとか」
「第三になぜこのタイミングなんだ?あの日はちょうど君が例の少女の手がかりをつかんだ日じゃないか。まるで狙っていたかのようにその日だったのはひっかかる」
「それは偶々なんじゃないんですか?偶然同じ日だっただけで、逆に怪しく思えてしまっているのでは?」
「第四に黒猫とは何だね?」
「今更どういう意味ですか?いつもこの部室には黒猫がいたでしょ?」
「別に黒猫の存在自体を否定しているのでない。だが黒猫ってのはあくまでも私たちがそう呼んでいるだけだ。話は変わるが君はペットを飼ったことはあるか?」
「……ないですけど」
「そうか、私もない!」
堂々とそう言いきる桃花に聡はあきれ果てた。
「なんなんですか?」
「普通ペットには名前をつけるものだがな、あれにも一応あるんじゃないのか?」
黒猫の名前?それは確かに気にしたことがなかった。後で聞いてみるか。だがその事自体は今回のことに関係ないように思えた。
「そうだとしても人に話すときは犬なり、猫なりの言い方してもおかしくないですよ。いきなり名前で呼ばれてもわからないじゃないですか?」
「結局私が言いたいのはそいつは本当に善意で君に近づいてきたのかってことだ」
桃花はその結論に至った。
「部長は物事を穿って見すぎでは、なら、少年ははわざわざ僕に嘘を教えるために来たってことですか?」
「さぁ?それはわからんがな。なら考え方を変えよう。その少年が嘘をついていた、いないはこの際どうでもいい。問題は君に嘘をついて、君が綾のことを諦めて特をするのは誰だってことだ」
「そんな、僕に綾のことを諦めさせてメリットがある人なんかいますか?第一この事を知っているのもごく限られた人だけですよ」
「まぁ、ぱっと思いつのは綾の現在の宿主だな」
「まさか!」
「そうだ。その例の少女が関係しているのは間違いない!」
綾の現在の宿主は例の少女だ。ということは少年は少女の協力者で少女が綾を返したくないために僕に嘘をついたということなのか?その可能性は充分にありえる。そもそも少女が少年のふりをして接触してきたのか?そもそも少女自信がが魔法使い?聡は混乱した。
そして聡は大事なことを見落としていたことに気がついた。そう、綾の宿主である少女自信の気持ちを考えたことがなかった。もし仮に綾との間に友情が芽生えればあるいは……綾が帰りたくないと言った真意がそこにあるのでは?ダメだ先ほどから悪い方に考えてしまう。
「さてと、だいぶ面白くなってきたところで1つ確認しておくか。君は少女自信が黒猫の主人だと考えたことはあるか?」
「それは、さすがにないんじゃないんですか?だってその子写真を見るからに普通の感じの子でしたよ。とても力をもっているようには見えませんでした。それに仮に力を持っていたとして交通事故に巻き込まれることになりますかね?力を使っていくらでも回避する方法があったと思います」
「そうだな確かにその可能性はないな。だが、黒猫が我々に協力してくれたようにあるいは少女側にも……まさかな。そんなことが果たしてあるのだろうか?だとしたらまずいな」
「何か気づいたことでもあるんですか?」
「いや、そもそも黒猫の主人は今回の事件に何らかの関与をしている。それは間違いない。表立った動きはしていないがそれでも我々に協力してくれると黒猫は言っていた。しかし今回の夢の件の人物と黒猫の証言する人物が同一人物のようには私には思えない」
「つまりどういうことですか?」
「君も鈍いな。つまり魔法使いは複数、最低でも2人以上は存在している。しかも1人は我々に挑発的な態度をとってきている。それが少女側の協力者ならまだかわいいものだが、違うなら大変なことになるな」
「すいません。わかりやすく説明してくれませんか?」
「今回の件が前者ならその少年は少女の協力者ということになる。君と綾の仲を裂きたいのも頷ける。綾を君に返したくないのだろう。仮に後者なら間違いなく、また君か綾のどちらかに接触してくだろうな。そいつは魔法使いで尚且つ、どちらにも属さない愉快犯ということになる。まぁ君のためにわかりやすくシンプルな言葉で言うと綾の身が危ない!」
桃花のその言葉に聡はただ黙って聞いていることしか出来なかった。




