接触
相沢綾のふりをするのは聡には荷が重かった。おそらく多くの人は他の人にならすまして生活したりしないであろう。
少し前までは女子生徒として問題なく学校に通うことが目標だった。しかし今では綾として暮らさなければならない。そう綾の世間体まで気にしなくてはならないのだ。
「綾、また部活始めないの?」
「ごめんなさい、事故のせいで上手く走れないんです」
「でも、足は完治してるんでしょ?」
「体じゃなくて心の問題なのかもしれません。走るのが怖いんです」
同じ部活動だった歩美のとの会話で聡は思った。ごめんな歩美、僕じゃあ綾の体を上手く使えないんだ。
聡はできるだけ事故の前の綾の生活をしようと心がけた。綾の魂が戻ったとき普段と変わりなく生活できるようにだ。ただどうしても真似できなかったのが、綾の記憶と運動神経だった。
幸いにもどちらも事故の影響という事で誤魔化すことができた。友達だち付き合いも慣れないガールズトークやファッションも必死に調べなんとかばれずにすんでいる。むしろ聡でいるときより友達が多いのが皮肉なものだ。
こんな生活を後どのくらい続けなければならないのか?
綾の体を死なせないために取った苦肉の策ではあるが、その先のことは考えてなかった。
「せめて、魂の手がかりでもあればな」
黒猫曰く
「魂は誰かに乗り移ったかも知れないにゃ」
あの事故での被害者は綾だけだ。
他に死体でもないかぎり乗り移るものなんてないはずだ。
でも万が一生きた人間に乗り移ったとしたら…
そう思うと聡は気が気ではなかった。
あの事故の関係者を調べればあるいは?
無理だ!あの場には野次馬も大勢いた。1人1人を特定するなんてできるわけない。
結局は綾の方から何かアプローチをかけてくるのを待つしかない。でもそれはいつになるのかわからない。
黒猫とはあの後から会っていない。
何か自分にできることはないだろうか?
聡は暇な時間ずっとそのことを考えていた。
そんなある日のことだった。
「相沢聡君ですね、あなたに話しがあります」
授業終わりの放課後、下駄箱で靴を取ろうとした瞬間だった。聡が振り向くと、そこには黒髪でスラッと背の高い美人な女生徒が立っていた。
「だれですかあなたは?僕に何の用があるんですか?」
それが聡と神宮寺桃花の出会いである。
「あなた私の部活に入りなさい!」
それが桃花の要求だった。
誰だこの人は?
聡は自分の交友関係と綾の交友関係を洗いなおしたがこんな生徒は記憶になかった。
それにしてもきれいな人だ。そうは思っても僕が断ることに変わりはない。
そんな時だっ
た。
「あはっはは」
その瞬間聡は大声で笑い出した。
違うこの女生徒の言っていることがおかしかったんじゃない。
ではなぜ聡は突然笑い出したのか?
その答えは………
別の場所
「あはっはは、やめて下さい」
「すいませんこれも調査のためなのであしからず」
「あなた誰なんですか?どうしていきなり?」
「極秘事項」
綾は謎の少女に脇を擽られていた。突然のことに聡も驚いた。後ろからいきなり襲われたのだ。先ほどの聡が笑い出した原因もすべてこの少女にあった。
綾より一回り、いや二回りくらい小さな少女もはや小学生にしか見えないのだが西野雫の攻撃がやむことはなかった。
元の場所
「ああ、雫もいいよ。ちゃんと確認したから」
そう言って女生徒は携帯をしまった。
その合図で綾に体が解放されたのがわかった。
まずい。なぜだがわからないがこの女生徒は自分の秘密を知っている。
「やはりな感覚を共有しているのか?」
桃花は不気味に笑ってみせた。