表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1人2役、ではなく1人2者  作者: 秋ルル
本編
48/71

桃花の弱点?

聡は授業が終わるとある場所へ向かった。それはもちろん部室である。いつもより、足早になる気持ちを押さえつつ聡と綾は部室の前にたどり着いた。


「部長いますか!」


聡は勢いよく扉をあけた。もう自分の手で負える段階ではないことはわかっている。今、綾の置かれている状態は正直わからない。あの別れ宣言も綾の本心だとは思っていない。綾の真意や例の少年の件についても桃花に相談したいことは山ほどあった。


聡が扉を開けるとそこにはぐったりと机に伏せっている桃花とその横に戸惑っている雫の姿が見えた。桃花の様子にいつものような元気さはなく、まるでこの世の終わりのような様子をしていた。


あれ?聡は今まで高まっていた熱が一気に失っていくのがわかった。それほど聡との桃花とには温度差があった。ここの部室に通い始めてしばらく経つが聡は今までこの姿の桃花を見たことはなかった。


「部長?」


「…………」


返事はない。屍のようだ。って、こんなことをしている場合ではない。とにかく今は綾の危機的状況なのだ。桃花先輩には何とか再起してもなはなければ困る。聡は焦った。


少し体を揺らした程度では桃花は全く反応しなかった。仕方ないこうなったら2人がかりでと考えていた時、雫が何かを訴えかけそうな目でこちらを見てきた。そうだ、雫ならこの状況を把握しているに違いない。聡はそう思って雫に聞いてみた。


「雫、部長はどうしてこんな様子なのかな?」


「修学旅行が近いから」


修学旅行?雫から返ってきた言葉は意外だった。


聡の高校は2年生になると沖縄に修学旅行がある。確かそろそろシーズンなのかもしれない。ただ、たかが修学旅行程度でこの気の落ち込みようは尋常ではない。普通修学旅行なんて、舞い上がって喜びそうなものなのに、もしかして先輩は友達が少なくて嫌になっているのかなと聡が思った時、桃花は聡を睨んだ。


「聡君、君は今私に友達が少ないから修学旅行に行きたくないと落ち込んでいると考えなかったか?だとしたらとんだ勘違いだな。私は例え1人でも生きていく人間だ」


そう言って桃花は体を起こして聡の方を睨んできた。


相変わらすこちらの心を読んでくる先輩である。しかしそうでなかったとしたら他に何かあっただろうか?あそこは戦死者も多い土地だか、この図太い先輩が幽霊なんかを怖がるとも思えない。何にかもっと別の、それこそ物理的な何かがあるはずだ。聡は色々思考した結果ある答えを導きだした。


「まさか部長!飛行機が苦手ですか?」


簡単な話だ。嫌いな食べ物があれば食べなければいいし、見たくないものがあれば見なければいい。しかし修学旅行先が沖縄なら避けては通れないものがある。それが飛行機だ。


「うっ」


その反応が全てを物語っていた。桃花の顔が悲痛に歪んだ。神宮寺桃花、完全無欠に思われていた彼女にも弱点はあった。それが飛行機に乗れないことだった。


「部長ー、誰にだって苦手なことの1つや2つありますって」


「下手なフォローはやめろ、かえって傷つく」


「すいません」


桃花のとても悔しそうな顔をしていた。プライドが高い桃花がその事を人一倍気にしているのは言うまでもない。聡も敢えてそこに触れるようなことはやめた。


「そうだ、何かしら理由を着けて欠席するとか、修学旅行を回避する方法はいくらでもありますって」


「そんなことを私が考えていないとでも思ったか?」


そう言って桃花は一冊の冊子を聡に見せてきた。それは修学旅行に用いられるしおりだった。ただそのしおりが他と違ったのは神宮寺桃花専用と書かれており、彼女の沖縄での行動が分刻みで記されていた。


「これは……しおりというより予定表ですね」


「そうだ。君も知っての通り私はこの学校の顔だ。そのため一般の生徒とは別に広報用の写真を提出しなければならない。後はわかるよな。今の時代どこも少子化で学校は生徒とを集めることで必死になっている。私はそのための広告塔だ」


桃花には学校のホームページや来年の新入生に向けたパンフレットように様々な写真が求められていた。しかも撮影場所それぞれに詳細に感想を書くことが義務付けられている。プロのカメラマンも同行するところをみると学校もそうとう力を入れていることがうかがえる。


仮に飛行機を克服したところで桃花には楽しい修学旅行なんてものは存在しなかった。下手なアイドルなんかより過密なスケジュールをこなさなければならない。聡も流石に気の毒になってしまった。


「うわー頑張って下さいね」


「随分他人事のように話すじゃないか聡君?」


「いやだって、こればかりは僕ら手の施しようないですよ」


「ちなみに私がこれに同意しなければこの部は解体され、部室も没収されるぞ」


「部長まさか!?」


「死なばもろともだ」


桃花の目は本気だった。それは事実上この部の廃部を意味する。つまり、聡と桃花の関係もそこで終わってしまう。いや、関係は続くかもしれないが、以前のようなこの部屋でゆったりと過ごす日々は間違いなく続けられない。聡もそれは避けたかった。ここは聡にとって唯一の自分を偽らない場だからだ。


「部長ーいい加減にしてくださいよ!飛行機ぐらい我慢してください」


「私だってやりたくてやっているわけではない!それにこの過密なスケジュールをこなせとは君は鬼か?」


「いや、でも部の存続がかかってるんですよ」


自然と会話が大きくなる。桃花はもう拗ねた子供のように聡の言葉に耳を傾けなかった。そんな状態を一掃したのはやはり雫だった。


「ここ無くなるの?」


破壊的な一言だった。雫の目には今にも泣き出しそうなぐらい大粒の涙が溜まっていた。そして体をぷるぷると震わせながら何とか涙を堪えていた。そんな雫の姿を見て桃花が動揺しないはすがないのである。桃花は何だかんだで雫に弱いのだ。


「だっ大丈夫ですよ。雫先輩。きっと部長が何とかしてくれます。ほらあっちで私とオセロでもしませんか?」


「……うん」


綾はそう言って雫と部屋の隅に移動した。雫の肩に手をかけたときその少女の不安な思いは綾越しに聡にも伝わってきた。この場所は聡以上雫にとっても大切な場所なようだ。


綾と雫が立ち去った後で聡は桃花を睨み付けた。流石に桃花も雫の姿を見てばつが悪そうだった。


「そんな目で見るな私だってわかってるんだ。だが、どうしても人には克服できないものがあるのだ」


「そうですね。今から修学旅行先変えてもらえないんですか?例えば京都とか」


「君は何年も続いてきた伝統行事を一生徒との意見だけで変えられるとでも思っているのか?」


「部長の力ならあるいは」


その言葉に嘘はない。聡は本気で桃花ならやりかねないと信じていた。少なくとも生徒1人の個人情報を調べあげたりその他人脈は聡よりあることは確かな事実だ。


「流石に無理だな。教師1人を買収するならともかく、学校全体が相手となるとな」


教師1人ならいけるんだなぁと聡はあきれ果てたが、流石の桃花にもそこまでの権力はなかった。もともと桃花は類いまれなる美貌と才能をもってはいたが、親が学校の理事長といったお嬢様というわけではない。学校とはギブアンドテイクの関係で付き合っているだけで今回のように予め念入りに用意されたスケジュールを桃花の独断で変更することは無理なのである。


ただし、桃花にはカリスマがあり校内の生徒からも高い支持を得ている。本気を出せば学校を相手取って大々的なデモもできないことはないが今回のように飛行機が苦手だからといった理由でやることではない。


桃花はオセロを始めた綾と雫の姿を見ながら聡に話しかけた。


「そういえば君は私に用があったんじゃないか?」


桃花は唐突に話題を反らした。聡は苦し紛れの現実逃避かなと思ったが、そもそも今日ここへ来た理由は桃花に例の夢のことを相談するためだったので話に乗っかることにした。


「そうです!実は綾のことで少し進展があってそれを相談したかったんです」


「綾ねーあの女いったいどんな情報を……」


「いえ、森さんの件とは別に事件があったんです」


「そうなのか?いったい何…………ところで聡君、君は妹のためならどこまでやれる?」


その時空気が変わった。いつもの桃花なら好奇心に身を任せ、聡がお節介だと思うほどにぐいぐいくるのだが、このときの桃花はどこか邪心があるように聡に質問してきた。


「どうしたんですか急に?そりゃ僕に出来ることなら何でもやりますよ」


「今、()()()と言ったか?」


何か変なことを言ったか?聡は少し考えたが桃花の意図がわからなかった。まさかこの一言が後にとんでもないことになるとは聡はまだ知らなかった。


「言いましたが、もちろん殺人とか法を犯すことはしませんよ。後エロいこともしませんよ」


「いや、大丈夫。もちろん君に罪を犯して欲しいわけではない。ただ、ちょっと私の代わりに沖縄に行ってきてくれ」


「えっ!?すいません僕の聞き間違えでしょうか、どうやって僕が先輩の代わりに沖縄に行くんですか?そもそも僕は1年生ですよ」


「仕方ないなもっとストレートに言ってやろう。()()()()()()()()()()()()()()


桃花は真面目な顔でそう言い放った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ