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1人2役、ではなく1人2者  作者: 秋ルル
本編
47/71

夢の中

綾は帰ってこない。夢の中で聡はエスと名乗る少年にそう告げられた。あまりにも突然で非情な一言だった。エスはそれを死刑宣告のようにまるで表情を変えず告げたのだった。


「嘘だ!」


聡はとっさにそう言い返した。もちろんその言葉に確証なんてないが聡はその少年の言葉を信じるわけにはいかなかった。夢なら覚めてほしいと思ったが、今いるのが夢の中である以上ここで起きてしまってはこの少年とのコンタクトを絶ってしまうことになる。聡は仕方なく別の質問をすることにした。


「帰ってこないとはどう意味なんだ?綾がもう死んでいるのか?それとも黒猫の魔法が使えないのか?」


綾が帰ってこないという言葉だけで全てを把握することは難しい。そもそも帰ってこないのか帰ってこれないのか、そこに行き着いた過程が全くわからないのだ。今は少しでも情報が欲しい。聡は素直にそう考えた。もし、綾が帰るのに足りない要素があるならそれを埋めればいいのだ。しかし、エスの返答は意外なものだった。


「うーんとねー勘違いしないでよ。お兄ちゃんが今まで考えてきた推理はだいたいあってるよ。お兄ちゃんの妹だってちゃんと生きてる。それこそ、そのお兄ちゃんが探してた女の子の中ね。ただね。お兄ちゃんの妹はもう帰ってきたくないって言ってるんだ」


それは聡の予想を超えたものだった。綾が自分の意思でそう言っているのか?信じたくはなかった。帰ることができるできないではなく、綾の方からそれを拒絶しているというのだ。


聡はエスの表情を見たが表情からは何一つ読み取ることができない。そんな無邪気な笑顔でそう告げてくるのだ。


「どうしてそんなことを……」


聡はそれしか口にできなかった。綾が戻ってくるならどんなことでもするつもりだった。だが、綾本人にその気がないのなら聡には他に手立てはない。


考えてみれば綾の方から今までコンタクトは何一つなかった。こちらは必死に探しているのに向こうからは一切の連絡はない。それはもしかしたらもう戻ってくる気がないからではないか?


だめだ!どんどん悪い方に考えてしまう。


「うんとね、今の生活が気に入っているのかな?もうその女の子とは離れたくないって言ってたよ」


「そんな……」


そこには絶望しかなかった。僕が今までやってきたことは無駄だったのか?聡はそんなことを思ってしまった。


綾とは物心ついた頃から一緒だった。お兄ちゃんなんだからと両親に言われることはあったが聡してみれば1年も離れていない妹だ。ましてや小、中、高と同じ学年なのだ。それでもだった1人の兄妹でなんだかんだで仲はいいと思っていた。それすら独りよがりの思い込みだったのか?もしかしたら綾は僕のことや望なんかより大切な人ができたのかもしれない。


そうこうしていると突然エスの隣に綾の姿が現れた。その姿は聡には見慣れたものだったが、それが普段の自分ではないことはわかっていた。


あまりにも突然のことに聡は何も言うことができなかったが、綾の方から話しかけてきた。


「お兄ちゃん久しぶり!元気にしてた?」


それが第一声だった。言いたいことはたくさんある。そして言わなければならないこともたくさんある。だが今はそんなことを考えている場合ではない。


「綾!?今まで何処にいたんだ?そんなことはもういい帰ってこいよ体のことは心配しなくても何とかしてある。望もみんなもお前の帰りを待ってるんだ」


「ごめんね、お兄ちゃん。あの子には私がついてないと……だから私は帰れない。みんなには上手く言っておいてね……バイバイ」


「待って!綾っ僕は……」


聡はとっさに引き留めようとしたが体が上手くいうことをきかない。綾に近づきたいのに前に進まない。まるで足が宙に浮いているような感覚だ。全力で走っているはずなのに……そして聡が全てを言い終わる前に綾の姿は深い闇のなかに消えていった。隣でエスは楽しそうな表情でこちらを見ている。


綾……これで最期だとでもいうのか?いや、綾は望をはじめ数多く友達を残したまま状態だ。このまま彼女らになにも言わずにさよならなんてあまりにも非情過ぎる。そうだ、綾はそんなやつじゃない。戻って来たくないのにはそれなりの理由があるはずなんだ。聡はそう考えた。


一瞬エスの表情が歪んだように見えた。今まで終始笑顔だった表情が真顔に戻ったような気がした。だが、それがなんだったのかはわからない。そのまま視界がフェードアウトしていき次第になにも見えなくなった。


そして朝を迎えた。


聡の体と綾の体が同時に目を覚ます。目が覚めたときあれはただの夢だったのかもしれないと思った。しかし、ただの夢でないとするなら確かめなくてはならない。


普段と変わりない日常光景。普段と同じように顔を洗い、歯を磨き、朝食を食べ学校に行く。いつものように授業を受け、友達と会話し、そして放課後向かう先は超常研。神宮寺桃花のもとだ。


あの先輩ならきっと何とかしてくれる。いつも困ったときは味方になってくれる。この夢のことを話したらまた興味を持ってくれるだろう。なぜならあの人が神宮寺桃花だからだ。

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