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1人2役、ではなく1人2者  作者: 秋ルル
本編
44/71

√美穂

水族館デートも終わり、2人が向かった先は水族館からそう遠くない1件のありふれたファミリーレストランだ。カップルのふりであったが、思い返せばあそこまでしなくてもよかったと聡は反省した。美穂はというとやっと現実の世界に帰ってきたようであった。


カップルのふりはもう終わったはずなのにいつまでたっても互いに意識してしまう。この気まずい空気の中先に沈黙を破ったのは美穂の方だった。


「さて、本題に入らせてもらいます。あれから相沢さんが捜して欲しいと言われた女の子を私なりに調べてみました」


唐突にそういい始めた美穂に聡も疑問を抱いたが、美穂の声が上ずっているのに気づき黙っていることにした。今、余計なことを考えちゃだめだ。森さんがせっかく先に切り出してくれたんだ。ならそれに乗っかろうと聡は反省した。


先程までのおどおどした雰囲気とは一転、美穂は人が変わったように自分の成果を報告してきた。どうやら何かジャーナリズムに火がついた様子だった。


「結論から言ってしまえばその女の子の身元はわかりませんでした」


美穂のそれは意外にもあっけない結果だった。少なくとも手紙には何か大きな秘密をつかんだようなことを匂わせていたが、現実はそんなに甘くないと聡は感じた。


「そうですか」


聡がそう気を落とした時だった。


「でも、1枚写真を手に入れることができました」


写真?美穂の提出したスマホの中には確かに女の子が現場から去っていく姿を押さえた写真があった。この子がそうなのか?この子の中に綾はいるのか?聡はそんなことを考えながら、美穂の話の続きを聞いた。


「一応、周囲の住人の方にも聞き込みをしましたが、目ぼしい情報は得られませんでした。それにしても、おかしな話なんですよね。その写真を提供してくれた方に話を聞いたんですけど、その子事故現場から逃げだしているらしいんです。事故現場も騒然となっていたらしく、そのことに気づいたのもその人だけだったらしいんです」


どうやら森さんに写真を提出した人は目撃者の1人らしい。どうやって森さんがその人と接触したかはわからないが、きっとそこには彼女の涙ぐましい努力があったのだろう。


しかし、話はこれで終わりではなかった。美穂の次の発言に聡は耳を疑った。


「それでその人も気になって後を追っかけたらしいんですけど、曲がり角を曲がったところから急に消えたとおっしゃってました」


「消えた?見失ったのではなく?」


「普通に考えればそうですよね。ただ、辺りに隠れるようなところもなかったようです。その人もそこまで真剣に後を追っていたわけでもなかったのでそこで諦めてしまったらしいです」


「消えたねー」


聡は美穂の話を自分なり考えて整理した。要約すると事故の目撃者の1人が現場か立ち去る女の子を確認したらしい。しかしその後、後を付けようとしたらその女の子は消えたらしい。人が物理的に消えることなんて果たして可能なのか?普通に考えれば見失ったと考えるのが当然なのだが、もちろんその人が消えた瞬間を目撃したなら話しは別だか……聡は1人で考えてみたがまるでわからなかった。頭の中では桃花先輩がこちらを見て笑う姿が容易に想像できた。


「その、私役に立てましたか?」


美穂はそう問いかけた。その姿はどこか弱々しい子犬を思わせる風防だった。もし、仮に「はっ?こんなん全く役に立たないよ」とでも言ったら彼女はまた1から情報を集めてくるだろう。だからこそ聡は精一杯感謝の意を示した。


「えっ?もちろん僕じゃここまで集められなかったし、森さんには感謝してるよ」


「本当ですか!」


今度は先程の様子が嘘のように美穂の顔が明るくなった。そこで聡は気づいてしまった。


おそらく森さんさんは僕のことを好きではない。正確にはラブではなくライクなんだと思う。彼女は誰かに認められたかっただけなんだ。彼女の起こした事件だって結局は認めてもらいたかっただけなんだ。だからそれは僕じゃなくてもいい。聡はそう考えた。


「本当だよ、できればその目撃者さんの連絡先とか知らないかな?ちょっとあって話を聞いてみたいんだ」


「どうしてですか?」


それは聡にとって意外な一言だった。今まで美穂は何かと協力的だった。それは彼女の弱味に漬け込んだ部分もあるが、懐疑の反応をされるとは思っていなかった。


「その~私の思い違いならいいんですがもしかして……復讐とかではないですよね」


美穂のそれは聡の予想の上をいっていた。


「だって変じゃないですか?どうしてそこまでこだわるんですか?あまり詳しく聞いてなかったですが、相沢さんはどうしてその女の子に会ってどうしたいんですか?」


聡は美穂の疑惑の眼差しを聡に眼を背けるわけにはいかなかった。何か上手いことを考えなくては、確かに妹が交通事故に遭っているのだ、その原因である女の子を見つけて復讐したいと考えるのはある意味普通なのかも知れない。しかし、聡には本当に復讐したいという気持ちはない。


「それは……」


どうしようか?もちろん今さら全てのことを説明するつもりはない。話したところで信じてもらえるとも思えないし、既にそのタイミング逃してしまっている。


「綾のためなんだ。詳しくは話せない。どうしても聞きたいなら妹から直接聞いてくれ」


「わかりました。今回はそういうことにしといてあげます」


美穂はそう言って納得してくれた。いや正確には納得していないのかも知れないが少なくともこれ以上の追求はなかった。そして、あるものを聡に差し出した。


「これは?」


「キーホルダーの片割れですよ。片方は相沢さんが持っていて下さい」


「でもこれ2つ揃わないと、真ん中の子供が浮かび上がらないものですよ」


「わかってます。だから持っていてほしいんです」


さすがに聡もここまでされて相手の好意に気がつかないほど鈍感ではない。ただ、聡はどうしても美穂のそれを受けとるのに躊躇いがあった。もちろんそれは美穂に綾のことを隠している後ろめたさもあった。そして望の件もあった。


「その……僕はまだ……」


「いいんです。相沢さんに想い人がいることはわかっています。では、私も今日の思い出を1人の物にしたくないんです。だから……受け取ってもらえませんか?」


美穂のそれは恋愛の告白というよりかは懇願に近いものだった。美穂はやはりどこかで引いてしまう部分がある。好きな人に好きな人がいると知ったとき。それが自分ではないとわかった時にとる行動は諦めるか諦めないか、またどちらとも言えない保留といった行動をとる。美穂のそれは少しいびつな逆に言えば人間らしいものだった。


「森さん僕は……」


聡が全てを言い終わる前に美穂は聡の手にキーホルダーを握らせてその場を走り去ってしまった。聡の手には美穂の手の感触と渡されたキーホルダーだけ残った。美穂からしてみれば最大限勇気を出した結果だった。この日初めて美穂は自分から聡の手を握ったのだ。


空はうっすら暗くなってたきた。夕焼けに燃える橙色とそれを覆い隠すような空模様だった。

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