水族館8
望との一件の後聡は考えていた。だが結局聡は美穂とのデートを続行することに決めた。代わりに綾で望の家に向かうことにした。
そんなことは露知らず美穂は楽しそうにこちらを見てくるのだ。別に二股をかけている訳ではないはずなのだがこの罪悪感は何処から来るものだろうか?聡はそう感じていた。
「相沢さん。せっかくだし前行きましょうよ。ほら何故か席空いてますよ」
水族館でイルカやシャチのショーの場合大抵1番前の席は空いていることが多い。それはなぜだろうか?答えは単純で水しぶきが飛ぶからである。水も真水ならまだしももちろん海水であり、海水はベタつくのだ。聡はその事をよく知っている。
「うーんと。そこだと水被っちゃうからもう少し離れたところにしようか」
「大丈夫ですよ。ちゃんとレインコート持ってきましたから。あっ相沢さんの分も用意していますよ」
「うん。さすがに恥ずかしいからそれ着るぐらいなら素直に濡れるよ」
「そうですか。残念です」
結局聡たちは少し離れたところでショーを観戦するとにした。イルカのショーなんて何年ぶりに見るだろうか?確かそのときは両親と綾も一緒だったなと感慨にふけっていると案の定手前側はずぶ濡れだった様子だった。ふと前を見てみるとそこには見覚えのある顔が並んでいた。やっばり手前に座らなくて良かったと思った。
「さていよいよこの時が来ましたね」
「そうですね。でどうしますか?作戦とかありますか?」
「えっと……ないです。どっどうしましょう?」
「そうですか……なら僕に全て従って下さい」
今日の目玉はイルカのショーを見ることではない。ここからキーホルダーをゲットすることだ。だか、いざ貰いにいくとなると足がすぼんでしまう。既に森さんは怖じ気づいている。ここは僕が引っ張るしかない。大丈夫だ。ずっと綾のふりをしてみんなを騙してきたんだ。恋人のふりをして周りを騙すことなんて造作もないはずだ。
「すいません。カップル限定のキーホルダーが貰える場所はここであってますか?」
「あっはい。そうですよ。彼氏さんですか?今順番に配っているのでこちらの列にお並び下さい」
「わかりました。ありがとうございます。大丈夫、美穂?」
「はっはい」
美穂というその2文字を聞いた瞬間美穂は壊れた。聡もやり過ぎた気もしたが、もう後には引けなかった。こうなったら完全にこなしてみせる。
「それでは記念に写真を撮らせていただきますよ。そうですね何かポーズお願いします」
という声が前の方から聞こえた。
写真と言われて聡は戸惑った。どうやらここでは記念に撮影までしているようだ。そしてポーズだ。前の組はハグをしたり、ハートを作ったり、中にはキスをする組まであった。だがどれもいまの僕たちにはハードルが高過ぎる。隣の森さんは既に放心状態だ。
結局手を繋で並んでいる姿を撮ってもらうことにした。そのせいかどこか初々しさがカメラマンには好評だったようだ。聡は現像するか悩んだがせっかくの記念なので現像してもらうことにした。そしてやっと念願のキーホルダーを手に入れることができた。
それは雄と雌の2種類あって2つのイルカのキーホルダーをくっつけることにしたよって真ん中に子供のイルカが浮かんでくる特殊な造りをしていた。聡は現像した写真と合わせてそれを2つとも美穂に渡した。
1時間もかからない出来事のはずなのにとても疲れた気がした。森さんはというとやっばり放心状態だった。
美穂が意識を取り戻したのはそれからさらに10分後のことだった。
「相沢さん今日はありがとうございました。何だかモヤモヤした気分が吹っ切れた気がします。この後ですがその約束通り私の捜査の成果をお話しします」
「森さん。そのここではっきりと言っておきます。確かに僕はそのために今日森さんに付き合いました。でも今日はそんなことを抜きにして森さんの新たな一面が見えて楽しかったですよ」
聡は本心からそう言ったつもりだが美穂はそれを聞いて顔が紅潮していってうつむいてしまった。幸いなことに陰になってしまいその姿は聡には見えなかった。
「そういうことしれっと言うのやめて下さい。私は男の人に免疫ないので簡単に鵜呑みにしますよ」
「なんでそんなに怒ってるんですか?」
「怒ってません。相沢は不思議な人ですね。何だかこちらの心境を全て分かってるみたいです。何だか女性にも慣れている気がしてずるいです」
慣れていると言えば慣れているがそれは聡が付き合い慣れているということではない。あくまで綾の友達との付き合いで得た経験であり、恋愛は皆無である。
「そんなことはないですよ。今まで付き合ったことすらないですから」
「では聞きますが今好きな人はいますか?」
「……」
美穂のその問いに聡はとっさに答えることができなかった。質問が急すぎたこともあるが明確に誰が好きかと尋ねられると困ってしまう。そんな聡の様子を見て美穂はだいたいを把握した。
「その反応はいますね」
「いや僕は…」
否定はできなかった。もしギャルゲーで森ルートにいくならここで「お前が好きだ」とでも選ぶのかもしれない。美穂の気持ちは綾という隠しアイテムによってだいたいは分かっているのだ。だが聡にはそれ以上踏み込む勇気はなかった。
嫌われたかもしれない。そう思っていた聡に美穂は意外な言葉を返した。
「別にいいじゃないですか?好きな人がいたって相沢さんの周りには素敵な女性沢山いますし、隠すことでもないと思いますよ。ただ私からアドバイスするならあの人ならやめた方がいいと思います」
うん。それは僕が森さんに言った言葉だったねと思いながら。
「大丈夫です。多分あの人ではないと思います」
聡は即答した。




