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1人2役、ではなく1人2者  作者: 秋ルル
本編
42/71

水族館7

<聡>

「相沢そのスマホ鳴ってますよ」


「うん、そうだね」


聡のスマホは規則正しく鳴っている。何処からかかってきているのかは見なくてもわかる。聡は周りに迷惑にならないよう通路の端によった。


「あの……出なくていいんですか?」


鳴り続けるスマホに一向に全く出る様子のない聡の姿に美穂は不思議に思った。


「うん、まだ今はね」



<綾>

「出ないわね」


「きっと何か用事でもあるんでしょう」


「うーんアイツに限ってそんな事ないとおもうけど、アイツ土日もずっと家に籠ってタイプでしょ」


「そうですね」


綾はそう相づちした。


さすが望だ。さすがに付き合いが長いだけに僕のことをよく知っている。もちろんいつもなら土曜日だろうが日曜日だろうがずっと家にいる。ただ弁解させてもらうなら以前のように引きこもっているわけではない。2つの体を操っている以上休めるのは本当にこのときだけなのだ。とりわけ、綾はよく誘われて出掛けなければならないことが多いので、僕は自室にいることが多い。


望のかけた電話に聡は出なかった。電話にでなければ会うこともない。至極当然なことだがその程度で望が諦めないことは聡もよく知っている。


「綾何か聞いてない?」


「いえ、私は何も聞いてないです」


「直接家に行くしかないか」


その時、突然綾のスマホが鳴り出した。とっさのことに望も困惑した様子だった。望が着信相手を確認すると相手は聡からだった。


『もしもし、綾どうしたの?』


物事には熱というものがある。勢いと言ってもいい。人にはある程度まで感情が昂れば後先考えずに行動するタイプがいる。こういう場合の対処法は簡単だ。少しでいいから間を作ってあげることによって自分を客観的に見て冷静を取り戻すことができる。


例えばデパートであるものが欲しいと思っても、家に帰った後でよくよく考えればそこまで欲しくなかったり、ある人に勇気を出して告白しようとした時、急に他の子に呼び止められ、結局踏ん切りがなくなるなんてことはよくあることだ。


さらにこちらから電話をかけることによって会話の主導権をいただく。ここまでしておけば、望もそう迂闊に頼みごとはできないはずだ。


と聡は考えていたが、その目論みは甘かった。望にそんな理屈はそもそも通用しない。


『あっ、聡?私望。ちょっと今綾からスマホ借りてかけてるんだけど、今暇かな?』


『えっ望なの?急にどうしたの?今ちょっと手が離せない用事があって……』


『あっそう。何してるの?』


『えっ?その……そんなの望には関係ないだろ?』


『何よその言い方!別に何してるか聞いただけじゃん』


その時だった。突然館内にアナウンスが響き渡った。


『次のイルカショーは12時半からはじまります』


それはイルカショーの定期連絡のアナウンスだった。それは水族館の入り口近くにいた望たちにはもちろんすでに中にいた聡たちにも聞こえた。そのアナウンスが聞こえたあと電話は切れてしまった。いや、切れたのではない望が切ったのだ。そう望は全てを察したのだ。


「綾、ありがとうね。これ返すよ」


「あの……」


「いいのよ。私が悪いのよ。あのね、綾が事故に遭ってアイツどれだけ心配していたか分かる?そりゃもう必死だったよ。この前久しぶりに話した時もあんたのことを必死に受け止めようとしていた。私ですらたじろいたのに」


「…………」


「変わってないと思ったのよ。だからまた昔みたいに、3人で遊んだあの頃みたいに。そうよね、時間は止まってないだものそりゃ彼女くらい出来ているよね」


「それは……」


「綾、たしか用事があるんだったんでしょ?呼び止めて悪かったわね。私はもう帰るわ。じゃまた学校で」


「また、学校で……」


水族館を去っていく望の背中に綾はそれ以上声をかけることはできなかった。


何だろこの気持ちは?僕が悪かったのだろうか?隠し事をしたのが不味かったのか?綾のことは他人に話せる内容ではないし、森さんのことは今日だけの付き合いだ。そもそも今日望と会う約束なんてしていない。勝手に連絡してきた方が悪いじゃないか?だいたいキーホルダーが欲しいためだけに僕を使うなんて望は都合がよすぎる。言いたい文句はいくらでも出てくる。たが聡は負い目を感じていた。


そういえば望と最後に喧嘩したのはいつだっただろうか?聡はふとそんな事を考えた。昔は仲良くやっていても年か経てばそんな関係は崩れていってしまう。男女だからだろうか、年頃になれば否応なく意識してしまう。そんな関係が嫌だった。


そうだ。避けていたのは僕の方だ。綾と望が2人で仲良く僕をその中へと誘ってくるのだ。恥ずかしかった。今思えばそんな下らない理由だった。だから逃げたのだ。あの暖かいぬるま湯の中から。望が僕に話しかけなくなったのも僕の気持ちを察していたのだろう。


他の人より2倍の視野を持つことによって大人になっていた気がした。森さんの件に関してもかなり上からの視点でものを見てしまった。好きな人は誰か?偉そうなことを言ってしまったが、僕の方がはっきりしてないじゃないか。綾のことを言い訳に自分に逃げていたがこの件に綾は関係ない。



<聡>

「相沢さん。その大丈夫でしょうか?先ほどの電話からお顔が優れませんが……」


「大丈夫だよ、森さん。ただ自分がどうしようもなく嫌なやつに思えてきてさ」


「そっそんな事はないと思いますよ!あの人に比べれば……あっ今のことは聞かなかったことにして下さい」


あの人にというのはおそらく桃花先輩のことだろう。人と比べるのはどうかと思うが桃花先輩に比べれば自分はましなのか?いや正直に話せていないことを考えれば桃花先輩以下だな。聡はそう思った。


「あっ部長!どうしたんですか、こんなところで?」


「えっ?」


美穂はまるではとが豆鉄砲を食らったかのように動かなくなってしまった。そして、意識を取り戻すと今度はしゃがんで震え出してしまった。聡もさすがにやり過ぎた気がした。


「あはは、冗談ですよ」


「前言撤回します。相沢さんは意地悪です」


美穂は半分は泣きながら半分は怒りながらそう言った。

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