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1人2役、ではなく1人2者  作者: 秋ルル
本編
40/71

水族館5

「相沢さん、相沢さん、見てくださいナマコですよ!触ってみませんか?」

「あっ思ったより固いですよ、後なんだろうざらざらします」

「ヒトデだーかわいいですね」


「森さん、乱暴に扱ってはダメですよ」


「大丈夫ですよ。そんなことしませんから」


今、聡がいるのは水族館の入口付近にある水辺の生物をさわることが出来るコーナーである。ここには様々な生物がおりヒトデやウニ、ナマコなど触ることもできる。美穂は何か吹っ切れたようで先ほどからテンションが高い。


「はい」


と言って聡は美穂にさりげなくハンカチを渡す。濡れた美穂の手を気遣っての行為である。


「その、ありがとうございます」


美穂はそれを受け取るとさっと手を拭いた。そして何かに気がついたように顔を赤く染めた。


「その洗って返しますから」


「気にしないで下さい、これくらい」


聡の荷物にはあまり男性が持ち合わせないハンカチ、ポケットティッシュその他、手鏡、リップクリーム、絆創膏、ソーイングセットに至るまで全て入っている。これも2つの体を持つ副作用なのだ。


しかし、美穂はもちろんそんなことは知らない。デートだと浮かれてはしゃいで、そんな自分の姿は聡にはどう見えているのか美穂は気になって仕方なかった。さらに言えば自分の方が年上なのである。今の姿はどう見ても私の方がだらしないのではないだろうかと美穂は考えた。


一方、美穂の頼みで結局今日1日だけのデートに付き合うことにした聡だが、そもそも聡とってもデートは初めてである。緊張してないわけではない。綾である時、何回も女の子とは会話している。だから会話が不慣れというわけではない。なのにどうしてこんなにもドキドキしてしまうのか?聡は美穂の気持ちを知っているがゆえに複雑な感情を抱いていた。


Q.両思いというのは存在するだろうか?

A.両思いは存在するが必ずどちらかに優位性が生まれてしまう。


もし、自分のことを好きだという人がいたとする。実は自分も前からその人のことが好きだった。これは両思いになるだろう。では優位性の面ではどうだろう?ポイントは相手が自分のことを好きだと知ったタイミングだ。例えは自分から告白するとして相手が自分のことを好きだと知っているかいないかは大きな違いがある。


聡は美穂との時間を過ごしなから考えるのである。もし、自分から森さんに告白したら、彼女は付き合ってくれるかもしれない。今彼女と過ごしているこの時間は素直に心地いいものがある。だが、それは全て彼女の気持ちを知ってしまったから起きる勘違いなのではないだろうか?その気持ちを知らなかったとしたら自分はどうしていただろう?聡は悩んでいた。


そもそも自分は人を好きになったことはあるのだろうか?


女の子に対してかわいいだとか綺麗だなとか思うことはある。だからといって告白したことは1度もない。もちろん付き合うということに興味がなかったわけではない。ならそれは何故だろうか?答えは簡単である。相手の気持ちが分からないからである。そして過去の自分はその分からないまま告白する勇気はなかったのだ。


そういえば昔、望と口を聞かなくなったことがある。今までは男女の価値観の違いとか思春期だからとか自分を誤魔化してきた。望が急に話しかけてこなくなったと思っていた。だか、よく考えれば自分から話しかけることもしなかった。


この体を利用すれば今後その手のことには苦労しないだろう。とりわけ綾という存在は自分とは違い、相手の心に入っていくことが出来る。だがそれでいいのか。聡は自責の念に駆られていた。


「相沢さん、相沢さん。あのー聞こえてますか?」


「ああっはい大丈夫ですよ。どうかしましたか?」


「そのなんか私ばかり楽しんじゃってすいません。相沢さんはその、やっぱり私なんかと一緒じゃ楽しくないのかなって思っちゃって」


美穂は心配そうにこちらを見つめてきた。女の子に心配をかけているようじゃダメだなと聡は思った。


「そんなことないです。僕も初めてのことなので緊張しているだけです」


美穂には桃花のような容姿もなければ雫のような愛くるしさがあるわけでもない。ちょっぴり図々しかったり、ちょっぴり考えすぎだったりする。だか、聡はどこか憎めない気がした。



「さてと私はこれから、どうしようかな?」


綾は水族館の入口付近でずっと時間を潰していた。一応入場券は買ってはいるが、同じものを2回も見る必要もないのでずっとそのまま同じ場所で待機している。怪しまれないように時おり場所を変えてはいるがそろそろ限界だ。


綾として役目は終わったと思う。既に監視の必要もないと思った。桃花先輩もこれ以上は邪魔をしないと言っていたし、2人が中に入ってから既に10分はたつ。仮にこれから知り合いが来たとしても追い付かれることはないだろう。ならもう帰ってしまおうか?そんなことを考えていた矢先である。


「綾じゃない?どうしたのこんなところで」


突然声をかけられた。一応目立たないように変装していたが、誰だろうか?振り返ってみると声をかけて来た相手は望だった。


「きっ奇遇ですね。こんなところでお会いするなんて」


「そのわりには、ずいぶんこの辺りをうろついていたわね」


どうやら望にはずいぶん前から見られていたらしい。今の自分の格好はあまりにも不自然だ。とても思い付きで水族館に来てみましたとか言える雰囲気ではない。


「えっとそれはですね……」


「彼氏とかと待ち合わせしてるの?」


望は怪訝そうにそう聞いてきた。


「違います~」


綾は全力でそれを否定した。

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