水族館2
聡は美穂のを連れて首位続巻に入場した。休日であることと水族館のイベントもあって普段より人が多い。そして目に付くのは親子連れやカップルの姿ばかり、聡は自分たちが場違いな気がした。
そして美穂もそのことを気にしていたのか、突然こんなことを言い出した。
「相川さん、その私たちの呼び方は変じゃないですか?」
「そうですか?」
「そうですよ!恋人同士が互いに名字で呼びあうって絶対おかしいですよ!」
美穂が欲しがっているキーホルダーを手に入れるためには恋人のふりをしなければならない。聡は職員の前でだけ行えばいいと考えていたが、美穂にその気はないようだ。美穂はとの恋人のふりはすでにもう始まっているのだ。そして美穂が綾に関する情報を握っている以上聡は従うしかないのである。
「いえ森さんはいいですよ、僕のことを何と呼んでもかまいません。でも僕は年上の方に対して呼び捨てなんてできませんよ」
これはもはや生まれ持った性格なので変えることはできない。幼馴染の望や出会った第一印象が小学生だった小学生だった雫は同い年だ。桃花先輩は部長と呼んでいるが…そういえばあの先輩をなんで名字で呼ばなかったんだろか?たぶん雫の呼び方が移ったんだろうな。とにかくあまり親しくもない年上の人ににいきなり下で呼ぶことには抵抗がある。
美穂は少し考えてあることを思いついた。
「つまり、同い年ならできるんですね」
「それは、そうかもしれませんが」
「ときに相川さん、誕生日はいつですか?」
「4月11日ですけど、急になんですか?」
「私は1月28日です」
「そうですか……」
「つまり私たちには2ヶ月と少ししか離れていないんです」
美穂の理論は少し強引であるがそもそも学年を4月で区切っているだけなのだ。生まれた年で見れば同じなのだ。それに美穂と聡の生まれた間より聡と綾の間のほうが長い。理屈ではそうだが聡は素直にそのことを割り切れなかった。
「確かに日にちでみればそうかもしれませんが学年が1つ上なことに変わりありませんよね。森先輩と呼んではだめですか?」
「森先輩という呼び方は嫌です。私そんなにできた人間ではないですし、あくまで同じ立場でいたいんです」
たしかに森さんとの出会いは被害者と加害者だ。それでも彼女は必死に綾に関する情報を探してくれたのだろう。そのことを考えれば今日くらいは彼女に付き合ってあげよう。聡はそう思った。
そして美穂は小声で
「それに……先輩じゃ結局名前で呼んでもらえないじゃないですか」
その一言は聡には届かなかった。
「何か言いましたか?」
「なんでもないです」
「怒ってます?」
「怒ってません!ほらもう行きましょう」
そう言って美穂は1人で先に奥へ行ってしまった。聡はそれを必死に追いかけた。周りからはどう見えているだろうか?彼氏が彼女を怒らしたようにでも見えているだろうか?聡は必死に考えたがどうしても美穂が怒った理由がわからなかった。
「おうおうやってるな。まるで安いトレンディードラマでも見せれているようだ」
「桃花、邪魔しちゃ悪いよ」
桃花と雫は少し離れたところから2人の様子を観察していた。2人の姿は年の離れた姉妹しか見えない。桃花が1人だったら何にの男たちがナンパしに来たであろうか。雫のおかげでその手の者はばっさりカットだ。
「邪魔?違うなこれは観察だ!あの女め聡君にその手の乙女心がわかるとでも思ったか?綾の時ならいざしらず、聡君の時では無理だな」
「そんなことよりイルカショー始まっちゃうよ」
雫はショーのことで頭がいっぱいだった。雫はそもそも聡たちの観察に来たわけではない。昨日、桃花に急に誘われて二つ返事で引き受けたのだ。雫自身は純粋に桃花との水族館を楽しみにしていたのだ。
「案ずるなその手のものは日に何回かやるものだ。急ぐ必要はない」
「そうなの?」
その顔は狐につままれたようだった。そしてにこっと笑顔になった。
「そんなことより、聡君に下の名前で呼んでもらうだなんて私だってまだ……そういえば雫は下の名前で呼んであるな、何が違うのだろうか?」
桃花は雫と自分を比べてみた。雫にあって私にないもの桃花は考えたがなかなか思い浮かばなかった。
そもそも私は完璧なのだ。雫はというと、まだ何も見ていないというのにすでに楽しそうだ。もし仮に知らない人に声をかけられたらそのままついて行ってしまいそうな危なっかしささえある。そこで桃花は気づいたのだ。
「そうか、隙をつくればいいのか!」
甘いな聡君!私は完璧なのだよ。つまり意図的に完璧でないこと演じることも可能なわけだ。待っていろ!そのうちに完璧でない私が作り出す完璧な隙というものを見せてやろう。
桃花は1人笑っていた。
ドイツの哲学者にして、多くの名言や格言を残したフリードリヒ・ニーチェにはこんな言葉がある。
『深淵を覗く時、深淵もまたこちらを見ている』
そう、美穂と聡の密会を観察していた桃花と雫にも観察者がいたのだ。
「なんで2人がここにいるんですか!」
綾の目には自分(聡)たちの後をつける2人の姿がしっかりと映っていた。




