水族館1
「ごめんね!森さん。待たせたかな?」
「いえ自分も……私も今来たところです。」
「じゃあ行こうか」
「はい」
そう言って聡は美穂の手を引いて市内にある水族館へ入場した。
数日前
聡が部室に入ろうとするとそこには一枚の封筒が挟まっていた。宛名は聡にそして差出人は森美穂となっていた。森美穂とは先日のスクープの件の犯人だ。本人はあのことをすっかり反省しており、今は綾の事故の時に消えた少女の行方を捜索してもらっている。
「意外に早かったな。やっぱり無理だったのかな?」
聡は実のところ美穂の成果には期待していなかった。女の子の捜索にしても彼女への贖罪のつもりで与えた課題であり、素人が見ず知らずの女の子を捜し当てるなど無理だと考えていた。
聡はあまり期待せず、封筒を破り中の手紙に目を通した。そこには聡の予想にもしないことが書かれていた。
例の件で有益な情報が手に入りました。つきましては一つお願いを聞いていただきたいのですが、今週の日曜に10時にマリン水族館の前で待ってます。
有益な情報?それはいったい何なのか?女の子はの身元がわかったのか?聡は考えたが、わざわざ有益な情報と書いたあたりを察するに身元特定まではいたってはいないだろう。しかし自分でも見つけることの出来なかった情報を森さんが見つけたとなるとそれは聞かずにはいられない。しかし……なぜ待ち合わせ場所が水族館なのだろうか?聡にはわからなかった。
できれば今すぐにでも会って確かめたい。だけど今日は金曜日で既に放課後だ。おそらく森さんは校内にはいないだろう。それに彼女の連絡先を知っているわけでもない。そもそもそれがわかっていれば向こうも手紙という形を取らなかっただろう。桃花先輩辺りなら森さんの連絡先をばっちり押さえているだろうが、あの先輩に貸しを作りたくない。
「仕方ない。黙って従おう」
聡はそう決めたのであった。
そうして約束の当日、聡は指定された水族館に訪れた。
聡は30分前には訪れたが、そこには既に美穂の姿があった。美穂は1人でそわそわしながらずっと聡の訪れを待っていた。その姿はいじらし少女というよりかは完全な不審者の様にも見えた。
考えてみれば森さんは僕の返事を聞いてはいない。おそらく待ち合わせ時間のずっと前から1人でああしていたのだろう。もし僕が来なかったら彼女はずっとああして待っていたのだろうか?聡はそう考えるとすぐに彼女へ駆け寄った。
「すいません、持たせましたか?お早いですね」
「いえ、自分も今さっき来たところです」
それは明らかな嘘であることに聡は気づいてはいたが黙っていることにした。もしずっと不審な動きをしていましたねなんて言ったら森さんはどのような反応をするだろうか?ものごとには言わない方がいいこともある。
「それにしても急にあんな手紙を寄越すなんてどうしたんですか?待ち合わせだったらもっと図書館とかファミレでも良かったのでは?」
「その事なんですが相沢さん……その……情報は後で必ずしも差し上げます。だからですね……今日は私のカラシになってください!」
「カラシですか?」
一瞬何を言っているのかわからなかった。それは美穂も気づいたようですぐに言い直した。
「いえちがくて、その……私の彼氏になって下さい」
「えっ」
「あっ違います。いや違いませんけど違うんです」
突然の告白に聡は動揺した。女の子からの告白などしてもらったことなどない聡には状況が整理できなかった。しかし動揺していたのは美穂も同じだった。彼女は聡以上にあたふたしてしまい、ちゃんと伝わっていないことにどうしていいのか分からない様子だった。
そこで美穂は1枚のパンフレットを取り出した。
「これを見てください!」
そこには
マリン水族館特別企画
クーちゃんの(イルカの赤ちゃん)の誕生記念!
館内で制作したオリジナルキーホルダーを来場者にプレゼント
みんなに会えるのをクーちゃんも待ってるよ
※限定100組のカップルに贈呈します。数に限りがございますのでご了承ください。
「これがどうしても欲しいんです」
美穂は誤解を解こうと精一杯だった。顔は耳まで赤く染まっており。美穂自身もそうとう勇気を出してやったことなのだ。
その時の聡は全てを察した。今回の森さんの要望はこのキーホルダーを手に入れるためにカップルのふりをすることだ。つまり先ほどの彼氏というのはダミーだ。
いや、落ち込んではいない。こんな勘違いは前にもあったはずた。と聡は自分に言い聞かせた。
「やり直しましょう」
美穂は突然そんな提案をした。
「なぜそのようなことを?」
「考えて見てください相沢さん。その私たちはふりといってもカップルでなければなりません。もし、館内の職員の方に気づかれたらアウトです」
「そこまで念入りに調べますかね?」
「何事も形からです。さあ早く」
「わかりましたよ」
聡は仕方なく美穂の提案に従うことにした。綾に関することが交換条件に含まれている以上聡には断ることができないのだ。
「ごめんね!森さん。待たせたかな?」
「いえ自分も……私も今来たところです。」
「じゃあ行こうか」
「はい」
こうして聡は美穂の手を引いて館内に入場したのであった。
しかしこの時、入場していく2人を監視する者がいた。
「桃花、今日はどうして後をつけるの?」
「雫よものごとには聞いてはならないことがあるのだ」
「そうなの!」
「あの女、こそこそ手紙なんぞ出すから何事かと思えば密会とはいい度胸だな」
桃花は今日、聡が美穂と会うことを知っていた。何故なら美穂が出した手紙を最初に目にしたのは聡ではなく桃花なのだ。
桃花はドアに挟まっていた封筒を勝手に封を切って手紙を読むと元々あった様に細工をしたのち元の場所に戻しておいたのだ。
「私の目の黒いうちはうちの部員に手を出すことなど断固として許さんぞ」
そう言って2人を追うように桃花と雫も館内に入場していった。
プロフィール
2年3組森美穂16歳
新聞部に所属しており、スクープ事件の犯人である。
思い込みが強いところもあり、よく失敗する。容姿は普通であり、目立たない。
桃花にトラウマがあり、苦手である。




