黒猫の秘密4
「にゃー前と違うにゃー」
「とりあえず服を着ろ、話はそれからだ」
「そんなの持ってないにゃ」
「魔法でどうにかしろよ!」
「無理にゃ!」
「じゃあ元の姿に戻れ」
「1度使うと30分はこのままにゃ」
そう言って黒猫は辺りを転げまわっていた。その姿には威厳も何も感じられない。それと聡には黒猫の言う『前と違う姿』ということがどうも引っかかった。そして聡は気が付いたいたのだ。
猫の年齢か。猫の成長スピードは人のそれとは比較にならない。この黒猫が猫の姿をした人なのか、人の姿をした猫なのか疑問に思っていたが、先ほどの説明によりどうやら後者らしい。仮に黒猫のそれが加齢からくるものだとすれば一つの仮説が浮かび上がる。この黒猫は不死ではない。それは聡に新たなリミットがつく形となった。
それにしても全く使えない黒猫である。聡はこんな押し問答もしながら自分が黒猫の姿に動揺していることがわかった。こんな美女があられもない姿のままその辺を転げまわっているのだ。黒猫の方には羞恥がないのか何もかもお構いなしだが聡は目を背けるだけで精いっぱいだった。
「部長。何か代えの服を持っていませんか?」
聡にそう問われた桃花は少し複雑な顔をした。
「聡君、この部室に私の代えの服があるかないかで言えばあるが、君はこれ以上私を恥ずかしめるつもりか?」
一体どういうことなのだろうか?服があるなら早く貸してほしい桃花先輩は何をためらっているのだろうか?ふと目線を桃花の方に移すとその理由がわかった。
「そうか!サイズが……」
そう言いかけた聡のみぞおちには桃花のこぶしが深く突き刺さっていた。あまりにとっさのことに聡は無防備にもらってしまった。そしてその場に崩れ落ちた。
「ぐふ」
「それ以上は言わないことだ。こう見えても私は繊細な乙女なんだぞ!少しはデリカシーを持ったらどうだ!」
繊細な乙女は絶対に照れ隠しで人に急所に正確に正拳突きを決めたりしない。聡はそう言いかけたが言葉が出なかった。
「小さいにゃ」
「我慢しろ」
聡がとった苦肉の策は自分の体操着を貸し出すことだった。たしかにこれで肌の露出は抑えられた、大切な場所も隠せたと言えよう。しかし黒猫の体が聡より大きいため胸もおしりも主張し始める。結果その姿はかえってきわどいものになってしまった。
「聡君、君もマニアックな趣味を持ったものだ。これでは全裸だった時のほうがまだかわいげがあったぞ」
「誤解しないでください!そんな趣味はありませんから」
とはいえ桃花先輩の意見ももっともだ。服を着せたはずなのに聡の動揺は全く収まる様子はなかった。このままでは心臓に悪い。聡は奥の手を使うことにした。
「ならこうします」
数秒後
「おまたせしました」
「待たせたも何も君もそこにいただろ聡君」
そう言った桃花の目の前に立っていたのは綾だった。
「今は綾です。混乱するので綾と呼んでください。あの姿にいちいち動揺するのも煩わしいので今日はこっちで行きます」
聡は今まで椅子に座らせていた綾の体と聡の体を取り換えた。単純なことだがこれで先ほどのような動揺は抑えることができる。しかし先ほどとは全く違った感情も生まれてきた。
「それと部長。先ほどはすいませんでした」
「何のことだ?」
「この体になって改めて思います。あの体は犯罪です」
「君にその感情をわかってもらうのも複雑な気分だ」
綾の体になってったことにより異性への動揺が同性への嫉妬に変わったのだ。自分でも複雑な気もしたがこの気持ちに嘘はない。おもむろに自分の胸に手を当ててみたがあのダイナマイトボディーにはとてもかないそうになかった。大丈夫だこちらはまだ成長の可能性を残している。
「服も着たにゃ、お願いも聞いたにゃ、だからそれを渡すにゃ」
黒猫はすでに我慢の限界のようだった。お預けを食らってからかなり時間がたっている。賢いといっても根本は猫なのだ。
「そうだな、私は構わんがその姿で食べるのか?」
黒猫は黙ったまま桃花の手から猫缶を奪い取るとふたを開けその中身を自分のエサ箱に落とした。そしておもむろにしゃがみ始めた。
ここから先、黒猫がどのような行動に出るのかは火を見るより明らかだ。桃花も聡もすぐにそのことに気がついた。このままでは人として見てはいけないものを見てしまう気がした。
「止めなくていいのか綾?」
「止めるにきまってるでしょ」
「にゃにするにゃ!?はにゃすにゃ。これは誰にも渡さないにゃ」
綾が必死に羽交い絞めしている中で黒猫は必死の抵抗を見せた。そしてその姿を遠目で眺めながら笑っているのが桃花である。少なくとも桃花には止める気はないようだ。
「そんなもの誰も奪いませんから。だからその姿で食べるのはやめてください」
体操着姿の美女が四つん這いになりエサ箱に入ったの猫缶を食べる姿など誰が見たいだろうか?一部のマニアには需要があるかもしれないが、もともと猫であるとはいえ人の姿をしている以上そんな倫理感から外れる行為を断固として許容することはできなかった。




