黒猫の秘密2
黒猫の秘密。それは今まで語られることがなかったことだ。
それは黒猫自身が語るつもりもなかったことなので今まであえて触れずにいたことだ。それがたった1000円の出費で済むのなら安いものだ。むしろそんなに簡単に話してくれるならもっと早くに行動すればよかった。
聡は深く後悔した。
「黒猫、それじゃあ………」
「ちょっと待て聡君。焦る気持ちはわかるがこの交渉を持ちかけたのは私だ!私の方が先に質問する権利があると思うがどうかね?」
桃花は聡の質問を遮った。
「それは………」
桃花先輩の意見は最もだ。この話は先輩が持ち掛け黒猫が了承したものだ。それでも先輩も僕の気持ちぐらい気づいているはずだ。
聡は当事者である自分が会話外されることにもどかしさを覚えた。
「君の気持ちもわからないではない。綾のこともある。しかし今の君は冷静さに欠けている。この状態で正しい判断ができるとも思えない。ここは部長である私に任せてくれないか」
桃花は聡の気持ちもしっかり理解していた。だからこそ質問役を自ら買って出たのだった。
聡も落ち着きを取り戻した。
「わかりました」
「待たせてすまかったな。さて本題に入ろうか黒猫よ」
「ささっと渡すにゃ」
「安心しろ私は約束は守る」
約束を守るって、今まで桃花の行ってきた不正が甦る。
恐喝、偽造、セクハラ。行ってきたことは様々だが少なくとも信用に足る人物だとは思えない。
それでも雫の謝罪のケーキを買ってきたことを考えれば根っからの悪い人というわけでもないとは思う。
「おい、聡君。それ以上は考えない方が身のためだぞ!」
まさか!?先輩も人の心が読めるのか?
「それでお前はいくつ私の問いに答えてくれる?」
「その質問は間違えにゃ。もしにゃーが1つと言ったらもうこの話は終わってしまうにゃ」
「そうだったな、でいくつだ?」
桃花先輩は黒猫の言葉遊びに付き合う気はないようだ。それは表情を見ればわかる。こういう時の先輩はいつものおちゃらけた感じから一転しまじめな空気になる。そしてみなその雰囲気に気圧されるのだ。
しかし、今回の相手は黒猫だ。そんな桃花にひるむこともなかった。
「特に数に制限をつける気もないにゃ。そもそもにゃーも巻き込まれているだけで詳しいことはしらないにゃ」
「それはどういうことなんだ!」
聡はさっそく約束を破った。しかし黙ってはいられなかったのだ。今回の件で黒猫という存在は確かに異質なものであったが、聡はどこかで黒猫と綾につながりがあったと考えていた。だからこそ黒猫は綾のために動いてくれているはずだと。その可能性が否定されたのだ。
「おっと聡君!だから私に任せてくれと言ったはずだ」
「めんどうにゃ。にゃーが知っていることを話すにゃ」
そう言うと黒猫は語りだした。
「にゃーはそもそもただの捨てられ猫だったにゃ。たまたま拾ってくれたご主人様が魔法使いだっただけにゃ。にゃーのこの力もご主人様の力を付与されているに過ぎないにゃ。綾という娘もにゃーが直接関わりがあったわけでは無いにゃ。ただあの娘を救うことがことが主人様の望みだったわけにゃ。だからにゃーは協力しているわけにゃ」
「ご主人様という方に私たちが話を聞くことはできないのか?」
「それは知らないにゃ。ご主人様は人との接触を好んでないにゃ」
それは事実上不可能ということだろう。
「それ以外で綾について知っていることは?」
「本当に何もないにゃ。ただ今回の事故は自分に責任があるとご主人様は嘆いておられたにゃ」
桃花が黒猫の話を熱心に聞いている一方で聡はすでに放心状態だった。魔法使い?事故の責任?単純な話かと思っていたら話はより複雑になってしまった。
そしてなにより事故の責任という言葉が引っかかる。綾の事故は偶然ではなかったのか?その責任が黒猫の言うご主人様という者にあるとするならば自分はいったいどのような態度を取るのが正解なのだろうか?
「聡君、気ををしっかり持て!今の話を聞いてこの黒猫に何か不信感を抱いたな」
「正直に言えばその通りです。綾の件は完全な事故だと思っていました。もしそれがそうでないとすると何を信じればいいのですか!教えてください部長!」
「今回の件はさすがの私もお手上げさ!」
桃花はすがすがしい顔でそう言い切った。
「安心しろ。別に君たちを見捨てるつもりはない。そんなことがあっては部長としての恥だからな。しかし今はさすがに情報が少なすぎる。黒猫の話もすべては奴が体験したことではなく、口承に過ぎない。結局私たちはそのご主人様とやらに会わなければすべての真相にたどり着くことはできない」
「別に僕は真相まで知りたいとは思いませんが………綾が無事に戻ってこればそれでいいです」
「つれないなー聡君。それでも我が部の一員か!」
「あなたが勝手に入れたんじゃないですか!」
「それだけの軽口が叩けるなら、少し元気が出たか?」
そう言って桃花はいつも通り笑うのであった。




