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1人2役、ではなく1人2者  作者: 秋ルル
本編
32/71

黒猫の秘密1

それはある日の部室での出来事だった。


聡はいつものように部室に来て過ごしていた。もちろん綾も連れてだ。それが桃花からの条件なので反対することもできない。先日の一件以来ますます桃花には頭が上がらないのだ。


しかしこの場所にいることも悪くはなっかた。物静かな場所であり、部室には冷蔵庫やポット、流し台といった生活に必要なものがそろっている。むしろ快適なくらいだ。それに超常研究部というたいそうな名前をしているが特に目立った活動はしていない。部の方針を決めるのは部長の役目でありその部長である桃花が何かをしようとしない限り平穏なのである。部に入ったころは実験という名目でいろいろやらされたが最近はそれもない。聡はゆっくりと放課後を満喫できるのである。


そして何よりも大きなことはここでは綾である必要がないということだ。今、綾の体は椅子の上で休めてある。普段は学校でも家でも気を抜くことはできないが事情を知っている者だけのこの部室ならそういったことができる。聡にはそのことが本当にありがたかった。


しかしそんな平穏な毎日に新たな問題を持ってくるのも桃花なのだ。


「聡君、やはりあの黒猫のことが気にならないか?」

きっかけはそんな桃花の一言ことだった。


その日は珍しく黒猫が部室を訪れた日であった。今日も部室に入ってくるなりいつものようにエサを要求してきた。今も1匹で部室の片隅に置いてある黒猫と書かれたエサ箱のエサを食べている最中だ。黒猫が部室に訪れる日は不規則である。2日連続で来た日もあれば1週間ぐらい姿を見せない時もあった。黒猫がこの部室の外で何をしているかは全く謎のままだ。


黒猫………


聡ももちろん気になっている。しかしそれには桃花とはまた違った理由がある。


黒猫は魔法が使える。そのことは聡も知っている。具体的には人と話すことができたり、人の魂の移し替えができる。他にも相手の心を読むことができたり、変わったところではドアも自由に開けられる。さらに言えば鍵がかかっていてもお構いなしだ。前に1度桃花先輩が鍵を開ける前に黒猫が1匹で部室にいたことがあった。それなら病院の件の納得がいくこの黒猫には密室が通用しないのだ。


黒猫の素性、普段の行動、魔法が使えること気になることはたくさんあるが聡が一番気にしているのはそんなことではない。そうそれは黒猫が綾を救う手助けをしてくれたことだ。聡は黒猫が綾を救ったその理由が知りたいのだ。


「黒猫、お前のことをもっと教えてくれないか?」

聡は黒猫の前に立つとそう問いかけた。


黒猫は一度ちらっと聡のほうを見たがまたエサを食べ始めた。食べ終わるまで待てということだろうか?


そしてすべて食べ終わった黒猫は言った。

「今度はマグロ味がいいにゃ」


お前意外とグルメだったんだな。いや今聞きたいのはそんなことではない。お前は………


「にゃーのことで特に教えることはないにゃ」


やはりだめか。

聡にはそれ以上踏み込むことはできなかった。黒猫が綾の恩人?であることには変わりない。しかも今後綾の魂を戻してもらうという役割もある。下手な詮索をして気分を害され出ていかれても困るのは聡の方なのだ。


しかしそんな言葉であきらめる桃花でもなかった。


「黒猫よ、私もお前の力が知りたい。協力してくれ」


神宮寺桃花という美少女と黒猫という愛玩動物のタッグはとても神秘的な魅力があった。聡が美術部だったら間違えなくこの状況を絵に描いていただろう。しかし今ここにいるのはそんな少女と猫といったかわいいものではない。まるで嵐の前の静けさといった荘厳な雰囲気がある。

いったいどうなってしまうのだろうか?聡は自分の手に汗が滲んでいるのがわかった。


「めんどうにゃ」


桃花先輩でもだめか。どうもこの黒猫は自分のことを話したがらない。人の個人情報はペラペラ話したくせに。


「仕方ないな。本当はこんな方法を使いたくはなかったんだが………」

そういっても桃花は自分の懐に手を忍ばせた。


まさか力づくで解決するつもりではないよな。


この神宮寺桃花という人間はやるときは手段を択ばない人だ。以前もスクープと題して部のポスターを勝手に掲載した女生徒(森さん)にトラウマを植え付けるほど恐怖を与えた実績がある。しかしこの勝負は魔法が使える黒猫に分がある。いくら先輩でも魔法が相手では無理だろう。


でも………とりあえず止めなくては。聡は直感的にそう感じた。


頭の中でイメージトレーニングをしてみよう。

まずは、先輩を羽交い絞めにして………あれ?みぞおちに一発らってしまい動けなくなってしまった。仕方ない。ここは綾の体も使って………おかしい。縄で手足を縛られ身動きが取れない。ならいっそ2人がかりで………だめだ!先輩を止めれるビジョンが見えない。


そうだ!前回は雫の体だったから問題なく制することができた。それがもし本気の桃花の体だったらどうだろうか?無理だ止めれない。


あれこれと聡が考えているうちに桃花は懐からきらりと光るものを取り出した。


待ってください先輩!まだ心の準備ができていません!


「この1缶1000円もする『ネコちゃんも満足!まるごとマグロ盛沢山』で手を打たないか?」

桃花が取り出したのは高級猫缶だった。


えっなんだそうだったのか。聡は深く考えすぎていた自分が恥ずかしくなった。

しかしいくらなんでもそんなものであの黒猫が………


「わかったにゃ。そいつを早く渡すにゃ」

黒猫は耳をひくひくさせ尻尾をぶらぶらと揺らしていた。早くおくれにゃという仕草だろうか?


そうだったな。お前グルメなんだもんな。

やっぱりこいつは死神でも悪魔もない。ただの猫だ。


聡は自分の中で黒猫に対する幻想が崩れていくのがわかった。

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