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1人2役、ではなく1人2者  作者: 秋ルル
プロローグ
3/71

1人2者

聡の体に起こったことを説明しよう。

といっても正確に聡と綾の体に起こったことを説明するのは難しい。


一言で表すなら聡が2人の体を操っている。

単純な体の入れ代わりではない。聡が1人で2つの体。つまり聡と綾の体を操っているのだ。


黒猫曰く

「ようは娘の魂が見つかるまでおみゃーがその体も責任をもって面倒るにゃ」

とのことだ。


確かに綾の体は無事だか何かが違う気がする。そもそも妹とはいえ僕が女の子の体を使うのはダメな気がする。むしろ妹の方がアウトではないだろうか。昔、体が2つになったら作業も2分の1になって得じゃね。なんて考えもしたがそれはあくまで思考が独立した場合である。今の僕は聡と綾のをあわせて4本の腕を扱うことになる(腕だけではないが)例えば右手と左手で別々の作業ができる人間がどれだけいるだろうか?今の僕はそれ以上である。


しかしそれも慣れである。人は脳の3%しか使用していないといわれているように、手足が2倍あったからといって順応できない訳ではない。


それでも今朝のように母に疑われることはある。コンビネーションとかそんなものはない。そもそも思考が1つなのだから会話無しで意志疎通ができる。マジックをやれば種はない。むしろ超能力の類だ。


綾の交遊関係は全部事故の影響で忘れたことにした。さすがの僕も妹の交遊関係を全て把握していないし、それは仕方のないことだ。小学校から一緒だった望はショックを受けていたが、新しい思いでを作ろうと励ましてくれた。中身が僕なことに罪悪感を覚えないわけではないが、僕は綾の魂が見つかるまで聡として綾として暮らしていくことにしたのだ。


綾の魂の手がかりはない。しかし黒猫が言うには魂はそんな簡単に消えないらしい。むしろ誰かに乗り移ってしまったかもしれないということだ。それは焦っても仕方のないことだ。


そしてこれから聡として綾として1人2者のスクールライフが始るのであった。



綾の劇的な回復には医者も驚きを隠せなかった。現代医学では考えられないことったそうだ。母は喜びでその場に泣き崩れた。皆が歓喜する中、ただ1人聡だけは素直に喜ぶことができなかった。


「ここは、何処ですか?、私は…」

それが綾の第一声だった。


そうだ記憶喪失の振りをしなくてはいけない。聡が綾として過ごすにはさけては通れない道だ。医者の診断は事故による記憶喪失ということになった。それも特殊なもので人物の顔や名前、思い出などに限定されるもの。つまりハサミをつか使ったりカン切りで缶を開けるといった日常生活の動作には問題ないものとのことだった。


聡は母に言った。

「大丈夫、僕たちの綾はきっといつか戻ってくるから、僕たちがしっかりしなくちゃね」

母は一旦は気を落としたものの娘の無事を確認し喜んだ。


「聡聞こえてるの?」

耳元で急に名前を呼ばれて聡はハッとした。


「なんだい母さん、急に大きな声出して」


「何回呼んでもあんたが気づかないからでしょ。綾の無事も確認できたし、一旦家に帰るわよ。着替えとか用意しなくちゃだし」


綾でいるときは聡に集中できず、聡でいるときは綾に集中できない。果たしてこんなので上手くやっていけるのか聡は不安になった。


そしてもう1つの懸念はもちろん綾の体で過ごすということだ、今後否応なく着替え、排泄、入浴の度にその体を見ることになるだろう。しかしこれは綾の体を守るためでありやましい気持ちなどないと自分に言い聞かせる。


ただ聡の地獄はここから始まった。


綾はしばらくは病院で療養することになった。事故の影響と記憶喪失のことを考えれば当然の措置だ。そのことは聡にもありがたかった。なぜなら聡は普段通り学校が始まるからだ。2人の体を同時にしかも独立して動かすことは並大抵のことではない。幸いにも綾の体は病院のベッドの上でほとんど動かすことはない。しかし意識の半分はそちらに注意しておかなければならない。そうでなければ看護師名前を呼ばれても返事ができない。


はじめて2つの体を動かすことに違和感もあった。女の子の体ということに対する抵抗や体の違いに戸惑うこともあった。もちろん妹の体で生活するという罪悪感もあった。そのせいで何度もくじけそうになった。特に綾の方はまだ周りに面倒が見てもらえるが、聡の方は依然と変わらない生活をしなければならないのだ。しかし投げ出すわけにはいかない。それは自分で決めたことなのだから。やがて退院した後を考えると今のうちからもっと訓練しなくてはならない。次は2人そろって学校に行くのだから。


聡の努力は続くのであった。

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