勉強会2
どうてこうなった。
聡は望と2人きりという気まずい空気のなか勉強を教えていた。
望からの勉強会の依頼を受けたのはまだいい。しかし気がつけば自宅でやることになり、そして今、望を自室に招き入れた。
きっかけはあの一言だった。
「それにしても綾、前来たとた時とあんまり変わってないわね」
綾の部屋は事故以来、常に掃除してある。もちろん家具などの配置は一切いじっていない。これは綾がいつ帰ってきても大丈夫なように聡が心掛けていることだが今回はそれが裏目に出た。
聡はこのままではまずいと思った。
高校から付き合いだした他の2人とは違い、望は以前の綾を知っている。もちろん記憶喪失だと誤魔化してはいるが、話していればいつかボロを出してしまうかも知れない。
それにどこか望は綾の不自然さに気づいている節がある。
そのためにわざとらしい理由をつけて望をあの部屋から追い出したのだ。
望が英語を苦手としていることはもちろん知っていた。聡はそれを利用したのだ。
ここまでは聡の想定通りだが中学校以来まともに会話してこなかった幼馴染みと2人きりというのは気まずいものだった。
綾のときは毎日話しいるのだがどうも聡のときでは上手く話せない。
さらに聡の懸念は他にもある。それは残してきた綾の方だ。
聡の部屋
「その聡?なんか話してよ。さすがの私も気まずい」
2人でいることの重圧に耐えきれず先に口を開いたのは望の方だった。
望の意見は最もだ。聡の方もこの空間から抜け出したいと思っていた。
「話している暇あったら1つでも多く単語覚えようか、望の場合文法ミスどころかスペルミスが多過ぎて話にならないよ」
「そこまで言うか~」
「頑張らないと次も落ちるよ」
聡は淡々と事実を述べた。
そう言われた望は再びシャーペンを動かした。しかし、ものの10分もしないうちに手が止まった。
「そういえばさ~あんたの部屋何もないのね」
聡の部屋は綾の部屋と比べれば殺風景だ。生活をすることだけに特化した形となっている。
なんだろう、この感じは気のせいか聡には望が愉しげに見えた。
望はそう言って立ち上がると。
「物色タ~イム!」
待ってそれはだめだ。
「やめようか望。ねっ勉強しようか」
「あんたがいけないのよ聡。あんたが私を追い詰めるからこんなことになったのよ」
こうなってしまった望を止める術はない。そもそも小さなころからずっと尻に引かれていたのだ。
「待って年頃の男の部屋だよ。エロ本が隠してあっても普通じゃないか?」
「そうね確かにそうよ。けどね聡私には分かるの。あんたが私に隠しているものはそんなものじゃない」
望はエスパーか何かか?確かに望には重大な秘密を隠しているが、それとは別にどうしても見られたくないものがあった。
聡が一瞬クローゼットに目をそらしたことを望は見逃さなかった。
「そこかー」
望がクローゼットを開いた先にあったものは小さなペンギンのぬいぐるみはだった。
実はこのぬいぐるみは聡が買ったものだ。以前では考えられないことだが聡はこういったものを可愛いと思い始めていた。間違いなく綾として過ごしている影響が出たものだった。
綾の部屋はいじらないと決めているので聡は仕方なく自分の部屋に置くことにしている。普段は恥ずかしいのでしまっているが、ぬいぐるみにペン太という名前をつけるぐらい気に入っている。
「聡?これはなにかな」
望の顔は弱みを握ったというよりかは見てはいけないものを見てしまったという顔だった。
「違うんだ」
「何がかな」
そういうと望は一歩後ろに下がった。このままではぬいぐるみ好きな乙女チックな男だと誤解されてしまう。
こうなればやけくそだ。望よ君がいけないんだ僕を追い込んだことを後悔しろ。
「それはプレゼントだ。渡そうと思って」
「誰に?」
「お前にだ。確か今月誕生日だったよな」
「うそっその…覚えてくれていたの?」
どうだ!幼馴染みからプレゼントを貰うという気恥ずかしさを体感しろ。こっちだって恥ずかしい。そもそも男勝りな望にぬいぐるみなんて少女趣味は似合わない。こんなものを受け取ってどうするというのか?
ごめんよペン太、望の家でもきっと可愛がってもらえるから。
聡はなくなくペン太を望に渡すことにした。
仕方ない。己のプライドのためた。
「あ…ありがとう」
望は小声でそう告げたが、その言葉は聡には聞こえていなかった。
その頃
綾の部屋
望をこの部屋から連れて出した後、綾は遥と恵子の3人で勉強を行った。
遥と恵子は綾の事故以後にできた友達である。遥はやんちゃで恵子は大人しい。そのためこの女子グループは望か遥が発起人となることが多く、綾と恵子がまとめ役となることが多い。性格は違うがそれでも仲良しなグループだ。
何事もなければよいのだがという期待は直ぐに裏切られることになる。
女の子が3人も集まれば自然と話しは恋の話になってしまうものである。
「ねーあの2人付き合っているのかな?」
そんなことを言い出したのは遥であった。
「そっそんなことはないと思いますけど」
綾は急な質問をやんわりと否定しておいた。
望と付き合っているだって?そんなことはない、あれはただの幼馴染みだ。そもそも望は綾と遊ぶことが多く自分とは幼馴染みなのかすらあやしいものだ。
「でも幼馴染みとか憧れるよね」
何故だろう。望をこの部屋から出したことがかえって余計なことをしてしまった気がした。
「恵子はどう思う?」
遥の質問の矛先は次は恵子に向けられた。
「私はその男女の仲はあまり他人が詮索するものではないと思います」
恵子はそう言った。
「恵子はまじめだなー」
遥の質問も2人が興味を示さなければ終わるものと思っていたけどそんなことはなかった。
「綾は好きな人とかいるの?」
遥の質問は想像のはるか上をいくものだった。
「いません」とはっきりと言った方がいいのか?しかし、遥のことだからまたしつこく聞いてくるだろう。それならばこちらもそれなりの対策を講じよう。
「そうですね~バスケット部の五十嵐先輩とかカッコいいと思います」
《五十嵐涼》バスケット部に所属し長身と甘いマスクであることから女子からの絶大な指示を得ている人物だ。聡はそれを利用した。このような偶像を崇める群衆に入れば恋愛に発展する可能性は極めてゼロに近い。下手にいないというよりよっぽど効果的だろう。
「へー意外、綾もそういうのが好きなんだ」
何とか乗りきれただろうか?
「恵子は?」
遥の質問はまだ終わらなかった。
まだ続くのこの話、聡はそう思った。
「恵子さん無理に答え無くていいんですよ」
「ううん、綾さんがせっかく教えてくれたんですもの私も告白します」
待って恵子!あなたはそういうキャラじゃない。
恵子も本当は誰にも教えるつもりはなかったのだろう。しかし綾の告白を聞いて黙ってはいられなかった。
「私も五十嵐先輩のことが好きです!」
何とも大胆な告白だった。
「恵子さん…」
「いいんです綾さん。同じ人を好きになることなんてよくありますから。それに正直に告白してくれて私も嬉しかったです。でも譲りませんよ」
恵子のそれは確かな恋心だろう。聡はカモフラージュのために五十嵐という名前を出してしまったことを後悔した。
それにごめん恵子。私は(僕は)そもそも何1つ正直に打ち明けれていないんだ。
「なんだ~2人とも好きな人いたんだ。じゃあ最後に私が告白しまーす」
ここまでのことをしれかた遥はしれっとそんなことを言った。
とはいっても、もうこれ以上驚くことはないだろう。
そんな聡の期待とは裏腹に。
「私は綾のお兄さん。相沢さんのことが好きです」
遥は最後爆弾を置いていった。




