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1人2役、ではなく1人2者  作者: 秋ルル
Aya soul side
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贖罪

まだ夜も明けない暗闇の中、ただひたすらに町を走る1人の少女の姿があった。深夜とあって辺りには人の影すら見当たらない。そのせいで少女の不自然さに気づく者は誰もいなかった。


(ごめんねあや。ごめんね)


彩の頭の中には後悔の念しかなかった。自分のせいであやが命を落としていたこと。その事に全く気付かずにあやに当たり前のように接していたこと。そしてあの夢の中であやを拒絶してしまったこと。


彩はあの後1度はあやの事を忘れようとした。全て悪い夢だと思いたかった。あやと過ごした日々を幻だったと思い込めればここまでの苦悩はなかったかもしれない。しかし彩にはどうしてもそれができなかった。空虚だった自分を救ってくれたのはあやだ。一緒に過ごしてくれたあやを忘れようとしたことを激しく後悔した。


彩が今しようとしていることは自殺だ。


そのための覚悟を決めたし両親への手紙も書いた。ただ、自宅で死んでしまえば両親に迷惑がかかってしまう。そのため彩は人に見つからない場所を探して走っていた。


彩の服の下には銀色に輝きを放つ包丁が握られている。これで心臓をひと刺しすればあやの待つ場所に行けると彩は思い込んでいた。それがあの世であることもわかっていた。


(待っててあや、今行ってあげるから)


彩が走るのを止めたのはちょうど町外れにある雑木林に差し掛かったところだ。ここは地元の人でも滅多に訪れる人がいないことは知っていた。ここなら誰にも邪魔されずに自殺することができる。彩はうっそうと生い茂る草木を避けながら奥へと進んでいった。


雑木林を進んでいくうちに彩は軽装で来てしまった事を後悔し始めた。これから死のうというのにおかしなことだが、草や木の枝で手足は擦り傷だらけになってしまったし、先ほどから虫の羽音が鬱陶しく感じてきた。何ヵ所か刺されてしまい。痒いと思ったが、それが生きている証拠だと思うと何だか不思議な気持ちになった。


だいぶ歩いただろうか、木々の茂りは一層よりいっそう増してきた。地図もなければコンパスもない。今夜が満月の夜でなかったらここまでたどり着くことは出来なかったかもしれない。辺りには人の気配は一切なく、不気味な静けさが漂ってきた。


もう、後戻りはできない!


彩はそう思った。そして意を決して服の下から持ってきた包丁を取り出した。そしてそれを逆手に持ち自分の胸の前へと近づけた。


これを、これをこの胸に突き立てればあやの元に行ける。後は私が、ほんの少し勇気を出せばいいだけだ。彩の呼吸は荒くなり、心拍数は次第に上がってきた。


死にたいのかと聞かれれば答えはNOだ。死ぬのが怖くないのかと聞かれてもNOと答える。ただ、私は生きていてはいけない人間なのだ。


「勇気を出しなさいよ清水彩!あなたはあなたはそんなに弱虫だったの?あやはあなたのために命を張ってくれたのに、あなたはあやのために何もしてあげられないの!」


辺りに人はいない。彩の声は誰にも聞こえない。それでも彩は自分を鼓舞するために大声で叫び続けた。まるで回りの草木が彩の声を吸いとっているようだった。


「あやがあやが私を待ってるの。あやを殺してしまった私にはこんなことしかできないの。だから……」


叫んでいると彩は自分が泣いていることに気がついた。包丁を持った手は震えだし、危うく落としそうになった。涙で前が見えなくなり、何度も袖でそれを拭った、本当の事を言えばとても恐い。死にたくなんてない。今からでも家に帰って何もなかったことにしたい。そんな誘惑が彩の頭を何度も巡った。


自分は汚い人間なのだ。彩は握りしめた拳を大地に降り下ろした。女の子の力など大したことないのかもしれない。地面には何の変化もないが、彩の指の皮はめくれその傷口から血がうっすらと滲み出してきた。


痛い。しかし自分はおそらくこの痛みより、過激な痛みを体感しなければならない。彩の頭の中には身体中から血を流し、さらには身体の骨が有らぬ方向に曲がってしまったあやの姿が浮かび上がっていた。


痛い痛いと痛みに耐え続け、叫んでんでいたあやに自分は何もしてあげることが出来なかった。自分の痛みなどあやの痛みに比べればちっぽけなものだ。


覚悟を決めたはずのに死ぬという決心をしたはずのにどうしてもその先の一歩が踏み出せない。どのぐらい時間が経ったのかもわからない。1分かもしれないし、1時間もこうして葛藤していたのかもしれない。時間が経てば経つほど自分の立てた決心が鈍っていくのがわかった。


「もう嫌よこんなの!私は死ななければいけないの!あやが待ってるよ!私は人殺しなの!生きていても意味ないの!うわーーー」


それが彩の最期の言葉になった。追い詰められた彩は自暴自棄になり、目を瞑った。そしてとうとうその持っていた包丁を勢いよく自分の胸へ突き立てた。


ブスリという鈍い音と共に身体中に激痛が走った。あまりの痛みに声すら出すこともできなかった。


(痛いよあやとても痛い。でもあやも同じ気持ちだったのかな?)


次第に身体が冷たくなっていくのがわかった。これが死というものなのか?


(ごめんねあや。私愚図だから、時間かかっちゃたよ。でもこれでまた会えるね。あやは私の事を許してくれないかもしれないけど、それでも私は絶対に諦めないからね。だってそれがあやが私に教えてくれた友達の作り方だもんね)


こんな状況になったというのにあやの返事はない。それはまだ、私が死にきれていないのかな?


(まだ駄目か。でももうすぐだから。もうすぐまた会えるねあや)

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