1ヶ月前
聡は1人病室で綾の無事を祈っていた。
なぜ聡がこんなとこにいるのか言うと。つい数時間前母から電話があったの田。
「聡、綾が…綾が交通事故の巻き込まれたの」
聡は急いで病院へ駆け込んだ。そこで目にしたものはベッドの上に横たわる綾の姿だった。綾の周りにはよく分からない機械がたくさん置かれていた。医者の話によるとそれが綾の命を取り留めておくために必要なものだということだった。
綾に下された診断は意識の回復する見込みがない状態だとのことだ。
脳死いわゆる植物状態だ。この状態から奇跡的に回復された例は世界にも何件かあるがほぼ絶望的だろうとのことだった。
「なんでこんなことに…」
話しを聞いたかぎり、綾は道路に飛び出した女の子を助けようと身代わりに車にはねられた。
目立った外傷はない。ただ、頭を強くうちつけたのかどうしてもにも意識が回復しないと言うことだ。
こんなことがあってよいのだろうか?
綾は人を救ったのである。その見返りがこれではいくらなんでもやりきれない。
「綾、僕たちやったと高校に上がれたばっかりじゃないか!」
聡と綾は兄妹である。ただ双子ではない、4月生まれと3月生まれということで11ヶ月離れているが、学校の決まり上同じ学年になる。そしてこの春2人揃って高校に入学したばかりである。この交通事故はそんな矢先のことだった。
兄妹の中は悪くなかった。勉強をできるタイプの聡と運動を得意なタイプの綾ではあったが、綾は聡のことを尊敬していた。綾がこの高校に入れたのも聡が面倒をみたからだった。聡の方も明るく無邪気な綾は自慢の妹であった。
どれだけの時がたったであろうか当たりは薄暗く静まりかえっていた。
自分は泣きつかれて眠ってしまったのか?それなら見回りの看護師とかに声をかけられてもよいはずだが………
体が動かない!
そのときはじめて聡は事の異様さに気付いた。辺りが暗かったのは日が落ちたからではない。これではまるであの世………
「これはもう無理にゃ」
そんな声がどこからともなく聞こえた。
「誰だ」と言おうとしたが、体が動かず言葉にならない。
そんな中ドアが勝手に開いたかと思うと1匹の黒猫が病室に入ってきて、横たわった綾の体の上にちょこんと座った。
『死神』『悪魔』
そんな言葉が聡の頭をよぎった。この異様な空間。そして目の前の光景から察するにこの黒猫は綾を死の世界へ連れて行こうとしている。
「違うにゃ」
まるで考えが読まれているかのように返事をされた。しかしこいつは綾をどうするためにここへ来たんだ?
「勘違いしないで欲しいにゃ、にゃーもこの娘を助け合いにゃ」
(助かるのか?)
聡は藁にもすがる思いで脳内でといかけた。
「にゃーには無理にゃ」
「お前はなにしに来たんだよ」
止まってた時間が動き出すように聡の体が動き声が出た。
「待つにゃ、にゃーには無理にゃがおみゃーならできるにゃ」
「僕が綾を…どうやって」
聡は考えた。この黒猫は自分を悪魔ではないと言っていた。しかしそれを保証するものは何もない。
万が一綾を救える方法があるとしてそれにはおそらく対価が必要だろう。
まさかそれは、いやそれでもいい。それで綾のいのちが救えるのなら。
「代償は僕の命か?」
「違うにゃ」
聡の決意をあざ笑うかのような一言だった。
返せよ僕の覚悟を。
「そもそもなんでこの娘がめを覚まさにゃいかおみゃーさん分かっているのか?」
「えっ、それは事故の影響で脳が…」
「違うにゃ魂が行方不明だからにゃ」
予想外の一言だった。
「そんなオカルトチックなことがあるか!!」
と叫んだものの、よくよく考えてみれば今自分はしゃべる黒猫と会話しているわけだ。聡はなにを言ってるのか自分でも分からなくなってしまった。
「魂が戻れば綾は目を覚ますと」
「そうにゃ、理解が早くて助かるにゃ」
聡は状況を整理した。
「ようするに、事故の影響で綾の魂が抜け落ち、それが行方不明になってしまった。魂が見つかれば綾は目を覚ますと」
「正解にゃ」
「それで綾の魂は今どこに?」
「知らないにゃ」
肝心なところで使えない黒猫であった。
「それじゃあ、なんの意味もないじゃないか!」
聡は怒鳴った。
「そんなことはないにゃ、少なくとも娘が生きていることは伝わったにゃ。それに、にゃーが言わなかったらせーめーあんぜんそーち?は外されていたにゃ」
確かに綾が完全な脳死と判断されればこの装置は外されていただろう。人を生かし続けるにはお金がいる。それは高校生の聡でも理解できることだ。それに世界にはドナーを待っている患者はごまんといる。いくらか願ったところで現実的に人を生かし続けることは難しい。
だが、
「変わらないよ、魂がないならそれはもう死んだってことだろ。見つけるにしたって手がかりがなにもない。どのみち綾の装置は外される」
「にゃーにおまかせにゃ、おみゃーさんにゃーのことをちょっと無能な黒猫だと思ってないかにゃ」
ちょっとどころか大いにそう思ってるよ。
「お前には何もできないって言ったじゃんか」
「にゃーにも出きることはあるにゃー、そもそも見つけた魂どうやって戻すと思ってるにゃ?」
「それは勝手に戻るんじゃないのか?」
「違うにゃ、にゃーがやるにゃ!それを応用すればこんにゃこともできるにゃ」
魔法をかけられた気がした。少なくとも聡はそう思った。まるで長い夢を見ていたようだ。
頭がくらくらする体の感覚がおかしい。気がつくとそこには聡の顔が写っていた。