私の名は
これを読む者が現れるかわからないが私は今のこの状況を来るべくその日のために日記にしていこうと思う。
私の名前は《清水彩》である。
なぜ、こんなことをしようとしたかと言うと私のある体の変化について記しておきたかったからだ。それは…
(何書いているんですか?)
(見ないでって言ってたでしょー)
突然の声に彩はそう反応した。
声と言っても回りには誰も聞こえない。私の脳内の声なのだが。
そう私清水彩は二重人格なのである。
きっかけはあの日だった。
それは私の引っ越しの前日だった。お父さんが誰かと話をして私の相手をしてくれなかったから私は外へ遊びに出掛けた。
そこで私の記憶は途切れている。
気がつくと夕方だった。服は汚れていたし、足には擦り傷があった。
ただ、何をしていたかは思い出せない。
お父さんにはどこに行っていたんだと叱られ、お母さんには怪我のことを心配された。
私は怖くなって泣いてしまった。
それから数日してからだった。私の体に異変があった。それは聞こえるはずのない声が聞こえてきたことだ。
(すいません~話を聞いて下さい)
(誰?あなたは誰なの!)
(私ですか?あんまり覚えてないんですけど、名前は確かあやです)
(あやって私が彩よ!)
(えっ偶然ですね~)
(その~あなたは私なの?)
(そのへんがはっきりしないんですよね~)
これがもう1人の私、あやとの出会いだった。
もう1人のあやは記憶をなくしているようだった。
きっと私が生み出したもう1つの人格に違いない。うんきっとそうよ。なんかほらカッコいいじゃない?もう1人の私っていうの。
(プライベートは覗かないって言ったでしょ)
(そう言われましても、ほら私たち繋がっているじゃないですか?)
(寝ててっていったでしょ!)
(でもまだ、そんな時間でもないですし~)
ともに暮らしてわかったことはあやは言うことを聞かない。
あの時も…
(そこ、間違ってますよ)
(えっ)
漢字のテスト中のことだった。彩は自分の答えを見直したがそもそも間違っていることすらわからなかった。
(あや、これわかるの?)
(なんとなくですけど)
なぜ、自分に解けない問題があやには解けるのか不思議だった。私の分身でしょ。おかしいでしょ。そんなことよりも。
(やって)
(はい?)
(分かるならやってよ!)
(私が解くのは問題あると思いますけど…)
(ないよ。だってあなたは私なんだから)
(そう言われましても…)
(あーもう早くして)
「そこまで」
無情にもテスト終了の合図が来てしまった。
宿題も代わってくれない。お母さんに手伝いを頼まれたときも代わってくれない。あやはいつも見ているだけだ。たまに口だしするけど…とにかく面倒なことを代わってくれようとしてはくれない。
あやは基本的には表に出てこない。その気になれば私の体を自由に使えることは知っている。
それはあの時…
(完全に迷子ですね~)
(呑気なこと言うな~私が迷子ならあんただって迷子なんだからね!)
引っ越した先、馴れない道で私は迷子になってしまった。辺りは日も沈みかけてしまいこのままでは夜になってしまう。
頼れるものはなにもない。
(やっぱりさっきの交差点は左でしたよ)
(もう帰り道わかんない)
彩はその場に座り込んでしまった。私もうお家に帰れないかしら?そう思うと涙がこぼれてきた。
(こういうときはですね、人に道を聞くとかして…)
(無理、知らない人なんかに声かけるとか無理!)
(仕方ないですね、私が何とかしましょう)
その時だった。不思議な感覚だった。体の支配権が奪われた。
目は見えている。しかし、手、足、声までも自分のものに思えなくなってしまった。
(着きましたよ)
気がつくと私の家の前だった。
(どうですか?感謝くれてもいいんですよ)
あやは自慢気だった。しかし彩には家に着いたこと安心感よりも体を奪われた恐怖感の方が大きかった。
(どうする気なの、私の体を乗っ取る気なの!)
(しませんよ。そんなこと)
あやは否定した。それでも私は怖かった。
(本当に?)
(本当ですよ)
あやは私が本当に嫌がることはしない。今までのことも全て私を思ってのことだろう。それに奪おうと思えばいつでも奪えたのだ
。そうしなかったのはあやにその気がないからだ。
(その…ありがとう)
(いいんですよ)
あやはもう1人の私は嫌なやつだけど、いいやつだ。
彩はそう思った。