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1人2役、ではなく1人2者  作者: 秋ルル
プロローグ
14/71

トイレ

そういえば雫のことについてはなにも知らない。

雫に、手を引きずられながらトイレに向かう途中聡はそう思った。

今は女の子同士?だが、雫は綾の中身が男だということにどう感じているのだろうか?

そもそも雫は桃花先輩とはどういうつながりがあるのか?

そうだ。まだ自分は雫とまともに話をしていない。


「雫先輩、ちょっといいですか?」


「ん?トイレはまだ先」


「トイレのことはいいです」


聡は思いきって聞いてみることにした。


「雫先輩は私のことどう思いますか?」


「ん?」


「その私綾ですけど、中身が聡なことについてどう思っていますか?」


一応昨日全ての説明をしているのだが、雫はちゃんと理解しているのだろうか?


「わかんない」


「えっ」


雫にはちゃんと伝わっていなかったのだろうか?改めてもう一度説明し直した方がいいのだろうか?


「そのどう思っているかぐらい…私その男ですよ」


「気にしない」


「そんな~」


目の前にいる女の子の中身は実は男でした。普通なら気味が悪いと思われて当然のことだ。桃花はそもそもそういう人に興味がある特殊な人間なので問題ないが、雫は普通だと思っていた。


そう普通に拒絶されるものだとばかり思っていた。ただ桃花に従順なだけで、桃花がいなければ自分も侮蔑の対象になると思っていた。


「私考えるの苦手だから」


雫には人の言葉の裏を、言葉の真意を推し量ることができない。はっきり言ってしまえば社会不適合者だ。

幼い頃から冗談が通じない、話を全て信じこんでしまうきらいがある。

そのおかげで友達と呼べる人が誰1人いなかった。


「人の言葉は嘘ばっかだけど桃花は違うから」


雫にとって桃花との出会いはまさに僥倖であったといえよう。なぜなら桃花は自分に正直過ぎるくらい正直なのだから。

雫が桃花に付き添う理由はそこにあった。


「私、その友達とかいなかったから、先輩って呼ばれて嬉しいから他のことは気にしないよ」

その顔は全てを受け入れる慈愛の表情だった。


全てを疑ってかかっていた自分が恥ずかしい。こんな小さな少女に心の大きさもなにもかも負けた気がした。


これ以上野暮なことを聞くのはよそう。少なくとも雫は自分のことを受け入れてくれている。それは桃花とは違うものだが、確かに雫自身の意思だ。


「綾、泣いてる?」


「すいません、少しこうさせて下さい」

そういうと綾はその場にうずくまった。


雫の言葉に感動したかった。でも違うこの涙は違うんだ。

なぜだ?なぜこのタイミングなんだろうか?ラブストーリーをみれば誰だって感動して泣きたいだろう。そんな時提出するはずだった資料の締め切りに気付き絶望に涙する。そんな感じだった。


綾は小さく呟いた。

「桃花先輩、時と場所を考えて下さい」


そうこれは綾の方の感情ではない、聡の方で行われているのが原因だ。


綾の魂の心配>雫の慈愛 という形になってしまった。


なんて不便な体なんだ。


「お腹いたいの?」

雫はこちらを見て心配してくれている。


雫先輩、いえ雫様。また今度エベレストモンブラン買って来ます。


聡はそう心に誓った。

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