橋の向こうは
***
「お兄ちゃん!!」
耳元で聞こえた叫びに飛び起きれば、そこは「外」だった。
栗色の髪をした少女…僕の妹が、泣きながら僕を揺さぶっていた。
「いた…いんだけど、どうした? 何かあったかい、沙耶?」
自然と、口から言葉が出てくる。
そう、僕がもといた世界は…ここだ。
「何かあったかい?って、そりゃあったよ!! お兄ちゃんは三日も眠ってたんだよ? 自転車で軽自動車とぶつかって、そのまま」
「え?」
「え? じゃないよ! 生きててよかったよー!! もう、バカ!」
僕を抱きしめたまま泣きじゃくっている妹に説明されながら、意識を失う前のことを思い出す。
確か、年配の家族の危篤を知らせに親戚中を走り回って…自転車で急いでいて、脇からの車に気付かずに…
ということは…もしかしたら、あのお年寄りは…
あの街は――
「――いやいやいやいや」
少しぞっとして、胸に手を当ててみる。
心音は、しっかり聴こえていた。
目の前の大切な家族のぬくもり、これは…「外」は、つまりは「生の世界」だったのか?
「沙耶、ごめん、大丈夫だから」
妹の頭を撫でながら、夢で見た雨の街を想う。
優しいパステルカラーの屋根の群れは、もう、遥か遠くに感じられた。
窓からは穏やかな陽の光。
さわさわとそよぐ風に、自らが生きている実感を満喫する。