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そんな僕の心が変化したのは、一軒隣のお年寄りが病死したのがきっかけだった。
この街には大きな病院もあるし、当然のように町役場から冠婚葬祭場、公園や湖もある。
学校やショッピングセンター、教会に寺院、何から何まで揃っていた。
街の「外」を除いては。
お年寄りは、僕と同じように、いつからかここに住民登録されており、先日、たまに話す程度だった僕一人に看取られて亡くなった。
彼は、最後にこう口にしたのだ。
「橋は、どこにあったやら」
――僕は、その瞬間、数年前に皆が昼間も雨の中街中を走り回って、外に繋がる橋を探していた姿を鮮やかに思い出した。
「橋は…」
答えかけた僕が握っていた彼のしわしわの手は、静かに白いシーツの上に落ちたんだ。
彼の死の翌日から、僕は独り、昼の街を歩くようになった。
橋が見つからないのは、数年前にわかっていた。
けれど当時、僕は、直接的には、橋を見つけることに参加していなかった。
皆が無いと言うなら無いのだろう。
だが、考察の余地はあった。
「橋」というものが、実体ではない可能性だ。
僕ら人間は、目に写るものを探そうとする傾向がある。
されど「橋」が、我々の概念の「橋」とは誰も言っていない。
ならば、と。
僕は、ぼんやり思考を廻らせながら、街を歩き続けた。