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――この街は、世界から隔絶されている。
いつか街の誰かが語ったその事実を、街の皆は既に知っていた。
いつからか街に「送られた」僕ら、街の住人は、この街の構造がどこか異様なことに気付いていたのだ。
どこまで歩いても街の外への路が見つからない、門すらない。
なのに何故皆は「見つからない」ことを知りうるのか。
それはつまり「外」という概念が皆にあったからに他ならない。
「外」を求めた人々は、いつしか疲弊し、家に籠るようになっていった。
「この街のどこかに橋があり、外へ繋がっている」という、誰かが語った噂話も、ここ数年で鎮火したらしい。
ゆえに、この時間に歩いている珍妙な住人は、僕くらいだった。
……僕も、街の人々同様、外があるという概念を持っていた。
しかし、僕が彼らと違ったのは、その概念があっても、あえてそれを求めようという気持ちが湧かなかったからだ。
降る雨はどこか優しかったし、街の造りは馴染んでしまえば悪くない。
いつからどうやってここに住んだのかすら解明できなくとも、過酷な環境ではなかった。
過酷な環境――そう、僕は何故か、それを知っていた。
だからこそ、この街のほうが平穏に思えたんだ。