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優しい雨
しとしとと、今日も優しい雨が降る。
止むことの無い雨は、慰めなのだろうか。
「誰も、いないな」
見渡せば、柔らかなパステルカラーの彩の屋根の群れ。
家々の窓は、どこもかしこも閉ざされている。
昼間だというのに、カーテンが開いている家は少ない。
「――まあ、仕方ないか」
僕は誰にともなく、呟いた。
この街には、毎日雨が降る。
夜明けに降り出して夕暮れに止む雨の街で、人々が空を見上げる時間は、確実に晴れる夜だけだ。
確かに、宵の月や星々は優しい――が、僕は昼間の、この生ぬるい雨も、嫌いではなかった。
音を立てず柔らかく降る霧雨は、隔たれたこの街に溜まることはなく、地中に吸い込まれて蒸発し、再び降ってくる。
それは、この「出口のない街」に世界との繋がりがある証拠ではなかろうか。
「橋は、どこにあるのだろうな」
興味半分、願い半分に雨に問えば、少しだけ視界が拓ける気がした。