第七・伍話 赤い果実の力
第七話と八話の間の話です。
鬼のイバラキと戦い、エルカードで入院してた時の出来事。
了は自室で、飯を食っていた。献立は五目御飯である。それをうまいうまいと言いながら食べていた。そして、ここでお茶が欲しいと考えたそのとき、病室の扉が開かれ人が入ってきた。。入ってきたのは葉月であった。
「見舞いに来たぞ、了、体は大丈夫か?」
「ああ、もう少ししたら、退院できるってさ。それにしても見舞いに来てくれるなんて、ありがとうね」
「…それはお前に助けられたし、一応戦った仲間だと感じたから…」
「そっか!ありがとね、仲間だと言ってくれてさ」
葉月の言葉に笑顔で返す了。葉月が仲間だと言ったのは同年代の友人が少なく寂しかったからだ。その了の言葉と笑顔に、了とムクに対しての罪悪感に襲われる。
葉月の心の内にある妖怪への憎しみは炎は了やムク、等によって少しずつ静まってきていた。だがそれにより過去の過ちが彼女の心を抉った。しかし、憎しみの炎事態消えてはおらず、この事で素直に謝罪することはできなかった。葉月は自分が嫌になった。
葉月が寂しいと言った感情を持っている事に不思議と思うかもしれないが、元々善良な少女であり、普通の感性を持った人間なのだ。それがある時に歪められ、大きな傷として残ってしまった。それが今の葉月である。過去は書き換えられないのだ。
了の言葉を受け、葉月が少し沈黙していると、バタンと扉が勢いよく開けられた。二人は驚き、目をやる。
「よーう、見舞いに来たぞーおら果物だあ」
大きな声を出し入ってきた者は菫であった。手には網に入った赤いザクロが入っていた。葉月や了にとってそれは見たこともない果物だった。了がザクロについて問いかけ、菫が偉そうに説明する。
「ふっふっ、これはだなあザクロと言った果物でなあ、美容にも良くおいしいものだァありがたく受け取れェ!」
菫は了にザクロを投げ渡し、頼み込んだ。
「なあ了、河童退治に付き合ってくんねーかな、あいつらまじイカレテてさあ」
「…迫水の事か、たしか戦いは菫が勝ったじゃないか。もういいだろう」
「えーもっと叩きのめそうぜ!」
「馬鹿な真似はよせよな…ん葉月?」
了は菫の話をいなしながら、葉月の方へ眼をやった。彼女は了が手に持つ、ザクロを凝視していた。
「なんだ葉月食いたいのか?」
「!違う、断じて違う。食べたらどういう味がするかなんて気になってもいないぞ!」
そうザクロの様に顔を赤らめ否定するが、了はザクロを渡し、食べる事勧めた。
葉月は貰ったザクロをじっと見つめる。赤く見たことも食べたこともない果実、そして菫の言う美容にも良いと言う言葉それが心を躍らせた。そして口へと持っていき食した。葉月は感動した。
「美味いぞッーなんだこれは!かなり気に入った!すごく気に入った!」
「「お、おう」」
二人は葉月の口から繰り出される言葉に少し引いた。菫が口を挟もうとするが言葉は止まらない。
「美味し!美味し!ザクロ美味し!菫はすごいなあッこんな果物知ってるなんて!!」
「そそれはだな、あー果物屋が勧めてきてそれで…」
菫が少し恥ずかしそうに、説明をするが葉月の耳には聞こえない。
「いやーしかしうまい!うまい!かなり、うまい!かなり気に入った」
葉月の人生、家族と居た頃は、貧乏で、あまりそう言った果物に縁がなかった、それ故にか甘味や食事などに対して興味が沸かず、舌もそうった食事に慣れてなかった。この事もあり、ザクロを食したことでザクロ感想暴走を起こしてしまった。
菫は葉月を無視して、了にまた見舞いに来ると伝え、病室を後にした。葉月も感想を口に出しながら退出した。残された了は何がなんや分からなかった。
「あ…服に」
菫が投げ渡したせいで、了が着ている白装束にザクロの赤いしみがついた。洗えば落ちるかなと了が心配していると、またも病室の扉が開けられた。
入っ来たのは看護師である。廊下を歩いている葉月の感想と口元から滴る赤い液体を見聞きし、何かあったのではないかと勘違いして来てしまったのだ。そして了を見た。
了の白装束に赤い染みがついていた。看護師は慌てて叫んだ
「きゃああああああ、だ丈夫ですか!?しゅじゆつしますか!?」
「落ち着いてくれよ!?これは血じゃなくて果汁!あとしゅじゆつじゃなくて、手術ね!」
了は慌てふてめく看護師を何とか落ち着せ何ともないと話し、病室に一人になり呟いた。
「…疲れたぜ…」