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夢幻のまち 塵箱世界  作者: つかさ
第一部 了、編
5/48

第五話日常と死

「痛い…痛い」


 殴る、蹴る。体が痛い。頭が酷く痛い。私は母親からの暴力に耐えている。


「ギ…ギ…ギギ」


 私はうめき声を上げ耐える。母は罵詈雑言を私に浴びせる。


―――


 人里には満腹屋という飲食店がある。内装は居酒屋の様。出す料理は和食がメインである。味もよく評判だった。管理所に所属してる者も通っている。焼き魚定食が人気。


―――


 今日の昼の満腹屋(飲食店)には仕事休憩などの人達が多く居た。しかし店の中心に余りにも大きな声で話す者達がおり、周りに迷惑をかけ居心地の悪い空間にしていた。騒がしくしているのは、大柄な男とその女であった。男の体格を見て注意する者はいず、余りの煩さからその周りに人は少ない


 それを見かねた店長が、暗い雰囲気を纏った女店員を呼ぶ。呼ばれた女店員の歳は15歳であるが大人びた雰囲気を纏っていた。

「何でしょうか」


「しみちゃんあの大きな声のお客さんたちに注意してくんない?」


「わかりました」


 しみと呼ばれた女店員は臆することなく、騒ぎ立てる男たちの席に近づく。


「お客さん他にも人がいるんです。少し声を小さくしてくれませんか」


「何だア、テメー客にケチ付ける気かよ」


 男は注意されたことに腹が立ち喧嘩腰になっている。連れの女はそれを見て笑っていた。


「ですから…迷惑だと言っているですよ」


「殴られたいらしいな」


 今にも喧嘩が起きそうな空気であった。その時、白いジャケットを着た黒髪の少女が、そばを食べながら割り込んだ。


「あんたたちの声の煩さにはみんな迷惑してんだ。そいつの言う通りな」


 そう言い目線をしみに向ける。その言葉に男はキレたのか、食ってかかる。


「テメェもやる気かッ」


 男は大声で威嚇する。周りの者たちは少し怯えた。しかし少女は怯まない。


「いいぜ、お前が這いつくばるだけだがな」


 言葉と共に殺気を含めて返した。殺気を受けた事により、動揺する男。


「…チッ行くぞ」


 男は殺気に怯え代金を叩き付け、店を出ようとする。体はでかいが小心者だった。


「待ってよ~今日またいつ会えるの~」


「7時半だ。さっさと行くぞ」


 連れの女も立ち上がり男にくっつく、男はイライラをまき散らしながら店を出た。


「その…ありがとうございました」


 しみは少女に礼を言う。


「気にするな。みんな迷惑してたしな」


 そう言い、席に座りそばのおかわりを注文した。


―――


 夜、6時20分、夜の人里は静かでった。 ほぼ全ての店は日が暮れるのと同時に店を閉める。

 満腹堂で騒ぎを起こしかけた大柄な男は仕事が終わり、家に帰ろうとしていた。


「疲れたぜ」


 仕事疲れもあるだろうが飲食屋での出来事も疲れに含まれていた。


ギ…ギギ…ギ


 男は不可解な音を聞いたが疲れからあまり気に留めなかった。そして自身のあばら家に入ろうとした瞬間。


<ファイター>


 この音ははっきりと聞こえた。男が驚いたと同時に何者かに殴られた。何とか反撃しようにも、相手は強く再び殴られ、男はたまらず自分の家の奥に逃げる。相手も家の中に入り、明かりをつけ、男を見据える。


「おお、おまえは」


「昼ぶりだな…」


 男は目の前の相手を知っていた。昼、自分と言い争った女店員でしみと呼ばれた人間であった。


「大声出すなよ…」


 しみはナイフを取り出し男に近づく。男は殴られた痛みと目の前の相手に対する恐怖と混乱で動けない。

「てめえぇ何でおれにまさか恨みを晴らすために!」


 男はつい声を上げてしまい指を切断されてしまう。男は苦悶の表情になった。


「大声出すな。昼のことは気にしてないさ、君を襲ったのはまあ偶然だよ誰でもよかった…そして今から殺す」


「なぜ…俺を殺すんだ…なんで」


 男は相手の言葉にただ困惑した。しみは無感動に話す。


「それはまあ色々理由があるんだけど…君には関係ない」


「…何かあるんだろう。わけを言えもしかしたら力になれるかもしれん」


「何それ新しい命乞い?…」


「違う。こんな事するんだ…よっぽどの理由があるんだろう。もしかしたら力に…」


「そうかな…そうかな…」


 そう言われ少し考える。男は何度も力になると訴えた。男の言葉にしみは折れた。男は笑みを浮かべた。

 男は家に備え付けてある時計を会話の中で見たのだ。今現在の時刻は6時40分。連れの女が来るのは7時半だ。話を聞くことで、連れの女が来るまでの時間稼ぎを狙ったのだ。


 女が来ることでこの状況を周りに伝えられる。そうともしらず、しみは話始めた。


「私の家は貧困であり、なおかつ母は私によく暴力をふるっていた」


「どんなふうに」


 男は少しでも話を長引かせるため口を挟む。


「何度も木の棒で頭を叩かれたり、寝ている時は頭を踏まれたり、ゴミや虫を食わされた時もあるな…やっぱ私の母はいかれているな…」


 虐待の日々を思い返し、しみは乾いた笑顔を浮かべる。


「なぜそんなことを?」


「たぶん、イライラやストレスでしたんじゃないかな。私を殴る時は楽しそうにしてたし」


「旦那は止めなかったのか」


「いないんだよ。母は売春婦で私はそれにより生まれたんだと」


 時計の音がカチコチと鳴っている。


「生んだ理由は分からないけどね。…もしかしたら母親になりたかったのかな。いやありえないか」


 しみの目は虚ろであった。男はチラリと時計を見る。時刻は7時丁度。


「私は毎日母からの暴力に耐えていた。人に言おうとしたがもしかすると母が優しくなってくれると考えて言えなかった。だから耐えた。しかし私の母は私のうめき声を聞いてまるで、虫の鳴き声みたいだと言ったんだ」


 男は話を聞きながら早く時が過ぎるのを祈っていた。時計の音が聞こえる …


「ある日、私が暴力を受けて頭から血を流し倒れている所を母の客が見つけ、医者に連れて行ったらしい」


「その後はどうした」


「その後は今人里にいる教師の一人に預けられ、母から私を離した」


「良かったじゃないかそれで…」


「…母との生活から離れることで、私が知りえなかった常識や優しさを知った。親は子を傷つけない、そんなこともな。それにより私は母に対して怒りを覚えた。そして行動に移った」


「母を殺そうとしたのか」


「そうだ。だが母が少しでも私に謝ってくれれば全てを許すつもりでもあった。私は少し大きくなり、再び母に会った…母は私に対して罵詈雑言を浴びせた。昔から何も変わらなかった…だから私は首を絞めて殺した。その時こう思ったよ、ようやく私の、私だけの人生が始まると。…しかし違った」


「違った?」


「次の日、私は教師の下から離れ、一人暮らしを始めた。しばらくして酷い頭痛と幻聴に襲われる様になった。しかも頭痛の箇所は母に酷く殴られた所だし、幻聴も母の声だった」


 そう言いながら頭をかく。


「はじめは、病気か何かと思い診療所に行ったが、何もなく。寺にも行ったがやはり何もなかった。だから我慢することにしたんだ」


「だけど駄目だった。頭痛のせいで虫の様なうめき声を上げるは、人の声が母の罵倒に聞こえてしまう。どうしようかと思ったよ」


 男はしみがうめき声を抑えながら話しているのに気がついた。


「私はそれでも生きようとしたが、ある日目の前が真っ暗になった。そして目覚めると目の前には死体があった。私の手には斧が握られていた。そして頭痛と幻聴は収まっていた」


 その言葉に男は恐怖を感じ冷や汗をかいた。


「私はとりあえず自分が疑われぬ様、力を使って死体を隠そうとした」


「力だと…」


 しみの言葉に男はあっけにとられる。


「私は超能力者でな、母を殺したとき目覚めたものだ。能力は物を隠すことができる」


 しみはハンカチを取り出し、ナイフにかぶせた。するとナイフは消え、ハンカチを振るとナイフが現れた。


「話を戻すか。しばらく経つと頭痛と幻聴がやってきた。そして限界がきた。意識は消えそしてまた同じ光景が広がっていた。頭痛も幻聴もなかった。その時分かったんだ、自分がやったことに・・・母から与えられたモノは誰かを母に見立てて殺し抑えるしかないと」


 男は再び時計を見て、希望を持った。

 現在7時15分…カチコチ…


「そして、気づいてしまったんだ。私の人生は過去の呪縛で滅茶苦茶になっていることに。そしたらさ、とても辛くて…悲しくて…どうしてこうなっちゃったんだろう…」


 しみは涙を浮かべている。男はしみを諭す様に話しかける。


「そうか。でも殺されて奴らは」


 男は何とか話を長引かそうとしたが、遮られた。ナイフが首に刺さっていた。男から血が溢れる。


「確かにその通り。でもね私は幸せになりたいの、過去の呪縛が消えてなくなるまで生きて幸せになってもう苦しまずに生きたい」


 何度も何度もナイフで男の体を刺す。男が絶命する瞬間に見た時計は7時20分だった。

 …カチコチ…

 時計の音と肉を斬る音が部屋に鳴る。


 部屋には滅多刺しなった男の死体とナイフを持ったしみが佇んでいた。


「聞こえなくなったか」


 しみは自身の体が正常になった事に安堵した。そして部屋をあさり服を取り出した。それを死体にかけた。そして剥がす、すると死体は消えた。血も同じようにして消した。


「ありがとうございました」


そう言い家から出た。家には誰も居なくなった。


―――


その帰り道、しみは家への道を歩いていると声をかけられた。


「しみさん」


「あんたか…あとじ」


 目の前には、黒いジャケットに白い髪をした美しい少女がいた。少女は笑いながら近づいてくる。


「いやいや、どーもどーもひさしぶりですねー」


 ニタニタと笑い、しみにボディタッチをする。しみはそれを払う。


「何の様だ」


「いやーちょっと確認ですね。あなたに渡したエルカードどうです?」


「ああ良かったよ」


 そう言いながら懐からカードを取り出す。カードにはファイターと書かれていた。


「それはファイターといって格闘能力を与えるものですから、女の貴方でも男の人を倒せますからねー」


「…」


 あとじとはしみが二回目の殺人をした帰り道に会い、その時にエルカードを貰った。


「エルカードはたくさんありますからねぇ。他に欲しいものがあれば言ってくさいねぇ」


大量のエルカードを見せびらかす。しみはあとじに尋ねる。


「ない。あとじはなぜエルカードと呼ばれる珍しい物を持っているんだ」


「それはですねぇ私が作っているからですよぉ」


 そう話しながら愉快に笑いその場で踊る。しみはあとじがなぜこんなに笑っているのか分からなかった。そして、そんなあとじが何故自分に渡したのかわかないため、尋ねる。


「初めて会った時は嘘だと思い聞かなかったが、なぜ私に渡した」


「エルカードは可能性であり、何とか人生前に進もうとする者に渡す物であり、それを作り渡すのが私の役目です」


「…お前は人か?」


 あとじは問いかけに笑いながら否定した。


「ざんねん違います。私はこの世界の無限の代行者。だからエルカードを生み出せます」


「おまえみたいのが他にもいるのか」


「役目を果たそうとしない子がいますね。それ以上は内緒」


 あとじはしみの目の前に行き、自身の口に指を当ててる。しみは無表情で、気になることを尋ねる。


「他にカードを与える基準は?」


「面白そうな人に与えていますね~」


「なるほどな、カードを与えるのは自分が楽しみたいためか」


「まっそうですねぇ。貰った側は力を得る。私は与えた奴がどんなことをするのか楽しむ。両者お得ですねぇ」


 ニタニタ笑いしみの周りを回る。しみは自分の家の方向を見て、あとじに顔を合わさない。


「そのカードは役に立っていますよねー」


 しみに近づき、あとじは横顔を凝視しながら問う。


「…ああ」


 しみは目を合わさない。あとじは答えを聞き満足したのかゆらゆらと体を揺らし、離れた。


「なら良いじゃないですかー」


「そうだな」


 しみはそう言い捨て家の方へ歩き出す。


「頑張って幸せになってくださいよー」


 あとじは何処からかエルカードを取り出し、発動した


<インフィニティ> 無限を司る。

<タイム> 時間を司る。


「…」


 後ろからあとじの声とエルカードの音声が聞こえ、振り向くが誰もいない。夜の道にはしみしかいなかった。


「…そうだ。私は幸せになるんだ。過去から解放され幸せな人生を…」


夜の道を一人歩く。


―――


翌日 

人里、昼、満腹堂と書かれた飲食店にて

 昼の飲食屋は多くの人で賑わっており、様々な声がいきわたっている。しかし耳障りという大声は無いほど良い空気だ。


「すみませーん」


「はい」


 女店員しみは客に呼ばれ注文を取りに行く。


「あ、あの時の」


「やあ、あの時の店員さん」


 注文したのは白ジャケットの黒髪少女であった。


「あの時はありがとうございました」


「だから気にすんなって。そば頼むよ」


「わかりました…それは?」


 しみが見たのは机の上にあった雑誌であった。


「む。ああこれ、こういうの読むの好きでね、よく買ってしまうんだよ」


「何か面白いことでも?」


「これなんだよ」


 そう言い記事の一つに指さす。そこには{行方不明!神隠し!!奇怪!!!}と昨日襲った男の家の写真があった。


「恐ろしい話だな」


「…そうですね」


「しみちゃんちょっと--」


 店長が話しているしみをたしなめた。しみは申し訳なさそうに厨房に向かう。


「すみません、では…」


ギ … ギ …  ギ …


 どこかで虫の泣き声がした。   彼女の人生はまだまだ続く。

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