第三十ニ話 夕暮れの分かれ道
ミヅクに関しては第ニ話をご覧ください。
葉月は診療所で治療を受けていた。前回の戦いで大きく負傷した、顔半分に大きな火傷、それにより片目が機能せず。又それ以前の闘いでも片耳も消失。
体には傷跡が目立つようになっていた。かつての葉月なら、ミヅクや、カマイタチの霊薬の力で傷は無くなっていたが、戦いに戦いを重ねた今では、生命力が乏しくなってしまったため、回復は困難になってしまった。
霊力や霊薬での治療は本人の生命力に比例する。しかしその生命力は使えば使うほど失っていくものである。
今の葉月は大きく力を落としていた。
「…店では働けないな…」
葉月は手鏡を持ち、顔見る。顔半分は包帯に覆われており、中は見れないが、火傷の跡がある。治る見込みは今のところない。彼女は顔の怪我で驚くほど大きく落ち込んだ。
かつては、顔に怪我ぐらいなんてことはないと彼女は思っていたが、アサキシとの戦いから平和な五年が葉月の心に変化をもたらしてしまった。
平和なときであれば、剣を捨て、女として生きる事の一歩として葉月は変化を受け入れられたが、今は大変なさなかである。彼女は今、顔の事を気にする心の変化に少し煩わしく感じた。
そんな風に一人考えていると、病室にミヅクが入ってきた。
「体の調子はどう?」
「ええ、問題ないです。あのミヅクさん、暦はどこに居るか分かりましたか?」
「ごめん、分からなかった。すまない」
「いえ…」
暦は前回の戦いから姿を消してしまった。葉月は暦の事を考える。
(思えば、私が主犯と思わしき少女を殺し、暦に駆け寄ったとき、彼女はひどく唖然としていた。
怪物を操っていたのが年若い少女だったからだろうか?私自身、子供をこの手で殺すなど夢にも思わなかった。)
あの時の葉月の行動は暦が襲われると思い、無我の境地でやった事だ。殺した後葉月は死体を見て、心の奥底からおどろおどろしい感情が湧き出た。
暦は診療所で働くにつれ、過去の狂気から少しずつ抜け出し、良く外に出かけていた。それらを知った葉月は嬉しかった。彼女は昔の暦に戻るかもしれないと期待していたのだ。今いないこともそれなのかと
考えていると、眠気が葉月に襲ってきた。彼女は眠気に身を任せ、ベットに横になることにした。
―――
「っ!?」
朝、葉月は酷い頭痛によって、眠りから覚まされた。その頭痛は破滅の予兆によるもので、頭の中に幻想花畑が現れた。その場所に騒動を起こしている者が居ると痛みが教えた。
しかし、頭痛が起こったということは、すでに事件が起きていると言う事である。そう思う葉月、体の痛みに耐えながら、刀や防具を装備し、辺りを徘徊する。
「やけに静かだな…」
診療所や人里は驚くほど静かであった。、人々が眠った様に動かないのである。これはおかしいと葉月は管理所にいる菫に会ったが彼女も眠っていた。この眠いの世界で起きているのは自分だけと残された葉月は考えた。
もし、このままずっと葉月意外の者が眠り続ければ、化け物が現れるまでもなく世界は滅びるであろう。
これをすぐさま、解決するため、彼女は幻想花畑に向かった。
―――
葉月は幻想花畑に着いた。視界いっぱいに花々は咲き乱れ、迎え入れてくれた。その花畑の中心に立っている者が居た。それは青いリボンを付けた帽子をかぶる少女、暦だった。
行方知らずになっていた暦が居ることに驚き、彼女は声をかける。
「暦!どうしてここに、いままでどこにいっていたんだ!」
「ごめんね、葉月。心配させて、ちょっとアズと一緒に行動していただけさ」
「何だって!どういうことだ!?」
その言葉に葉月は動揺した、暦の口からアズの事が出てきたからだ。彼女は話始めた。
「今、夢幻のまちに訪れている眠りは私の力、幻覚を操り起こしている事よ」
「嘘…だよな」
「嘘じゃないわ。本当のこと…」
「どうしてこんなことをするんだ…」
そう震え声で暦に尋ねた。友人が敵だと信じたく無かったからだ。葉月の問いかけに、暦は俯きながら剣を構える。
「それは、戦ったら教えてあげるよ!もし戦わないと言うなら世界は滅びるだけだけどね」
「…クッ」
葉月は沈痛な面持ちで刀を構え、エルカードを発動した。
<アサルト><ハート>
「戦ってくれるのね…」
暦は呟き、向かい、死角となる場所に斬りかかった。しかし葉月はそれを読み、切り返す。敵が自分を見て、死角を狙ってくると事前に考えていたからできた行動だ。しかし敵が暦だとは考えられなかった。
刃と刃はぶつかり合い、鍔迫り合いの状態になる。双方、相手を倒すため、力を出す。
そんな中、暦が話しかけてきた。
「本当なら、今の状態からでは葉月が押し勝つのに怪我のせいで、大変だね!」
「グゥウゥ…」
それは本当のことだった。エルカードなしでも本来の実力差は葉月の方が上だ。しかし、戦いによる負傷と疲労に、相手が暦であることが葉月の力を削いでいた。
もし葉月が万全の状態で相手が暦でなければ、鍔迫り合いから、そのまま刀ごと相手を叩き切れた。
「暦、!なぜこんなことをする無意味だ!」
「そうね、無意味ね……でも私がやりたいことなの…ッ!?」
暦が話している最中に葉月は刀を少し引き、暦の腹部目掛け、蹴りを放つ。彼女は突如の事で反応することは出来ず、そのまま蹴りを喰らい、体勢を崩してしまった。体勢を崩した暦を狙う葉月。
「……クソっ!」
しかし葉月は隙が出来た暦を刀で斬れず、拳で殴り飛ばした。彼女は殴られ地面へ転がり、離れる。そして地に倒れる暦に追撃を行わず、尋ねた。
「教えてくれ…どうしてなんだ!?」
「前、葉月が殺した女の子、私の友達だったんだ……」
「…え……」
地に倒れる暦の口から出た言葉で葉月の頭の中が真っ白になった。暦は剣を杖に立ち上がる。
「あの子が、あんな事をしたのはこの世界が嫌になったから…さ。私もそのことに最後の最後で気づいたんだけどね」
「そんな嘘……」
「全部本当だよ、葉月。……嘘だったらよかったね」
「……だけどその子は人を殺してた。傷つけた」
「……そうねでも」
その言葉とともに、暦は葉月の顔を見た。葉月は泣き出しそうな顔になっていた。
しかし顔半分は包帯によって見えない。そのわけは暦は知っている。葉月の顔半分は幸子によって、大やけどを負い、衆目に晒すことが出来ない様になってしまったからだ。
その他にも服や包帯で隠れてはいるが怪我あることも知っていた。
暦はそれを見て思わず泣きだしそうになった。友人が友人によってこうなってしまったから。
しかし心を痛めながらも、言葉を発する。
「…あの子も周りの人に傷つけられていたんだ…だからさ幸子が出来なかった、世界を滅ぼすことをしようと思った」
「……それがお前の戦う理由なのか」
「……それは言えない。さあ!葉月私と戦え!世界を賭けて!」
「私は……」
「守りたいものは無いのか!いや、あるだろう葉月!」
「……」
その言葉で葉月は再び構え直し、暦を見据えた。暦も刀を構え葉月を見据える。
「ハア!」
「!」
暦は、霊力を帯びた札を投げ、葉月に向かって駆けた。札の力は、もし当たれば瞬時に昏倒するものだ。
しかしそれは葉月も知っている事だった。葉月も彼女同様に札を投げ相殺し、向かい来る暦を迎撃するため、刀に霊力を込める。
刀は光り、電流を帯びた。しかし暦はそれを見ても怯まず、突撃。そして、二人は互いの刀の間合いに入った。
「ヤア”ッーーーーー!」
先に仕掛けたのは暦だった。首を狙い、刃を走らせた。その瞬間、彼女は自らの力を発動。
これにより葉月の目には暦の攻撃が分裂したかのように映った。通常の幻覚ならすぐに葉月に破られてしまうが、緊迫する居合の刹那に力を発動させることで、僅かな隙を発生させることを狙ったのだ。
しかし、
「ゼアッーーー!」
暦の攻撃は葉月にとって迎撃可能なモノだった。金属音が鳴り、暦の刀は遠くへ飛ばされた。暦は刀が手元から離れ、茫然としていた。葉月は戦闘の意思を解き、問う。
「…これでどうする…」
「こうするッ!」
「!?」
彼女は戦う意思を解除する瞬間を狙い、葉月に抱き着いた。そして、自身の服に仕込んである札と超能力を発動させた。葉月は札と超能力によって、酷い幻覚と強い痛み、吐き気に襲われた。
「ギゃウ!?」
意を突いた暦の攻撃を彼女は防ぐことは出来ず、地に膝から崩れ落ちた。しかし瞬時に隠してある短刀を取り出し、暦を狙おうとした
「……あぁ」
「……え?」
が何もせず気絶した。暦に対して何もしなかった。葉月は友達を斬ることは出来なかったのだ。
―――
暦はその行動を見て葉月から離れた。
「優しいなぁ葉月は……ごめんね」
そう告げると、暦はある者の名を呼んだ。
「ミヅクさん、終わりました。出てきてください」
「……そうか」
暦の言葉に茂みから、刀を携えたミヅクが現れた。ミヅクは二人の戦いを隠れて見ていたのだ。彼女は刀を抜き、暦に近づき声をかける。
「もういいのか」
「ええ……葉月とミヅクさんには本当にご迷惑をかけました」
「私の事なんかいいんだよ……暦、本当に良いのか」
「はい、大丈夫です……」
「……ならば、約束を果たそう」
暦は座り込み、ミヅクは暦の首を狙い、刀を構える。
「……痛みは無い」
「ありがとうございます」
目を閉じ、そっと開いた。目の前には古くからの友達、葉月が寝ていた。
「葉月、私と友達になってくれてありがとうね」
そして再び目を閉じ、ミヅクにお願いしますと伝えた。その言葉で刀を首に目掛け、刀は首を切断し、暦の頭は胴体から離れ、どすんと音をたてて、地に落ちた。
首からは鮮血が垂れ、草花を赤く染めた。ミヅクはすぐさま、霊力を使い血が流れ出るのを止めて、暦と寝ている葉月を担ぎ、診療所に向かった。
診療所の手術室にて、そこに眠る葉月と暦の死体が隣り合っていた。ミヅクは手術服に着替え、向き合う。
「今から、葉月への移植手術を行う……」
そう呟き、手術に取り掛かった。 … 彼女は事の始まりを思い出す。
それは、葉月が目覚める前の事だった。
「……いつの間に眠っていたんだ」
ミヅクは自分が眠っていたことに気付かず、椅子から立ち上がり、葉月たち、怪我人の容態を確認するため、病室を訪れる。
「ご容体はいかがですか?」
病室に入り、声をかけるも、一向に返事が返ってこない。不審に思っていたが、眠っているだけと気づき、看護師たちに起きたら、容体を伝えてくれと勤務する看護師たちに伝えようとするが、その看護師たちも廊下や、病室で、すやすやと眠っていた。
看護師を揺さぶり起こそうしたが、目を覚まさず、しまいには軽く水をかけたが、起きなかった。奇怪な眠りに困惑した。
「どういうことだ!?」
異常事態と分かり、診療所を出て、人里の通りに出る。通りには人々が倒れ眠っていた。誰か目覚めている者はいないかと声を上げたすると、近くから声が聞こえた。
声の方に振り向くとそこには暦の姿が。
「こんにちわ、ミヅクさん」
「暦!?どこへ行っていたんだ!いやそれよりも平気か!?」
「ええ大丈夫です。なぜならこの眠りの騒動は私が起こしたものですから」
「何だと!?一体どういうつもりだ」
「そのことは診療所内で話します。…別に暴れたりしません」
そう言うと診療所の中に入っていた。その言葉に何がなんやらと頭を押さえながら、暦の跡についていく。先に入った彼女は診療所内にある待合室に座っていた。ミヅクは暦の正面に座り、わけを尋ねた。
「なぜこんなことをしたんだ……」
「それは……」
暦は幸子との出来事にアズの事。そして、今までいなかったのはアズに会いに行っていたからと、話した。話を聞いた彼女は俯いた。そして本題を話始めた。
「私が世界に害する行動をとるのは、葉月と戦いたいからです」
「幸子の復讐のためか?」
その言葉に彼女は首を振って否定した。
「違います。私は葉月の命を奪う気も、世界を滅ぼす気もありません。しかし、葉月に対してわずかながら、どうしようもない怒りがあります。それで戦いたいのです」
「それでか、世界の駆け引きなしで、伝えればいいじゃないか」
「それ無しでは、私が葉月に戦えと言っても彼女は相手をしてくれないでしょう」
「…戦って何を望むんだ。幸子の件は葉月が悪いわけではないだろうに」
「それは分かっています。葉月は決して悪くない。だけど……」
「どうしようもない怒りか……」
「はい……」
「……この夢幻のまちの眠りはいつ解けるんだ」
「…‥安心してください。私が死ねばみんな眠りから覚めます」
「お前は一体何を…望んでいるんだ?」
暦に疑問を呈した。暦はミヅクに対し、土下座し頼み込む。
「お願いがあります。戦いが終わっても、私が生きていたならミヅクさんが私を殺してください。もし葉月が私を殺そうとしたのなら、その前に私を殺してください」
「……どうしてなぜそんなことを頼む。何故私が殺さねばならない。戦いの後自殺すればいいだろう」
「自殺じゃ解けないんですよ……」
「……巻き込まれ、残される葉月が可哀想だ」
「葉月には迷惑ばかりかけます。だから、私の遺体から皮膚など使える物を移植し彼女の体を治してあげてください。お願いします」
「もういい……顔を上げてくれ」
暦は立ち上がり、ミヅクを見る。ミヅクも相手の顔をじっと見つめた。
「昔から、封魔のときから私に迷惑かけるなぁお前は……」
封魔の時代、彼女は葉月と暦と行動していた時のことを思い出した。その時の暦は生きる気持ちを持っていた。だけども今は。
「本当にごめんなさい。封魔の時から迷惑ばかりかけてしまって。でもこれで最後です」
「…本当にそんなことを頼むのか、おまえは生きたくないのか?」
「…私は生きることに疲れてしまいました」
「…」
乾いた笑顔をミヅクに向けた。向けられた彼女はその笑顔が直視できず、天井を見上げた。
「…その頼み事聞いてやる。封魔の時から知っていたしな」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
「…バカだよお前」
「私は狂人です、損だとしても馬鹿なことをしてしまう狂人なんです」
そうして、暦は葉月との戦いに臨んだ。
―――
「手術終了」
葉月の怪我や目などの移植は無事終了し、ベッドへ移動させるため看護師たちを呼んだ。看護師たちも眠りから覚めており、ミヅクを手伝う。ミヅクは白衣を脱ぎ、自室へと戻り。
「……悲しいなあ、悲しすぎる」
葉月と暦のことを思い、俯いた。
―――
夕暮れ時、少女葉月と暦が田んぼ道を歩いていた。刀を携えておらず、和気あいあいと話をしていた。
「葉月、月に行ったりしてたんだ、いいなあ」
「今度一緒に行ってみないか暦と阿藤さん夫妻やミヅクさんも誘ってさ」
「うん!」
そんな風に話していると誰かが駆け寄ってきた。暦は知っていたが、葉月の知らない人であった。暦はは葉月に紹介する。
「この子は幸子ちゃん。私の友達!」
「初めまして、幸子です。その節はご迷惑をおかけしました」
「?、私の名前は葉月だ。よろしくな」
「ところで、幸子ちゃんどうしたの?」
「暦さんのお母さんとお父さんが、心配してどこに居るか私に聞いてきたの」
それを聞いて、暦は慌てた。
「やっばい門限あったんだ」
「そうかなら早く帰らないとな」
「うん。じゃあ幸子ちゃん行こうか!」
「は、はい!」
二人は葉月から離れ駆けていく。残された彼女はそれを目で追っていくと、暦が振り返った。
「私、葉月達に会えて本当に嬉しかった!」
「私もだ。私も、暦たちと会えて良かった!」
葉月は暦の言葉に大声で返した。それを聞き、暦は満面の笑みを浮かべて告げた。
「さようなら!」
… そこで夢は覚めた。
「暦…」
目覚めた、葉月はミヅクに暦の事を聞き、涙を流した。




