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夢幻のまち 塵箱世界  作者: つかさ
第三部 滅びの去来編
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第三十一話 悲しみと悲しみと痛み 後編

 暦と幸子はいつもの様に幻想花畑に来て仲良く話をしていた。夕暮れ時になり、帰ろうかと暦が提案すると幸子が話をしてきた。彼女の顔はどこか悲しげだった。


「ねえ暦さん、暦さんは過去につらい経験をしたことは、ありますか?」


「…あるよ、そのせいで少し生きづらくなっちゃった」


 その言葉に帽子を深くかぶり目を隠す。親が死んでいることは暦の心の奥底では分かっていた。が、それを認めたく無く、幻覚に狂うことに暦はしたのだ。つらい現実を乗り越えるために。


「…それって、この世界のせいですか?」


「?…まあそうだね。…この世界に妖怪が居なければなぁ」


 幸子の質問に、そう答える暦。しばしの間、二人に静寂が訪れ幸子が口を開いた。


「私はこの世界は可笑しいと思います」


「え…」


 彼女の言葉に驚き、顔見る暦。幸子は夕暮れの空を眺めていた。辺りは花びらが舞い、それに夕暮れの光が当たって幻想的な風景を作り出していた。


「だってそうでしょう。この世界には不思議な力が存在する。なのに、誰かを思いやる気持ちや優しさが無いですもの」


「そんなことはないよ」


「そうですか? …暦さんは誰かのせいで辛くなったのでは?」


「……」


 暦はその言葉に思わず口を閉じた。暦の人生は誰かによって歪まされたのは事実で否定は難しいかった。幸子の話は続く。


「私、嫌になりました」


「な、なにが…」


「…この世界で生きる事。もっとやさしい世界で生まれたかった」


「……」


 幸子はそう告げ、一人で去っていく。暦は追いかけることも出来ず、ただ立ち尽くした。


―――


「ギャアアアアアア」


 昼の人里で、ある少女達が、突如現れた化け物に殺された。化け物は赤黒い溶岩の様な姿。

 それが、複数も人里で暴れていた。化け物達は物を取り込み、徐々に体を大きくしていく。

 この化け物出現に際、葉月に頭痛が走ったことから破滅の化け物と判断し、葉月たちはすぐさま、現場に向かった。

 しかし化け物は複数存在したため、葉月と菫では足らずミヅクや暦も駆り出された。


「チィ!」


 葉月は化け物に斬りかかったが、剣は粘土を斬った感覚を葉月に伝えるだけだ。化け物の体は刃による攻撃が通ず。化け物は体をよじらせ反撃し、葉月の顔の半分に火傷を負わせる。


「ギィイイイイ」


 だが葉月は何とか火傷の痛みに耐え抜き、戦う意思を見せたが、共に戦っている菫が諫めた。


「この化け物はお前じゃ無理だ、下がってろ!」


「だけどッ!」


「私が、大装着すればいい話だ。あれなら、化け物どもを塵に変えることが出来る」


「あれを使えばお前!命が危険だ!…グオォ」


「どうした!?」


 化け物を前に葉月が、突如頭を押さえうずくまった。菫は驚き、葉月を抱え化け物から離れ声をかけ安否を確認した。声をかけられた彼女は問題ない、とよろよろと立ち上がった。菫は葉月の行動に困惑した。


「どうしたんだ。いきなりうずくまりやがって!?」


「頭の中に、この化け物を作り出した者の場所が…映った…アズに与えられた能力が進化したのか?」


 頭を押さえながらそう話した。その言葉を今一信用できない菫。


「何ぃ!本当かそれよ!」


「真偽は分からないが、もし本当ならこの事件は解決できる。やってみる価値はある。…すぐに戻る」


「わかったよ!安心しな。こちとら一人で大丈夫だ」


 葉月はこの場を離れ、すぐさま目的地に向かった。


―――


「幸子ちゃんどこ…」


 暦は化け物が少女を殺したとの話を聞いて、もしや幸子も狙われているのではないかと心配になり、人里を駆け回った。しかし幸子は見つからない。何処に行けばいいかと思案する彼女に幻想花畑の存在が浮かんだ。

 今化け物が暴れており大変な時だが、そうとも知らず幻想花畑に居るのではないかと考え、すぐさま向かった。暗闇の森を駆け抜け、幻想花畑にたどり着いた暦。

 幸子は花々が咲き乱れる場所の中心に佇んでいた。


「幸子ちゃん!」


 幸子の無事に、安心し駆け寄る暦。その時、二人の間に今人里で暴れている化け物が現れた。化け物の体が花々を焼き焦がしていく。


「何でここに!?幸子ちゃんっ!」

「……」


 幸子に逃げるように促したが、彼女は動かなかった。暦はもしや恐怖で動けないのではないかと考えたが、幸子の言葉で違うとは分かった。


「大丈夫だよ暦さん。この化け物は私が生み出して、操っているものだから」


「え……」


 その言葉で暦の頭は真っ白になった。幸子の言葉は続く。彼女の顔は穏やかだった。


「私さ、苛められていたんだ…酷いこともされた。……家でも親にひどい事された。どこにも居場所がなかった」


「そんな……なんで言ってくれなかったの?」


 震え声で尋ねた。化け物が幸子の背後に回る。


「こんな事、友達には言いたくなかった。……どうしてこんなに辛いのかなって思っていると、アズという人が現れたんだ。その人がこの化け物を生み出す力を授けてくれた」


 幸子は背後にいる化け物に振り向き目をやる。暦は幸子が化け物を操っていると分かり、察した。


「もしかして、化け物に殺された人たちって…」


「うん、私をいじめていた子たち。…悲しいね」


「…」


「私ねずっと考えていたの、どうして世界は優しくないのかなって。私や暦さんも、今ある世界に傷つけられてとても悲しい思いをした。…だけどアズが力をくれて教えてくれたの。今ある世界を滅ぼして、優しい世界に作り変えてしまえばいいって」


「そんなの……」


「もう後戻りはできない。人を殺してしまっているから……」


 幸子の言葉に暦は泣き出しそうな声で叫んだ。


「……私が何とかしてみせるから!」


「……うぅ」


 暦の思いに幸子は耐えきれず、泣いた。そしてあきらめの境地の言葉を暦に伝える。


「もう終わった事なんだよ…暦さんとは早く友達になりたかったな」


 その言葉に化け物は暦の周りに出現し、取り囲んだ。


「私は暦さんを殺すことが出来るよ…もし今、私を殺さなければ、もっと多くの人が死ぬよ…だからねえ」


 化け物たちはゆっくりと暦に近づく、化け物の溶岩の様な体が花々を焦がす。しかし暦は逃げようとしなかった。


「私は嫌だ。友達が死ぬのも、誰かが死ぬのも……」


「……私もそうだったよ」


 言葉を発したそのとき、風切り音が聞こえた。


「え……」


 幸子に痛みが走り、彼女は自分の体を見る。心臓に深々と刀が突き刺さっていた。それを見て困った顔になり、地に倒れた。化け物は幸子が倒れた瞬間、煙となってこの場から跡形もなく消えた。

 幸子のもとへ、駆け寄る暦。体を抱きかかえるも返事は無かった。幸子は絶命していた。暦は突然の死に呆然とした。


「おい大丈夫か!暦」


「!?」


 暦は驚いた、良く知る声が近くから聞こえたのだ。声がした方から、走ってくる者が現れた。その者は、顔や手足にやけどを負い、鞘を携えていた。が、刀は収められていなかった。相手を見て愕然とする暦。


「葉月…どうして」


 現れたのは葉月であった。葉月は肩で息をしながら説明する。


「アズによって与えられた力で、此処の場所が示されてな。急いできてみたら、お前があの少女と化け物に襲われそうになっていた。だから助けた」


「………そう、ありがとう」


 葉月の説明に暦はか細い声で礼を言う。葉月は暦の態度に何か不安を感じ声をかける。


「?暦大丈夫か……」


「うん。……大丈夫、大丈夫だよ」


 葉月に笑って見せた。そして、何も言わなかった。


―――


 人里は化け物によって多くの被害を被った。ある者は子供を奪われ、あるものは店を焼かれた。

 誰もが悲しんだ。

 暦は今回の騒動で起きた死者を追悼する催しに参加せず、幻想花畑で、一人佇んでいた。

 花は焼かれたが、何も無かったかのように再生し、元の美しい景観に戻っていた。化け物など存在しなかった様に思わせた。


 佇む彼女は幸子とのやり取りを思い出す。そして独り呟いた。


「…どうして」


 暦の言葉をかき消すように、花びらが、舞った。



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